不思議な少女に遭遇してから暫く。
わたし達は”彼ら”と穂積と雪葉と共にショッピングモールの片隅にある休憩スペースにいた。
「…へぇ、薄れているような異能力の気配、か」
ネロは丸テーブルに両肘をつきながら呟く。
「確かに変な感じはする」
「でしょ?」
雪葉はそう言って続ける。
「遠くにいる異能力者の気配が近くにいる異能力者のものより薄く感じられるのはよくあるけど…」
あんな近くにいて薄かったのは初めてだよ、と雪葉は頬杖をついた。
「うーん、何でなんだろう」
ヴァンプレスの仕業ってワケでもなさそうだし?と耀平は首を傾げる。
「そもそも寿々谷ではあまり見ないような異能力者だから正直よく分からないのよね」
だから情報屋のミツルにも聞きようがないし、と穂積はこぼす。
「結局、何なんだろうな」
謎は深まるばかりだぜ、と師郎は腕を組む。
その隣で黎は静かにうなずく。
わたし達は皆でうーんとうなった。
「へェ、それならなんであんな失礼な真似してるんだ?」
「お前なら、神を名乗る子どもを信用するか?」
「それはお前が一番信じてやらなきゃならないことなんじゃないのか?」
「相手が祭神を名乗り悪さを企む物の怪だったりしてみろ。それこそ顔向けできないだろう」
2人の話し声に気付いてか、項垂れていたその和装の子供が2人に顔を向けた。
「ああっ、貴様あ! おい無礼な跡継ぎよ! さっさとこの縄を解け! そっちの娘でも良いぞ。せっかく我が顕現してやったというのに、有難がる気配の一つも見せないとは! 恥を知れ恥を!」
喚く子どもを放置して、種枚は平坂に話しかける。
「あんなこと言ってるぜー? 放してやったらどうだ? お前がやらないなら私がやるぞ」
「誰が許すか」
「お前にゃ私は止められねーだろうがよ」
2人が言い争っている間、子どもは何も言わず縄の拘束の中で藻掻いていた。ふと、そちらに目をやった種枚が、急に口を噤む。
「……どうした、鬼子」
「ん、いやァー……ちとヤバいかもしれんなァー……って」
種枚の視線を追って、平坂が子どもに目をやるのと、子どもが自身を拘束している縄を切断して逃げ出すのは、ほぼ同時だった。
引き金を引くと、目の前で燃えている建物に向かって魔法弾が発射された。その弾丸が建材に触れた瞬間、広く亀裂が入り、その場に音を立てて崩壊する。
壁の向こうでは、怪獣風の外見の怪物とヘイローが交戦していた。
「あ、ヒオちゃん! 助きゅぅっ」
怪物の振るった尾がヘイローに直撃し、ヘイローは燃える瓦礫の上に叩きつけられた。
「フウリ!」
ヘイローを踏み潰そうと足を持ち上げた怪物の前に、半ば反射的に飛び出したアリストテレスは、リボルバー・ハンドガンでその脚に射撃を放った。その威力に弾かれ、踏みつける攻撃は大きく逸れる。
「フウリ、大丈夫⁉」
「……ちょっと…………無理、かも……」
弱々しいながらも返事があったことに安堵し、アリストテレスは再びパラメータ・ウィンドウを展開した。
(射程は無くて良い。音、熱、光、威力もギリギリまで削って、硬度に全部ぶち込む!)
「〈Preset : Solid Shield〉!」
怪物の振るった尾に向けて引き金を引くと、アリストテレスから1mほどの地点にエネルギー製の障壁が生成され、怪物の攻撃を阻んだ。
(む……思ったより威力あったな。あとで耐久もうちょい上げないと)
ひび割れた障壁を見ながらヘイローに駆け寄る。
「ヒオちゃん……私に構ってちゃダメだよ……あいつ、結構強いし、それに……」
怪物の踏み付けを、アリストテレスは斜めに展開した障壁で受け流す。
「……うん、ヒオちゃんはあの怪物に集中して」
「フウリ、なんで……あぁ、うん。分かった」
アリストテレスがヘイローを再び地面に横たえ、怪物の前に立ちはだかったのとほぼ同時に、背後の炎の壁が切り裂かれるように分断された。