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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 15.オーベロン ㉚

「…急に離れたりしてごめん」
でもあの時、本当の事を言ったら皆に止められそうだと思ったから…とネロはうつむく。
「まぁそんな事良いから」
続けて、と耀平はネロに言う。
ネロは静かにうなずいて続きを話した。
「アイツをどうにか説得して、人気のない所へ連れ出した」
そしてその場で復讐するつもりだった、とネロは言った。
「…で、そこにおれ達が辿り着いたと」
耀平はそう言いつつ腕を組んだ。
「…結局、耀平達に邪魔されたりして復讐はできなかった」
でも、とネロは呟く。
「ボク、アイツに復讐したい」
アイツから記憶を全部奪って、苦しませたいとネロは続ける。
「うーん」
耀平は背後の床に手をつく。
「復讐したってお前の過去は変わらないし…」
そもそも奴の異能力に勝つのは難しいし、と耀平は言う。
「そんな事は分かってるよ」
それでも…とネロは下を向く。

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怪學造物茶会 Act 5

それから1週間後の深夜。
小学校の立派な建物の前に、どこか異質なコドモ達が立っていた。
「ここか」
精霊が入り込んだ小学校ってのは、とナツィは正門を見上げる。
「そうよ」
ここが“学会”の表向きの姿…“玄龍大学”の附属小学校よ、とピスケスは言う。
「それにしてもさー」
ふと露夏が後頭部に両手を回しつつ呟く。
「なんでアイツら連れて来たの?」
露夏が斜め後ろに目を向けると、金髪のコドモとジャンパースカートを着たコドモが立っていた。
「それは思った」
ナツィはムスッとした顔で言う。
「おいテメェ、なんであの2人を連れて来たんだ」
ナツィがついて来た2人を指さしながらピスケスに聞く。
ピスケスはうふふと笑う。
「別にいいじゃない」
きーちゃんが行きたいって言うから、とピスケスは金髪のコドモに目を向ける。
「えへへへへ」
きーちゃんことキヲンは嬉しそうに笑う。

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Trans Far-East Travelogue㊹

兄貴達の姿が見えなくなってすぐ,嫁に「君,また勘違いしてるよ。まぁ,九州の人なら有明海があるから海と有明で有明海をイメージしちゃうか〜」と声をかける。
すると,嫁が「海で有明って有明海以外に何があるの?」と訊いてきたので「有明って東京だとお台場の近くのエリアの地名だよ。西日本に向かうフェリーの定期便の出発地さ」と返す。
すると「つまり,私が勝手に勘違いして怒ってたってこと?」と返ってきたので「そういうことになるな」と言って笑い返す。
すると嫁が恥ずかしそうな顔をしていたのでちょっと笑わせようとして謎かけを出してみる。
「両片想いだけど,お互いに意識して緊張しちゃってなかなか話を切り出せない10代の男女とかけて,有明から船で博多を目指す旅人と解く。その心は?」と切り出すと「バカな私には分からない」と返ってきたので「どちらも,こくらない(告らないと小倉をかけた)と遠回りになるでしょう」と言って正解を出すと嫁が一呼吸置いて「今の貴方とかけて,故・星野監督と解く。その心は?」と切り返してきたので「これほどまでにファンに愛されて幸せな男は俺以外にいないと自負しています」と少し照れながら返すと嫁がゲラゲラ笑いながら「次は、巨人軍とかけて,何と解く?」と訊いてきた。
そこで,「君への愛と解く。その心はどちらも,永久に不滅であります。」と返すと今度は嫁が照れながら「今の貴方とかけて,私と解く。その心は?」と返してきたので「大切なパートナーから浮気されずに愛され続け,それでいて自分のことを知ろうとして貰えるので本当の幸せ者です」と返すと「それは私のセリフ」と言って嫁が拗ねてしまった。
「可愛いヤツめ。これだから俺は君に首っ丈なんだぜ。さあ,帰ろうか」と声をかけると嫁も「私も貴方に首っ丈なんだからね」と言って笑いながら2人で寄り添って歩き出す。
明日,ついに俺は生まれ育った東京と暫し野別れを告げ、サンライズ号に乗り込んで四国・高松と徳島を経由して嫁の地元,福岡を目指してまた旅立つのだ。

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うちの七不思議:百八不思議

とある学校に伝わる七不思議。
その学校には、七不思議が大量にある。便宜上これを「百八不思議」と生徒たちは呼んでいるが、実際にはそれ以上とも、実は数十個程度ともいわれ、総数は誰も正確には掴めていない。
実際のところ、それら大量の怪談のうち大部分は生徒たちが即興で生み出したものであり、ただの作り話である。
しかし、この無数の怪談の中に7つだけ、『本物の怪談』が紛れ込んでおり、それら全てを『本物』だと認識した上で知ってしまった者には、死すら生温いほどの凄絶な不幸が降りかかるという。
だからこそ、その学校の生徒たちは日々、新たな『偽物の怪談』を作り出し、まるで本物であるかのように、なおかつ偽物だと全員が知りながら、語り継ぐのである。もしも『本物の七不思議』を全て知ってしまったとしても、「どうせ偽物だろう」と笑い飛ばして身を守るために。

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輝ける新しい時代の君へ ⅩⅥ

 翌日、少年は走った。
 公園へ、男のもとへ走った。炎天下、生温い風を全身に受けて走った。
 公園の入口に来ると、見慣れた緑色の服が見えて目を輝かせた。
「おじさん!」
 汗だくの状態でやってきた少年の慌て様を見て、男は驚いて思わず立ち上がった。
「どっどうしたの!そんなに急いで……」
「ぼくっ、ぼくっ……」
 息を切らして何かを必死に訴える真っ直ぐな瞳を見て、男は何か感じたようで、静かに微笑んで手招きをした。少年は歩いて男のもとに来て、俯いた。
「どうしたのかな」
「あの、ぼく……きのう言おうとおもってたけど、やだったから言わなかったけど……」
 少年は、ここに来る前、泣かないと決めていた。しかし堪え切れなかった。初めての大切な人との別れだった。
 言うことは決めてあったのに、口に出すと嗚咽が込み上げてきてなかなか進まない。
「……どうしたのかな、ゆっくり言ってごらん」
 男はかがんで少年と目線の高さを合わせる。すると、少年はゆっくり話し始めた。
「あの、お父さんの、しごとするところがかわって、だから、みんなで……ひっこすって。きのうの、きのう言ってて、どうしようっておもって、すぐしゅっぱつ……だから……いそいで来たんだ。さよならしに……」
 勇気を全部使って言った。声を上げて泣くことはしないが、涙は幾ら拭っても止まらなかった。
 あの時、もう会えなくなるのだと思った。
 距離的な問題とか、行動力の問題とか、そんな次元の話ではなくて、本当にもう男は消えてしまって、絶対会えなくなるんだと感じていたのだ。
 何故かは分からないが、どうしようもなく不安だった。別れを知らない少年には、底知れぬ恐怖だった。
 男は深く溜息を吐き、ふっと微笑を湛えた。
「大丈夫。会えなくても、しっかり強くやっていくんだよ」
「はなせないのやだ」
「大丈夫だって。これから君は、もっと素敵な人たちに会う。寂しくないよ」
 男は底無しに元気に言った。
「それにね、俺みたいなのにはもう関わらない方がいい。良いかい、君は輝ける新しい時代の男だ。だから俺なんかのことは忘れた方が良いのさ」
「そんなの……」
 男は励ますつもりで行ったのだろうが、逆効果だった。少年は嗚咽交じりに唸る。すると男はもう降参という風に両手を挙げて「それでも」と続けた。

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「ちょっと出かけない?」

スタスタでも、テクテクでもなく
プカプカと歩く背中を追う。
手慣れた手つきで切符を買う指先を見る。
「え、小児じゃないよ」
「あぁ、そうだっけ?」
見たこともないような値段の大人切符を一枚
手渡される。
「どこ行くの?」
「…どこ行きたいの?」
「そういうとこが嫌い」
「変わらないねって笑うとこ」
新生活の始まる季節。新品のスーツ、制服。
待ち侘びた春に紅潮する頬。
を見つめる
家出ですか?みたいな格好の2人。
「溶け残っちゃったね」
交互に指を差して笑いかけてくるけど
一緒にすんなよって背中を小突く。
未だに桜は咲かず、夜明けは暗い。
「時の流れは早いねぇ」
「…残酷」
「腐ってる奴は可愛くないよ」
断末魔みたいな音を立てて止まった列車に
促されるままに乗り込んだけど
これって何処に向かってるんだろうか。
ねえ、と声をかけると
まるで次の言葉を察したみたいに
こういうの憧れてたんだよねって笑う。
夢は追えるうちが花だよなあ、って
また困ったように笑ってる。
知ったように頷いてみる。
でも溶け残りの2人はまだ
「君の花は咲くべき時に、きっと咲くよ」
その言葉を、どうしようもなく信じてる。