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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 21.ティアマト ⑩

「あー、皆で寿々谷の街について語ってたんですよ~」
ねー?と穂積が皆に目を向けると、あ、うんとかお、おうとかとそれぞれぎこちない返事をした。
あま音さんはそれに違和感を感じなかったのか素直にへーとうなずいた。
「…皆は、寿々谷にずっと住んでるの?」
突然妙な事をあま音さんが言い出すので、わたしはま、まぁ…と答える。
あま音さんはそれを聞いてそっか~とまたうなずく。
そしてこう言った。
「じゃあ皆に寿々谷を案内してもらおうかな⁇」
「え」
思わぬ言葉にわたし達はポカンとする。
「ちょ、ちょっと時間いい?」
耀平がそう聞くと、あま音さんはいいよと笑顔で答える。
するとすぐに彼らはあま音さんに背を向けて話し始めた。
わたしもネロに腕を引かれて一旦後ろを向く。
「なぁ、これちょっとどうすんの⁈」
「知るかよ!」
耀平とネロはそれぞれそう言い合う。
「そもそもの話、コイツがあの人を駄菓子屋に誘ったのが悪いんじゃないの⁈」
ネロはわたしを指さし口を尖らせる。
わたしはえっわたし⁈と驚く。

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回復魔法のご利用は適切に_10

「レオン先生〜!!」
叫びながらシオンは走る。相変わらずエリザベスを背負って。
「す、すみませんシオンさん…重いでしょう、下ろしていただいて良くてよ?」
「リサちゃんは虎みたいに軽いから大丈夫」
「…?…いまいちよく分からない例えですわ…虎…うーん…虎、というとあの大型猫…」
エリザベスが頭を悩ませているうちにシオンは職員室へ到着した。窓を覗くと無人だった。
「うーん、先生いないな…レオン先生どころか誰もいないや…」
「っ!シオンさん!ここはだめですわ、一旦引かねば…」
「え?」
それは一瞬のことだった。エリザベスの忠告も虚しく、シオンの右足に風穴が空く。
「っ…つう…」
攻撃は、右後方から。振り向くと人型に固まった水がいた。凹凸の少ない、マネキンのような造形のそれは頑なにエリザベスを下ろそうとしないシオンにゆったり寄ってくる。
「下ろしてっ!!これ以上は自殺行為ですわ!」
「この、くらい…すぐ治るよ」
治る、と言いつつもシオンの右足は血が止まる気配すらない。
_ああ、どうしよう。リサちゃん…

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魔法をあなたに その①

オイラin魔界。
今日は随分久しく会わなかった奴の姿があった。コイツぁ珍しい。せっかくだから絡んでやろう。
『ヨォー、テメェ珍しいじゃねェか。最近ずゥーっと出ずっぱりでよォ。何だァ? 里帰りかァ?』
『ム? おや、旧友。帰って早々知った顔に出会えるとは嬉しいねェ。……まァ、大した用事は無いヨ。たしかに里帰りと言って良いかもしれない』
『ウカカ、そーかィ。ところでテメエ、最近の調子はどうだァね』
『頗る良いヨ』
『バァカ言ってンじゃねェ。“回収状況”だよ』
『あァ……』
オイラ達は人間のガキ共とある種の共生関係にある。オイラ達はアイツらに超自然的パワー、所謂“魔法”をくれてやる。魔法はアイツらが自分たちの世界を守ったり、アイツら自身の人生をちょろっと彩るのに使われる。代わりに運悪くアイツらが若くして……そうだな、アイツらで言う“成人年齢”って頃より先に死んじまったら、その“魂”はコッチで回収してオイラ達自身のエネルギーとして活用させてもらう。“戦うための力”を与えてるんだからそりゃ死にやすいだろッテ? 双方合意の上だしセーフセーフ。化け物だらけの世の中だからしゃーないネ。
『先日、7番目に“魔法少女”にした子が無事に天命を全うしてくれてね。嬉しいことだ』
『ナァニ言ってダ、もう70年は早く逝ってもらわにゃ意味無ェだろーが』
『君は相変わらず口が悪いねェ……君の方こそどうなんだイ?』
『ッ…………お、オイラのことァどうでも良いだろうヨィ! 「オメガネにカナウ」良い魂の持ち主が少ねェンだよ今の時代はァ!』
『自白していくねェ……』
『ウッセバーカ! んじゃ、オイラぁもう出るからナ! ジャーナこの……あン? お前今、何て呼ばれてる? それで呼んでやるヨ』
『……そうさねェ、今はこの見た目から「ヌイグルミ」と呼んでくれる子が多いねェ』
『ホムホム了解、ジャーナおヌイ』

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ただの魔女 その⑧

「ぐっ…………!」
背後でどさり、と何かが……いや、彼女が崩れ落ちる音。
今、私と彼女は『鏡合わせ』の関係なんだ。
「私と同じだけ……サツキ。あんたも、傷つくんだよ…………!」
背中からダガーを抜く。着ているローブに血が染みていくのを感じながら、再び彼女に突撃する。彼女は唐突に背中に穴を空けられて膝をついている。今なら回避はできない!
「っ…………たあっ!」
またやられた。転移によって回避した彼女に、石突で後頭部を殴られた。つまり、彼女もまた、私と同様に脳震盪で動けなくなってるってことだ。
悪いけどこっちは、さっきから何度も殴られまくって慣れてる上に、痛覚麻痺もまだ効いている。振り返ってみれば、彼女は突然頭に衝撃を食らったことで倒れかけ、槍を杖代わりにどうにか踏ん張っている。
「っひひ、らあぁっ!」
未だふらついている彼女に飛びかかり、喉元に手をかけ、鳩尾に膝蹴りを入れ、勢いのままに押し倒す。
「ハァ……ハァ…………っ、ようやく、だ……! さっきは逃がしたけど、もう、離さない……! ッ…………殺して、やる、ぞ…………」