戦場に駆け付けたルチルの目に入ったのは、力無くへたり込む相棒の姿と、その数十m前方に立ちはだかる甲冑姿のメタルヴマだった。
「アメシスト!」
仲間の名を呼びながら戦線に飛び込み、ルチルは最大出力の水晶柱を敵に叩きつけた。
「うお、遅いよルチルクォーツ。私が半分無くなっちゃったじゃないか」
おどけて言うアメシストの両腕と左脚は根元から失われ、腹部も半分以上抉り抜かれている。
「すまない、遅くなった」
「いやごめんて、軽口よ軽口……実際早すぎるくらいだよ。しかしさっきの攻撃すごかったね。『針』ってより最早『柱』って感じだ」
「あれで斃れていてくれれば良いんだが……」
ルチルの言葉と同時に、地面に深々と突き刺さった水晶柱が爆ぜるように砕け、土煙の奥から抜き身の刀を引きずる甲冑姿のメタルヴマが現れた。
「出たな……トロイライト」
「気を付けなよ。“流星刀”は間合いを問わず、理不尽なほどの剛剣だ」
「ああ。あれだけの距離を余波が飛ぶんだからな……」
呟きながら、ルチルは無数の水晶針を自身の周囲に漂わせた。
青年、トロイライトが刀を振り上げると同時に、刀身に狙いを定めて水晶針を全て叩きつけ、斬撃を妨害する。刀は水晶針の威力に跳ね返されるが、その反動は斬撃の余波として前進し、ルチルの右腕とアメシストの髪を一束吹き飛ばした。
(な……⁉ 馬鹿な、完全に防いだはず……⁉ 横暴にも程がある……!)
「お、先にやり合ってた私と同じ反応してら」
アメシストがけらけらと揶揄うように笑った。
店に着いて皆でエールを飲み始めたは良いが、俺達を見て絶句している。
暫くして,俺と同じ日に学校に着いたが羽を伸ばし過ぎて怒られて急遽先に帰国したAが口を開いて「お前から『嫁を連れて来る』って聞いてたけど、お相手が予想と違った」と爆弾発言をする。
それを聞いた嫁は困惑した様子なので「実は、セブにいた時はとある台湾の女性に恋してたんだ。そこまではこの3人も知っててその先は俺と兄貴達以外は誰も知らないんだけど,台湾までその人に会いに行っていざ告白したら翌日その人の地元,台南で行われるイベントの時に返事を告げるって言われたので高雄の兄貴達と現地で合流ということで台南まで行ったんよ。そしたらさ、それがその人の結婚式で、兄貴が通訳してくれたことでフラれたことが確定した挙句プロ野球もサヨナラ負けしたから所持金全額つぎ込んで皆でヤケ酒飲んで,兄貴が台湾で興した新興財閥で働くことを条件に出して貰った金で帰国したんだ。それが奇しくも去年の11月、俺が21になった誕生日のことさ。そして,俺のことを色々知ってた兄貴に気遣って貰って観光を通じた国際交流促進目的の子会社の『韓国にもルーツを持つ日本人スタッフ』としてソウル支社で働くことになって暫くは韓国と日本を行き来していて、ある日台湾の本社から呼ばれて,ビザを取れなくて経由他のロシアに入国できなくなった紀行文や他の国の紹介記事執筆担当者の代理としてシンガポールから鉄道旅をしてたら高3当時の恋心が再燃して君と結ばれたので作品は急遽恋愛要素を加えた物に変更になって売れてさ…今までまで隠しててごめん」と言って説明も交えつつ謝ると「でも、それ以降はもう私一筋なんでしょ?」と嫁が訊くので「当然さ。あの鉄道旅で時間を共有するうちに再燃した恋心が愛情と独占欲に気持ちが変わっていったからな」と頷いて即答すると嫁は俺に口付けして「これからもずっと一緒にいようね」と笑い、今まで空気になってた3人が「早く呑もうぜ」と促すので「そうだな。よーし、飲んべ!」と言うと嫁が更新されてゆく野球速報を見せて「巨人サヨナラ勝ち!」と言うのでガッツポーズすると、唯一入学から卒業までずっとクラスメイトだった奴から「なんか送別会思い出すなぁ」と笑われた。
嫁も一緒になって飲む酒は,かつてセブで飲んだ物より甘味が入っている。
「…」
山の斜面の下の方で、赤毛の少女がひっくり返っている。
少女はぼんやりと空を見上げていたが、やがて自分に近付く足音を耳にして音がする方に目を向けた。
「…」
短髪の少年がすぐ傍で少女を見ている。
「お前」
赤毛の少女ことグレートヒェンがそう呟くと、少年は手に持つ短剣をグレートヒェンに向けた。
「…人間は自分勝手だ」
勝手にぼくらを作って、好き勝手に使って…と少年は続ける。
「それでぼくらは人間たちから逃げ出した」
それなのに…と少年は声を震わせる。
「奴らは追いかけてきて…」
ぼくらの平穏を、壊そうとしたと少年はこぼす。
「許さない」
少年は静かに短剣を振り上げる。
…と、ふと少年は背後に気配を感じた。
ハッと振り向くと、黒い翼を生やしたコドモが大鎌片手に飛びかかってきた。
「⁈」
少年は横に飛んでそれを避ける。
セブ時代のクラスメイトで一緒に出かける機会が最も多くて出かける時は常に奢り合う仲であったKからの電話が届き,イギリスのパブを意識した店を見つけてそこで呑むことにしたので店の前で集合とのことだ。
嫁が飯田橋の駅前にかかる牛込橋を見て「行きは意識してなかったけど,ここの橋って電車好きな子供には良さそう」と言っているので「俺なんか高校生になってもここ来て電車見てたからなぁ…中学の先輩,めちゃくちゃ気さくでさ,しかも鉄道ファンだから話が通じるのなんので中一の頃は楽しかったなぁ…俺が中2でその先輩が高1になったら、中学の鉄道ファン仲間全員で連絡取り合ってそこの神楽坂の阿波踊り見るついでにここで特急列車見て、そこの青森県のアンテナショップでリンゴジュース買って開けてから中央線で東京駅行って赤羽と池袋で乗り換えて新大久保から走って帰ったんだ」と言って思い出に浸りながら坂下の信号を渡って神楽坂を登って歩いていると幼少期からの散歩コースだったこの街に詰まった思い出が映画のシーンのように繋がって一つのストーリーとして走馬灯のように蘇り、様々な思いが込み上げてきた。
およそ徒歩5分の道のりがここまで長く感じられたのは後にも先にも無い。
皆が思わずそちらの方を見ると、緑の長髪を切り揃えた黒いワンピース姿の人物がこちらに歩いてきていた。
「そんなに騒ぐんじゃありません」
品位がなっていませんよ、と緑髪の人物は諫める。
「…“エメラルド”様」
ゴシェナイトは慌てて背筋を正した。
「それにしてもルビーにサファイア」
何の用ですの?と“エメラルド”はルビーたちに尋ねる。
「またナワバリを奪いに…」
「いや、ナワバリじゃなくてこの子のことなんだけど」
ルビーはそう言って青緑色の髪のコドモを自分の前に立たせる。
「この子誰だか知ってる?」
記憶喪失なんだけどさ、とルビーは青緑色の髪のコドモの背中を押す。
「ふーん」
エメラルドは目の前に立つコドモの顔を覗き込む。
「…知らないわ」
「マジ?」
お前の一族の子じゃないの?とルビーに聞き返されて、エメラルドは本当よーと口を尖らせる。
「わたくしたちベリル一族の子じゃないわ」
そもそもベリル一族は背中に鉱石が生えるし、とエメラルドは続ける。