不思議な少女と再会してから暫く。
なんだかんだで少女と共に行動することになったわたし達は、いつもの駄菓子屋の前にいた。
「ここが駄菓子屋かー」
ここに来る途中で鯨井 あま音(くじらい あまね)と名乗った彼女は、駄菓子屋の店先を物珍しそうに眺めた。
そんな彼女を尻目にネロ達はいつものように店内に入っていく。
わたしもあま音さんも彼らに続いて中に入った。
「なんか、絵に描いたようなお店だね~」
すごーい、とあま音さんは商品が所狭しと並んだ店内を見渡しながら呟く。
「そうですか?」
「うん、すごいよー」
わたしの言葉にあま音さんは笑顔でうなずいた。
「わたしも昔はここに来てたのかな~」
あま音さんは駄菓子が平置きされた台を覗き込む。
彼女の言葉に相変わらず違和感を抱きながら、わたしは彼女の横顔を眺めていた。
「…お前、駄菓子は買わないのか?」
ふとネロに尋ねられて、わたしはハッとしたように顔を上げる。
そう言えば駄菓子屋に来ていたのに何も選んでいなかった。
その事に気付いたわたしは、慌てて品物を選び始める。
そしてわた選んだ物をレジに持って行って会計を済ませた。
あま音さんもそれを見てわたしに続いてレジに向かった。
「いやー、ミル君も遂に登録名つきの杖か、頑張ったもんねぇ」
「そうでもないですよ。」
ここはハルク帝国の首都レスト。
そんな街の大通りを歩いているのは、
癖っ毛を後ろで束ね、箒を背負っている少年ミル。
そしてミルの師である「夕暮れの魔導士」リンネである。
「そもそも杖の登録って、マスターはできるんですか?」
「当たり前だろう!何年生きてると思っているんだい⁉︎」
(先日判明した彼女の実年齢。...568(本人談)。
それだけ長生きなら当たり前なのかも知れないけど、今現在、そんなに長生きな種族は存在しない。
...彼女は何者なのだろうか?と言うかそもそも人間か?)
「...くん、ミル君、聞いてるかい?」
「はい!」
幸運にも、川はそこまで遠くはない。
てくてくと五分も歩けば着く。
カナはブーツと靴下を脱ぎ、ズボンの裾をまくって川に飛び込んだ。
釣り道具などは無いので手掴みになる。
「...えいっ!」
気合とともに川に手を突っ込むと、魚...ではなく、
ビンだった。
ラベルは剥がれかけていたが、どうやら強い酒の様だ。
未開封だったので、ありがたく頂戴した。
魚は2匹捕まったが、これ以上漁はできないと思い引き返した。
テントに戻ると、エミィは熟睡していた。
...とても気に障った。
空のペットボトル 2本
合計1200ml いつまでも癒えない乾き
夏の暑さを流し込んだ
片目が辛うじて生きてる分、感覚能力では私に分がある。大型ゴーレムが来るまでの推定約3分、持ち堪えれば良い。
「……そんなわけ無いじゃん」
『今』『ここ』で、『私が』殺さなきゃ。
今のダメージを考えると、〈邪視〉はあと1回しか使えない。けど向こうにはどうせ見えてないわけだし、タイミングがあったら積極的に使って行こう。
懐から乾燥させた薬草の粉末を取り出し、地面に投げて火をつける。紫色の煙といやに甘ったるい匂いが辺りに立ち込める。普段から嗅ぎ慣れた、気持ち悪くて安心する匂い。慣れないうちは神経を侵し動作を鈍らせるだけだけど、毒性にさえ慣れてしまえば、高揚感と痛覚麻痺が良い具合に働いてくれる。
「うぅっ……何、この匂い…………」
彼女はやはり、この『毒』には慣れていないらしい。全身の神経が少しずつ麻痺し出して、身体に力が入らなくなってきて、ほら見ろ、どんどんふらついてきてる。
(これなら、殺せる!)
ダガーを取り出し、突撃する。腰だめに構え、全体重をかけて腹を狙い……。
カンッ、と彼女の短槍が足元のコンクリートを打った。かと思うと彼女の姿が消え、背後から風切り音が近付いてきた。咄嗟に倒れ込み、突きを回避する。
足音で気付かれた? にしたって、あの潰れた両目で、『瞬間移動の直後に』、ここまで正確な攻撃ができるわけ……。
カンッ、とまた、短槍がコンクリートを叩く。
「……そういうことか……!」