・ハルパ
モチーフ:Harpagophytum procumbens(ライオンゴロシ)
身長:160㎝ 紋様の位置:左前腕 紋様の意匠:猛獣の横顔
民族風の露出の多い衣装を身に纏った、茶髪のドーリィ。髪の毛はボブヘアだが、一部が垂れた獣の耳のように跳ねている。歯は全体的に長く鋭く尖っている。
固有武器は黒い槍。標準の長さは2m弱だが、その質量は明らかに槍の体積と不釣り合いなほど異様に大きい。推定適正サイズは全体が鋼鉄でできていると仮定した場合、全長約85m。
得意とする魔法は、固有武器の変形。槍の全体を自由に変形させ、主に投擲によって攻撃する。敵に突き刺せば穂先が無数の棘として分裂し、投げれば分裂した棘が無数の散弾のごとく広範囲を埋め尽くすように飛んでいく。それ以外にもマジックハンド代わりに使ったりもする。
野良ネコのような生き方をしており、マスターはいるが、それがどこの誰なのかを知っている人間はかなり少ない。
人語を解するらしいのだが、彼女が言葉を発しているところをみたことがある者はあまりいない。
・リク
年齢:37歳 性別:男 身長:180㎝
ハルパの“マスター”。ハルパを置いて離れた土地でビーストから人々を守るために活動している。ちなみに契約は10年ほど前。離別は契約の約3年後。せっかく契約してくれた唯一無二の相棒を捨てて(語弊)遠い土地に逃げた(語弊)人間のクズ(語弊)。いや実際はかなりの聖人なんですよ? ほんとほんと。
Q,何故ハルパを置いていった。
A,契約さえしておけばハルパは強いので1人でもやっていけるから。町には彼女の強さが必要だった。
ハルパの長く鋭い牙で頸動脈スレスレを噛まれても「寂しかったんだねよしよし」で済ませる胆力の持ち主。あの時はハルパに血管の表面を牙の側面でぷにぷにされていました。少しでも回避しようとしていた場合、出血多量で死んでいた。
ハルパの「ハルパ」呼びを始めたのは彼だし、ハルパが今住んでいる町で馴染めているのも3割くらい彼のおかげだったりする。残り1割はSSABの尽力、あとの6割はハルパちゃん自身の愛嬌と人望と人徳。
3人は駅のホームから線路へ飛び下り、元来た方向に向けて歩き始めていた。
「カオル、質問良い?」
線路上を歩きながら、青葉が尋ねる。
「んー? ワタシの可愛い青葉、もちろん良いよ」
「さっき言ってた『一番薄いところ』って?」
「そうだなぁ、ワタシ達はどうやってこの駅に来たっけ?」
「そりゃ、電車に乗って……」
「なら普通に考えて、線路を辿れば元の場所に帰れるはずだよね」
「これがオカルトな異次元だったりしたら、そう上手くはいかないけどねー」
水を差す白神を鋭く睨み、カオルは言葉を続ける。
「『辿ってやって来た道』。その事実自体が『外』との繋がりなんだよ。ついでだから、もう一つくらい条件が揃ってくれれば嬉しいんだけどねぇ……」
そのまま数十分ほど歩き続けていると、線路の先にトンネルが見えてきた。
「見つけた。トンネル、良いね。隔たりを越えるための道。彼我を繋ぐ穴。最高に近い」
歩みを速め、3人はトンネルの目の前で立ち止まった。
「さっさと終わらせようか。おい妖怪、あの電撃、こっちに撃ってきて」
「りょーかい。アオバちゃん、離れてた方が良いんじゃない?」
「平気。ワタシが守ってるんだから、ほんのぴりっとだって痛みやしないよ」
「それじゃあ……それっ」
白神が腕を振るい、電撃を青葉とカオルに向けて飛ばした。青白いその電光はカオルが翳した右手に吸い込まれ、刀剣のような形状に固定される。
「……失せろ、怪異。ワタシの可愛い青葉を、解放してもらうぞ」
そう呟きながら、カオルが雷の刃で虚空を切り裂く。その軌道に沿って空間上に亀裂が走り、3人の姿は強い光に包まれた。
・フィロ
モチーフ:Phyllostachys edulis(モウソウチク)
身長:170㎝ 紋様の位置:右肩 紋様の意匠:3枚組の竹の葉
和風の衣装に身を包んだ、ブロンドヘアをお団子にまとめた長身のドーリィ。
固有武器は全長140㎝程度の短槍。
得意とする魔法は、自身の肉体を出入り口とした空間歪曲。分かりやすく言うと、自分の身体のどこかに触れたものが、自分の身体の別の場所から出ていく魔法。基本的には攻撃をやり過ごす防御用にしか使えない魔法だが、事前に身体の一部を細切れにして離れた場所に仕込んでおくことで、疑似的なテレポーターとして使えるようになる。
・おタケ
年齢:推定1歳 性別:女 身長:70㎝
フィロのマスター。孤児の赤子。瓦礫の下敷きになって死亡した母親の腕の中で泣いていたところを発見したフィロに保護され、今はSSABの支援を受けながら健やかに育っている。
「かすみ?」
主人にそう呼ばれてパッとかすみは顔を上げる。
「…あの、ピスケスや露夏ちゃんの所には」
「あぁ、鴻海(こうのうみ)さんの所には後で連絡するって…」
主人が言いかけて、かすみは突然自身が手に持つ箒を主人に押し付け部屋を飛び出した。
「かすみ⁈」
「ごめんマスター、ちょっとピスケスたちの所へ行ってくる」
階段の途中で振り向いてそう言ったかすみは、そのまま階下へと駆け降りていった。
「あ、待ってよ〜」
その様子を見たキヲンもかすみのあとを追ってぬいぐるみを抱えたまま部屋を飛び出していく。
その場には、喫茶店の主人だけが残った。
チトニアは焦った。突然梓が目の前からいなくなったために軽くパニックになっているのである。ビーストは床を這い回り、チトニアの周りをぐるぐると回っている。
「わ、私…ご主人様守れなかった…」
と、チトニアがめそめそしだしたとき
「ち!と!に!あ!」
「!?」
声が聞こえた。
「下!ちょ、早く拾って!!」
「下…」
チトニアが下を見ると小さな梓が走っていた。…ビーストに追われて。
「きゃあああ!!梓!ちっちゃい!!」
慌てて拾うとビーストも追随して飛び上がる。
「チトニア、こいつと目合わせちゃだめだぞ」
ビーストは小型で素早く、面倒とは思っていたがここまでとは思っていなかった。チトニアは両手が塞がっているので、目が合う前にと慌てて噛みついてみたが、当然の如く逃げられた。
「あ、梓…ごめんねぇ、私がいたのに」
「どんまいどんまい、気にすんな。それより、私、思ったことがあるんだけど」
「なに?」
「あいつ、目の周りに腕生えてんじゃん?あの生え方、絶対視界の邪魔だと思うわけ。でもわざわざああいう生やし方してるってことは、目、守んなきゃいけないとこなんじゃないかなって」
「弱点…てこと?」
「そう。攻撃手段かつ弱点なんだと思う」
「だったら…」
・ササ
モチーフ:Sasa veitchii(クマザサ)
身長:130㎝ 紋様の位置:左の鎖骨近く 紋様の意匠:クマの掌
ロリータ風の衣装に身を包んだ、黒髪ショートヘアのドーリィ。肌はかなり白い。
固有武器はピンク色のテディベア「クマ座さん」。常日頃から抱えており、他人とのコミュニケーションには、腹話術人形のように使う。戦闘時には牙や腕・爪など一部が瞬間的に巨大化し、敵をボコボコにしてくれる。極度の人見知りで、マスターのサヤ以外とは腹話術でしか話せない。フィロさんとは共闘したからセーフ。
得意とする魔法は、対象の外見変化。見た目だけを変えるある種の幻覚魔法であり、対象と異なる大きさの外見を貼り付けても当たり判定は対象の元々のものを参照する。ちなみにこの幻覚はあらゆる感覚器や観測設備・手段によってその外見と認識されるため、看破は不可能。赤外線とかX線とか透視とか正体看破の魔法でも貼り付けた外見の方でしか認識できない。質量で違和感に気付くくらいしか方法が無い。
・サヤ
年齢:11歳 性別:女 身長:130㎝
ササのマスター。幼い頃(大体5歳になる少し前くらい)に自分以外の家族全員をビーストに殺されており、それ以来かつての生家があった廃墟群を拠点にストリート・チャイルドのような生活をしている。対策課に行けば助けてもらえるはずなのだが、そんなこと幼子が知っているわけは無いので。
ササとは完全な鏡映しレベルで瓜二つで、全く同じ外見の衣装を作ってもらい身に付けている。さながら双子。テディベアももらった。戦闘時は自身も前線に出て、ササと同じ外見を利用して敵を翻弄する。幼少期に十分な愛情を受ける前に両親が亡くなったために自分の身体に大して執着が無いので、怪物が目の前に居ても怖くない。だから囮役も平気でこなせる。
早朝から釣りをしていたが、4時間経って周囲が明るくなっても、雑魚の1匹も釣れなかった。
まあ、釣りは成果ばかりが全てじゃ無し。この辺りは頻繁にビーストが現れるということで誰も寄り付かないから、1人でのんびり過ごすことができる。まあ実際には海上に現れるだけで上陸してこないからあまり問題無いんだが。
「………………」
不意に、背後から軽い足音が聞こえてきた。足音の主は自分から少し離れたところで立ち止ったようだ。そちらに目を向けると、病的な白い肌をして目の下に濃いクマを作った、貧相な体つきの少女がこちらをじっと見つめていた。バケツと釣り竿を携えているところを見るに、彼女も釣りにやって来たようだ。
「……お隣、よろしいです?」
「…………いやまあ良いッスけど……」
しぶしぶ了承すると、2mほど離れたところに腰を下ろして釣り糸を垂らし始めた。
「…………」
「…………」
たいへん気まずい。取り敢えず、2mほど追加で距離を取る。
「?」
横から何かが動く気配を感じ、彼女の方を見ると、こちらに少し近付いて来ていた。再び離れる。彼女の方を見ていると、こちらを見もせずに再び距離を詰めてきた。
「………………」
「………………」
離れる。近付かれる。それを何度か繰り返しているうちに、いつの間にか彼我の距離は1m程度にまで縮んでいた。
「何なんだお前ぇっ!」
「……うひひ」
「笑って誤魔化すな!」
その時、沖の方で何かが海面から勢い良く飛び出した。そちらに目をやると、巨大なウミヘビのようなビーストが暴れている。
「……またビースト。最近特に多いですねぇ」
目を離した隙に至近距離まで接近していたあの少女が話しかけてくる。
「お陰で、最近じゃ余所に引っ越す人たちも増えちゃって……」
「まあ仕方ないんじゃないか? あと近付くな」
少し離れた建物の屋根の上から、毒霧を眺めていたキリの隣に、ヴィスクムが転移魔法で現れた。
「ヴィス、倒した?」
「ごめんまだぁー」
「じゃあなんで戻って来たの……」
「いやぁあはは……。あ、そうそうキリちゃん。1個お願いがあってね?」
そう言いながら、ヴィスクムは右手の小指を立ててウインクしてみせた。
「指1本で良いんだけど、貸してくれない?」
「それくらいは別に」
キリの差し出した右手に、ヴィスクムは左手を叩きつけた。
「ありがと、キリちゃん。それじゃあ行ってくるね」
「ん」
ヴィスクムは短距離転移によって再びビーストの頭上に移動する。
「お待たせ、モンスター! さーぁかかって来い!」
首の1本が大口を開き、ヴィスクムを食い殺さんと迫る。ヴィスクムは空中で身体を丸め、その口腔に自ら飛び込んだ。食道を通り抜け、胃袋の中に落下する。
「うへっ、胃液でべしゃべしゃする…………それじゃ、溶けちゃう前に片付けようか」
キリとスワップした右手の小指で、左の掌を軽く叩く。2人の身体は大部分が入れ替わり、ヴィスクムの代わりにキリが内臓の中に現れた。
「うおっ、ヒリヒリする…………さて」
キリは素早く周囲と自身の肉体の状態を確認する。左腕の肘から先は、どうやらヴィスクムのものになっているらしい。
「………………」
左手を胃壁に当てて数秒。ビーストの肉体が大きく揺れた。ビーストの左前肢とスワップされていた左腕が入れ替わったのだ。更に、ビーストの巨体を支えていた長く太い脚部が突然体内に出現したことで、それは勢い良くビーストの身体を突き破る。