「皆さん、ご機嫌よう」
今日も楽しそうねぇとヴァンピレスは微笑む。
「アンタ、今日は何の用だ‼」
またボクらの異能力を奪いに来たのか‼とネロは具象体を出しながら睨みつける。
「うふふ、今日はそんな用じゃないの」
ちょっと貴方達に聞きたいことがあって、とヴァンピレスは踊り場の柵に腕を載せる。
「貴方達と一緒にいたあの子…名前は何ていうのかしら?」
「そんなのアンタに関係ない」
ヴァンピレスの質問に、ネクロマンサーは強く言い返す。
「大体、それを聞いてどうすんだ!」
アンタには関係ないだろ!とネクロマンサーが言うと、ヴァンピレスはふーんと呟きつつ表情を笑顔から真顔に戻した。
「…じゃあ、”心を読む”わよ」
ヴァンピレスがそう言って冷たい目をわたし達に向けると、ネクロマンサーはなっ‼と叫ぶ。
「コイツ、そんな異能力も奪ったのか‼」
ネクロマンサーが驚くと、ヴァンピレスはうふふふふふと高笑いを上げる。
「そう、そうなの、わたしが奪った”ケツァルコアトル”は他人の心を読む能力」
少し前に奪ったのだけど、存外便利で役立っているわとヴァンピレスは笑う。
俺は線路沿いにゆっくり歩を進めた。
(目線が変わると、やっぱり新鮮だな!)
若干目的を忘れかけながら進んでゆく。
ところが。
「あっ!猫だ〜!」
(やっべ!あれは近所のガキ大将!)
まさかの出発から数十分で近所のガキ大将に見つかると言う。
(マジかよ...走るか?否、迷子になると困る、引き返すか?)
俺は前者を選んだ。
種枚さんとの再会は、あの人影との遭遇からちょうど1週間後のことだった。
この日もやはり遅くまで講義があったせいで、すっかり暗くなった帰り道を急ぎ足で行くことになってしまった。
先週のことがあったので、今日は少し遠回りになるけど、できるだけ大きくて人や車の通りも多い道を進む。
ふと、車道を挟んで自分の歩いているのと反対側の歩道に視線をくれると、見覚えのあるパーカー姿がいた。フードで顔は隠れているけど、オーバーサイズのパーカーと、その裾から伸びるハーフパンツと素足はあまりに特徴的で、間違えるはずも無かった。種枚さんだ。
命の恩人なわけだし、声をかけようかとも思ったけれど、道路を挟んだ状態で声をかけたところで、何かできるわけでも無い。
そんなことを考えているうちに、不意に1台の大型トラックが通り過ぎ、種枚さんの姿が一瞬隠れてしまった。トラックはすぐに行ってしまったけど、その後、向こうの歩道に彼女の姿は無かった。代わりに、
「やァ君、先週ぶり。元気そうで良かったよ」
いつの間にか背後に回り込んでいた種枚さんが、気安そうに肩を抱きながら話しかけてきた。