「…ただ、通りすがっただけ」
黒い人物はそっぽを向いて答えた。
ふーんと少女は頷く。
「それにしても貴方、異様な魔力の気配がするけれど…何者なの?」
黒い人物はハッとしたように振り向く。
「お前何でそれを…」
黒い人物がそう呟くのを見て、少女は笑う。
「分かるのよ、わたしには」
魔力の気配が、と少女は続ける。
「ただそれがあまりに異質だっただけで」
「それ以上言うな」
黒い人物は少女の言葉を遮る。
少女は驚いたように目をぱちくりさせる。
「…それ以上は言うな」
黒い人物はまたそっぽを向いた。
彼は言った「頑張れ」
ではなく
「大丈夫 なんとかなる」って
静かに君は呟いた
その深い目に吸い込まれそうで
「本当に…?」
思わず尋ねた
君は答えなかった
その代わり雑に頷いた
深い目を細くして笑っていた
こんなにも
言葉に出来ない想いが
詰まる
カーディガンを握りしめた
ととんととんと胸が鳴っていた
今年の冬はこの想いを
どうにかして。
金ぴかに吹き込んだ「愛してる」
もう言うことさえ許せないなら
言葉を塞いでみたい
寂れた痛みを包んで欲しい
それでも矢継ぎ早に吐き出されるのが怖い
広いとこで受け止めたい
不自由亡き愛はここだと
この心臓で受け止めたい
こんなもの抱えられないよ
もう無理だよ
延命措置は足りないの
貴方を削っちゃいけないから
でもそれでも私は
私の削り粕が零れてる瞳
あんまりじゃないかなって
瞬きもしんどいの
夜の心が溶ける時間を
待っていられないの
目も頭も時計も身体も
なにもまわらないから遠回り
夕焼けの残り火は街をぼんやりと赤く包む
その中の君は今にも消えそうに浮かぶ三日月のよう
「…よなら」
夜支度をする街の喧騒は君の言葉を見事に掻き消した
“逆光じゃ唇の動きも見えないじゃん”
僕はぎこちなく笑ってから返事をした
「また今度聞かせてよ」
“それまで…あと3日くらいは消えないでよね?”