リビングの窓を見ていると、すっかり夜汽車のボックスシートに座っていた。
部屋も汽車の中へと様変わりしていた。
どこに行くか分からないが、とりあえず身を任せてみよう。
すると、列車が動き出した。
みるみる高くなって行き、星の間をトンネルとして列車は通り過ぎていく。
「綺麗だな」と思った束の間、
窓の外には、今まで隠してきた本当の姿が、駅のホームのように映し出されていた。
つづく…
メイは自分の方を見たネロに対して笑顔で手を振った。
「お、ちゃんと来てくれたな」
良かったなと師郎はネロに目を向ける。
「う、うー」
ネロは突然の事にしどろもどろになってしまった。
「ほら、しっかりしろ」
メイと一緒に周るんだろ、と耀平がネロの背中を押す。
「う、うん」
ネロはそううなずいて、メイに向き直る。
「…じゃあ、行こっか」
ネロがそう言うと、メイはうん!と答える。
そして2人は公園内へ向けて歩き出す。
わたし達4人もそれに続いた。
ピピピピ...
五畳の和室に、目覚まし時計が鳴り響く。
そこには、目覚まし時計に手を伸ばす少女の姿があった。
少女の名は波留川桜音(はるかわさくね)。
この屋敷に住んでいる中学生である。
彼女は階段を降りて、洗面所へと向かう。
そして。
「起きてたのかい?今日は遅いね。」
彼女に後ろから声を掛けたのは光(ひかる)。
この屋敷の主である。
「御早う御座います、先生。」
彼女は光を「先生」と呼ぶ。
光が「好きに呼び給え」と任せた結果、「先生」に落ち着いたらしい。
「そ、そんなこと言われてもなぁ…」
ヴィオラは戸惑いながら周りを見回した。手前のケージの、真っ白でふわふわな毛玉になんとなく目を惹かれ、そっとケージを開けてみる。
「失礼しまーす…」
毛玉が震えたかと思うと、ぴょこんと長い耳が生え、くりっとした赤い瞳が現れた。
「わっ兎さんだ可愛いね!私ヴィオラ!君は?」
初対面なのにグイグイきたヴィオラに、兎は鼻を素早くひくひくさせて近づいた。
「びおら?」
「ヴィオラ」
「び?」「ヴィ」
そんな風に暫く他愛のない話をしながら他のゲージの様子も見た。兎の名は日本語で、『柊』というらしい。一人称が自分の名前だった。また、話している内にヴィオラは自分が3年前にニトに拾われたこと、それから一ヶ月くらい前まで寝たきりだったことを思い出した。
「…あれ?このケージってもともと動物いないの?」
「ここは…ひいらぎのおともだちのおおかみがおったよ?」
「お友達…」
ケージには爪痕がついていた。
To be continued…
種枚さんに指示されて、一人で通りを歩く。時間がまだ早いせいか、自動車や歩行者もまだ少なくて、人通りが完全に途切れた一瞬なんか、いやに不気味な空気が流れる。
彼女が言うことには、適当なタイミングを見計らって、人目につかなさそうな場所に入り込めば良いということだったけれど……。
そこでふと思い出し、足を止める。ちょうどその位置から横道が伸びていて、この道に入って少し歩くと、そこそこ大きな公園がある。まだ時間も早いし、あそこがちょうど良いんじゃないか。
そう決心して、すぐ足早に公園に向かった。
公園までは早歩きで行けば5分もかからない。すぐに到着して、更に人目を避けるように奥へ奥へと入っていく。
外縁に遊具が立ち並ぶ広場を通り抜け、整備された遊歩道を踏み越え、落葉樹や灌木で敷地外からは殆ど中の見えないエリアにまで入り込み、そこで立ち止まる。
種枚さんの言う通りなら、あの少年が現れる筈……。
その時、背後から突風が吹いてきて、堪らず倒れ込んでしまった。
落葉の積もった地面に咄嗟に両手をついたお陰で、完全な転倒とはならずに四つん這いになるような姿勢になったが、そこに人型の影が被る。誰かが自分を見下ろしているような形だ。
顔を上げると、種枚さんに見せてもらった写真に写っていたあの少年が、無表情で立っていた。