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Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 2

「僕は別に君に会いたくて会ってる訳じゃないんだし〜」
仕方ないんだよ〜と青緑色の髪の少女は口を尖らせる。少年はため息をつきつつじゃあ、と続ける。
「早くマスターを見つけてくださいよ」
ドーリィなんでしょ、と少年は目の前の人物にジト目を向ける。青緑色の髪の少女はうっと焦る。
「少年、どうしてそのことを」
青緑色の髪の少女がそう言いかけた時、近くでそれはアテクシたちが教えたことですのよと声が聞こえた。
パッと2人が見ると、近くの2人がけのテーブル席の椅子から赤い髪をツインテールにして黒い和服風ワンピースを着た少女が立ち上がっていた。
「貴女が全くこの少年に正体を明かさないから、アテクシと麗暖(れのん)が教えてさし上げましたの」
ねぇ?と赤髪の少女は目の前の椅子に座るツーサイドアップの少女…麗暖を見る。彼女はええ、と頷く。
「クラスメートに親切にしないのは麗暖たちの道理に反してるから」
だから教えてあげたのよ、と麗暖は微笑む。青緑色の髪の少女はなんとも言えない顔をした。
「アテクシたちドーリィは適正ある人間と契約して戦うのが使命というもの」
それなのに貴女はなぜフラフラしているのかしら?と赤髪の少女は青緑色の髪の少女に詰め寄る。あ、いや〜と青緑色の髪の少女は思わず目を逸らす。
「僕はあまり戦いたくないというか〜」
「そんなことを言うんじゃありません!」
貴女…と赤髪の少女は声を上げるが、ここでり、リコリス!と諫めるような声が飛んでくる。彼女たちが声の主の方を見ると、赤髪の少女と麗暖が囲むテーブルの隣のテーブルから、長い白髪で緑のジャンパースカートとボレロを着た少女が立ち上がっていた。
「ゼフィランサス?」
どうしましたの?とリコリスと呼ばれた赤髪の少女が尋ねると、ゼフィランサスと呼ばれた白髪の少女はあ、えーととうろたえる。
「ちょっと、言い過ぎかなーって…」
ゼフィランサスは小声で呟く。リコリスはため息をついた。
「貴女、アテクシたちの使命をお忘れになったの?」
アテクシたちは異界からやって来るビーストから人類を守るために生み出された存在なのよ?とリコリスは腰に両手を当てる。

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魔狩造物茶会 Act 7

「ぐふっ」
相手は思わず力が抜けてしまう。
その瞬間を見計らったナツィは短剣で相手の太刀を弾き、横に転がって相手の拘束から抜け出した。
そして大鎌を生成して相手に向ける。
「…俺をナメるなよ」
これでも俺は、とナツィが言いかけた所で部屋の扉がゆっくり開いた。
パッとナツィたちが振り向くと、そこには帽子を被った背の高い老人が立っていた。
「…あ」
ナツィが思わずそうこぼした時、太刀を持った人物と魔力式銃を持った人物はバッと部屋の開いている窓に向かって駆け出す。
それに気付いたナツィは待て!と止めようとしたが、2人はあっという間に窓から部屋を飛び出していった。
「…」
その場に残された2人の間に微妙な沈黙が流れる。
「これは、一体」
沈黙に耐え切れなくなったのか、老人が不意にポツリと呟く。
しかしナツィは振り向かずに黙ったままだ。
老人は部屋の中に少し立ち入る。
「…きみは、大丈夫かね」
老人がナツィを心配すると、ナツィは別にとだけ答えた。
「そうか」
老人はそう答えて部屋を見回す。
乱闘騒ぎがあったとはいえ、部屋の中はそこまで荒れてはいなかった。

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Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その⑦

「……マスター」
「ん? どうしたハルパ」
「ちょっと、移動するね」
「ああ、うん」
ハルパは男を担いだまま短距離転移でビーストの背中の上に腰を下ろした姿勢で移動した。唯一無傷だった竜頭が2人の方を向いて牙を剥くが、ハルパは片足で鼻面を押さえる。
「このまま死ぬまで待ってよ」
「ああうん……せっかくだから下ろしてほしいな」
「ん」
男はハルパの隣に腰を下ろし、転落防止にハルパを抱き寄せた。
「ちょっと掴まらせてね……っと」
「んー……」
男を押しのけるようにハルパが頭を押し付ける。
「待って押さないで」
「にゃーお」
「『にゃーお』じゃなく……」
2人が背中で騒いでいるにも拘らず、ビーストが動く気配はない。竜頭を除くすべての部位が、隙間ない〈ガエ=ブルガ〉の侵食を受けて完全に固定されていたためである。
「……そろそろ…………かなぁ……」
ふと、ハルパが呟いた。
「ん、そうかい」
ハルパが男を抱え、瞬間移動でビーストから離れた直後、その全身から黒い棘が突き出し、唯一無事だった竜頭ごと肉体をズタズタに引き裂き殺した。
「かった」
「よくやった」
ハルパから解放された男は、彼女とハイタッチを交わした。

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皇帝の目_5

さてどうするか…梓は暫く思案する。どこが弱点なのか全く分からない。攻撃方法も分からない。だがどちらにせよ確認するためにも軽い刃物が欲しい。
「チトニア、片手で持てる刃物とかない?」
「うーん、果物ナイフで良ければ…」
「ないす」
ビーストはこちらを疑うように距離を取りすぎず詰めすぎずで、先程叫んだ以外に目立った行動をしていない。ビーストの大体真ん中に向けてアンダースローで果物ナイフを投げる。
「ヨ…ケル…」
ビーストは全ての腕を床に付け、関節を曲げて反動で後方に跳ね、果物ナイフを避けた。
「えーしゃべったぁ…」
「うわぁ…」
ビーストはゆったりとした動きで、こちらへ向かってきた。
「果物ナイフ」
「はい」
梓がアンダースローの構えをすると、ビーストは突然移動速度を上げて飛んできた。
「うおっ!?」
あまりのスピードに間に合わなかった。ビーストが細腕を左右に分けると、その中から1つの目が現れた。目が合った。咄嗟に視界を見えないようにしたが遅かったらしい。
「梓!」

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑫

私と彼の右手の甲が一瞬光り、太陽に似た放射状のとげとげした紋様が焼き付いた。
「契約完了っと」
「これで、あいつ倒せるんだよな?」
「もっちろん」
ビーストが私たちに追いつき、前足を叩きつける。その直前、彼を瞬間移動で逃がし、私の方は再生した右手で受け止める。
「っひひ。何これすごい、手応えが全然違う。身体強化も、肉体の治癒も、契約が無かった頃とは比べ物にならないレベルじゃん」
私のボロボロの身体は、ケーパとの契約を済ませた瞬間、ほぼ完全な状態にまで急速に回復していた。おまけに、これだけの威力を受け止めたにもかかわらず、骨や筋繊維の1本すら、軋みもしない。
「そいやっ」
軽く押し返し、ついでにヤツを蹴り飛ばす。
「それじゃ、本気出させてもらいますか! ……そうだ、けーちゃん?」
大丈夫とは思うけど、念のため。
「ん? 何だよアリー」
「んー……フィスタでも良いよ。けーちゃん限定で許可したげる。マスター様だしね」
「ああ、で何だよ」
「あぁそうそう。1個だけお願いがあるの。私の音楽、変わらず愛していてね?」
「言うまでも無え」
こういうところは即答してくれるところ、私は好きだよ相棒。
「……というわけでっ!」
右手の中に、私だけの『武器』を生成する。長さ60㎝程度の片手杖。軽く振るうとひゅうっ、と空気の通る音がする。中が空洞になってるんだ。全体は白く、Y字の二股に分かれた先端はグラデーションで緑色に変わっていっている。良いデザインだ。
「 “Allium Fistulosum”! ただ今よりお前をぶっ殺しまぁーっす!」

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑧

少女への攻撃は頭部に命中し、そしてそのまま『すり抜けた』。
その感覚を、ソレは知っている。たった1度経験した、長身のドーリィの『肉体を門とした空間歪曲』の魔法。何故この少女がその魔法を使えるのか。少なくとも長身のドーリィがあれだけ自慢げに話していたということは、誰しもが易々と使えるような代物では無いということ。
思考で脳が圧迫されたその刹那、壁の穴の脇、陰になった場所から、長身のドーリィの武器であるはずの短槍が突き出された。一瞬の出遅れのために回避行動を取れず、槍の穂先はビーストの脇腹に突き刺さる。
「成功。私の魔法でヒロさんに私の見た目を貼り付けて囮にした」
槍を持っていた少女のドーリィが、呟くように口にした。その言葉を聞き、そのビーストは思考を加速させる。
今の言葉からして、少女のドーリィの魔法はおそらく『外見を変える幻影』。それに加えて、長身のドーリィの空間歪曲による転移術。長身のドーリィの左腕は、細分化されて転移のために随所に仕込まれているだろう。それによって、ドーリィと違って超自然的現象を起こせないマスターにも、限定的な転移術が使えるようになっている。敵は長身のドーリィの転移術を利用し、数的有利を更に多角化させ、自分を追い込んでいる。敵の頭数は、少女のドーリィ・それと同じ外見――あるいは幻影によって姿を変えたマスター・長身のドーリィの最低3名。長身のドーリィも固有武器を扱っていることから、マスターが存在することは確実。未だに1名以上の戦力を隠している可能性すらある。
とすれば、敵の数を減らすことは至急の課題。長身のドーリィを倒す手段が自身に存在しない以上、殺すべきは少女のドーリィだ。
飛び退くようにして突き刺さった槍から脱出し、屋外へと逃走する。
その時、通りの奥から長身のドーリィが駆けてきているのが視界に入った。