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緋い魔女と黒い蝶 Act 16

かくして、脱走ホムンクルスは捕獲された。
ドロテーとトラウゴット以外の脱走個体も、他の魔術師たちの手で生け捕りにされたという。
そして、彼らは元の持ち主のもとに返されるという。
「持ち主は逃げ出したホムンクルスたちをどうするんだろうね」
山を下りながら、ヨハンがふと呟く。
「そりゃあ、それ相応の処分は下すでしょう」
魔術師から見たホムンクルスなんて、“モノ”と変わらないのだからとグレートヒェンは言う。
「そりゃそうだけど、アイツらもちょっと可哀想な気がするなぁ」
なにせ元の持ち主から酷い扱いを受けていたらしいし、とヨハンは後頭部に手を回す。
「逃げ出すのももっともというか」
なぁ、とヨハンは隣を歩くメフィに目を向ける。
メフィはそうね、と頷いた。
「…それにしてもナツィがあんな風に怒るなんて」
なんか意外だったなーとヨハンは後ろを向く。
グレートヒェンの後ろを歩くナツィはなんだよと嫌そうな顔をする。
「お前まさかグレートヒェンのことが…」
「べ別に俺はコイツのこと好きじゃねーよ!」
ただいなくなられると困るってだけで、とナツィはそっぽを向く。

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Trans Far East Travelogue56

ここ、新宿駅から日帰りで行くことのできる伊豆や関東甲信越には俺の思い出に残る場所が数多く、締めに何処へ行くか決めかねて嫁にリクエスト求めると,殆ど行った事のない甲信越が良いとのことだ。
そして,嫁のリクエストを一通り聞いたら新潟県西部の妙高か糸魚川といった上越地方へ行くことが理想なのだが,新幹線の接続時間を考慮して,兄貴と一緒に度々訪れたことのある街,上越新幹線も停まる長岡に行くことが決定した。
一旦大江戸線で港の最寄駅の大門に行って既に入港している船に着替え等の重い荷物を予め積み込み、返す刀で東京駅に行くと5分の乗り継ぎでとき号に乗り換えて長岡に行き、北陸経由で東京に向かっている別働隊が運転する車に乗っけてもらえれば搭乗には間に合うことが判明したので,急いで別働隊のメンバーに連絡して長岡駅に寄ってもらうことになり、予定通り荷物も積み込めて東京駅に着いた。
ようやく落ち着けて新幹線の車内で一息ついていると,嫁の財布から一枚のカードのようなものが落ちたので拾い上げて見てみると入籍して苗字が俺のと同じになった嫁の運転免許証だった。
それに気付いた嫁が「私だけ持ってたら当てつけになると思って隠してたけど見ちゃったよね?」と訊くので頷き「でも,君が運転する時は助手席で俺が道案内するから気にしとらんよ」と返すと嫁が口に指を当てて秘密だと示すので俺も黙っていることにした。
後にこのやり取りが役に立つことになる。

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Metallevma:GRANDIDIERITE Ⅶ

パッと皆が声のする方を見ると、近くの建物の屋根の上で白いワンピース姿で額に透明な鉱石が生えたコドモが仁王立ちしていた。
「やぁメタルヴマ諸君、ご機嫌いかが?」
コドモはニヤニヤしながらメタルヴマたちを見下ろす。
「…何の用だ」
“クリスタル”とルビーは屋根の上のコドモを睨みつける。
「“クリスタル”?」
誰なの?と青緑色の髪のコドモはルビーの顔を覗き込む。
「…あの子は“原初のメタルヴマ”」
このミクロコスモスに住むほとんどのメタルヴマを作った張本人だよ、と背後からサファイアがそう教える。
「…へぇ」
青緑色の髪のコドモは頷いてまたクリスタルの方を見る。
クリスタルは気にせずルビーと話していた。
「それで、何の用なの?」
あたしら今お取り込み中なんだけど、とルビーは不満げな顔をする。
「ふふふふ、そんなルビーちゃんたちにお得情報〜」
クリスタルはその場にしゃがみ込みながら言う。
「キミたちの傍にいるその子、ちょーすごいんだよ?」
は?とルビーは首を傾げる。

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Metallevma:水晶玉は流星を見通す その⑥

「しかし……困ったねェ」
一頻り笑った後、アメシストが無感情に呟いた。
「私らクォーツの中じゃ、私とルチルのコンビは最強の呼び声高いわけだけど……戦術の核になる私の手足は、とっくの疾うにズタボロだ」
「……なら、どうする? 私一人でアレを相手しろと?」
「いやァー……それは駄目でしょうよ。嫌だよ、自分が何もできないのに目の前で仲間が殺されるのを見るとか」
「私だって嫌だ」
「あ、次が来る」
アメシストが残った足でルチルを蹴り飛ばし、その反動で自分も飛び退くことで斬撃を回避した。
続いて飛んでくる斬撃を、アメシストは転がるように回避するが、躱しきれずに左肩を深く切り裂かれる。
「うあぁー……すまない相棒。もう駄目っぽい」
「馬鹿言うな!」
無数の水晶柱でトロイライトを生き埋めにしてから、ルチルはアメシストを素早く助け起こした。
「冗談言ってる暇があったら考えるんだ、アレを追い払う方法を!」
ルチルに言われて、アメシストはルチルの顔をまじまじと見つめた。
「……本気で言ってる?」
「……どういう意味だ?」
「アレ、本当に『倒さなくて良い』の?」
「倒せないだろうあんなの。今を生きて乗り切れれば、それで良い!」
真っ直ぐに言い切るルチルに頭突きを当ててから、アメシストは高らかに笑い地面に倒れ込んだ。
「ああ分かった! 私がどうにかする。奴の注意を私から完全に逸らしてくれ!」
「了解した」
水晶柱の山を吹き飛ばし現れたトロイライトを睨み、ルチルは短く答えた。

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Trans Far East Travelogue65

いよいよ朝日が昇り、門出の日となった。
荷造りを済ませ、この先をどうするか嫁と話し合い、俺の思い出の場所を2箇所巡って乗船までの時間を過ごすことにした。
新宿のサザンテラスに着くなり嫁が突然両耳を押さえたので「どうした?」と訊くと「地元ではこんなに電車の近くを歩ける所がそんなに多くないからここまで走行音が大きいなんて思ってなくて」と答えるので「そっか」と返すが先の言葉が続かず黙ってしまい、下を行く電車を見ながら今よりも多くの車両が走っていて楽しかった幼少期を思い出してため息をつくと嫁が「ごめんなさい…私のせいで怒ってる…よね?」と落ち込んだ様子で訊いてくるので「怒ってるわけじゃないよ。ただ、今よりも車両のバリエーションが多かった幼稚園の頃が懐かしくなってさ…当時はオレンジの中央線も,緑の埼京線も今走ってる当時デビューしたばかりの車両とその前の古い車両が混ざってて,それから新宿駅に乗り入れる特急も車両の種類が複数あって目で見なくても音を聞いただけでどんな車両が走ってるのか分かって、それを当てると大人からは褒められたんだよな…それが偶々世代交代の若手が出たばかりみたいな時期でまず通勤電車、特に中央線、次に特急NEX、埼京線の通勤車両、それから性能と乗客の需要が合わなくて車庫に引き篭もっていた土休日の臨時列車用の車両も消えて千葉方面からの特急もほとんど来なくなって今はもう無くなったし、中央線から更に特急専用車両が二種類消えて一方は解体、もう一方のは伊豆に飛ばされたし、伊豆と池袋方面を結んでたSVOも消えた。当時は今よりも音が大きな車両が多くて車両当てやすかったのに今は路線ごとに塗装を変えただけの同じ車両ばかりで判別しにくくてさ…昔は鉄道の音に敏感で確実に車両が分かるってことで音鉄の神童って呼ばれてたのにその称号は高性能な録音機を持った子供達に渡ったからなぁ…でも、新幹線が無い分新宿に乗り入れる列車の変化は東京駅や上野に比べると大したことないんだけど,1番愛着がある駅なだけにね…」と言って思い出に耽るも過去にあった一悶着も思い出して苦笑いを浮かべると「誤解が解けて良かった」とは言ったものの嫁もその先の言葉が続かず苦笑いだ。