永遠なんてつまらないよ。
と呟いて瞳を揺らしたあの人。
今も私の耳元で、永遠なんてないよと優しく嘯く。
まったく。永遠ならあったじゃ無いですか。
ここに。
「ナハツェーラー?」
夜、白い壁の邸宅の玄関先で、青髪のコドモことピスケスは来てないわよと答える。
かすみはそうなの?と首を傾げた。
「ええ」
さっきも“あの人”に聞かれたけど、来てないわとピスケスは隣に立つキャップ帽姿のコドモこと露夏に目を向ける。
露夏は静かに頷いた。
「そうなんだ…」
かすみはそう言って俯く。
キヲンはかすみ、と心配そうにかすみの顔を覗き込む。
「…アイツ、“あの人”の研究室で妙な人工精霊と乱闘してたっていうんでしょ」
ピスケスが不意に呟いたので、かすみとキヲン、露夏はそちらの方を見る。
「それでその人工精霊たちは“あの人”を狙って来ただろうって言ってたってことは…」
ピスケスは腕を組む。
「アイツ、まさかあの街へ…」
ピスケスの言葉にかすみたちはえっと驚く。
「つまり、ナツィは1人でその人工精霊たちの所に行っちゃったってこと⁈」
「まぁそうなるわね」
かすみが声を上げると、ピスケスは淡々と答えた。
かすみはそんな…と暗い顔をする。
光はすぐに止み、反射的に閉じていた目を開くと、そこは最初にいた駅のホームの上だった。
電車はおよそ90分の遅れの末、今まさに到着したところで、青葉と白神の目の前で乗降口の扉が開いた。
遅延の影響か殆ど満員状態だったその車両を一度見送り、空いたベンチに並んで腰掛ける。
「……脱出成功ってことで良いのかな?」
「そう……なんじゃないですかね。どうなの、カオル?」
(大丈夫、もう脅威は無いよ。……その妖怪以外)
青葉の脳内に響く声で、カオルが答えた。
「大丈夫みたいです」
「それは良かった。めでたしめでたしだね」
「そうですね」
2人がほぼ同時に、電光掲示板の表示に目をやる。次の電車の到着は7分後と出ている。
「結構あるなぁ。さっきの電車に無理してでも乗っておいた方が良かったかな?」
「嫌ですよ、満員電車とか。……どうせ次も似たような感じなんだろうけど」
「じゃあ次もスルーする?」
「……それはそれで面倒ですね。もう良いや、次で帰りましょう」
「そうだね」
その後、定刻通りに来た先ほどのものとほぼ変わらない混み具合の電車に、2人は身体を滑り込ませた。
学校帰りの夕方
気動車に乗車する
ふと窓を見ると
花火があった
過ぎ去っていく
踏切の音が
寂しげに鳴っている
「相棒ぉっ!」
体外に続く穴に向けて、キリが呼びかける。
「はいはーい……っと!」
ヴィスクムは体外からビーストに接続された左腕に転移術で接近し、その掌を『キリの左手で』叩く。
「スワップ」
魔法が発動し、『ヴィスクムの左腕』と『キリの左腕』の位置が入れ替わる。
(よし、これで私の腕は取り戻せた)
そのまま己の下に戻ってきた左腕で、ビーストの胴体に軽く触れる。『ヴィスクムの左腕』と『ビーストの左前腕』が入れ替わり、竜の腕がヴィスクムに移動する。
「っはは、でっかいだけあって腕も重いね! これで……そおりゃっ!」
そのまま、竜の腕でビーストの頭部の1つを殴り潰した。残り8つの頭部は同時に咆哮をあげ、一斉にヴィスクムに襲い掛かる。その1本は、彼女のかざした竜の腕を噛みちぎった。
「あぁららー、自爆だね?」
挑発的に笑ったのと同時に、ヴィスクムの身体はビーストの体内に転移した。キリが自身に移動していたヴィスクムの左腕で、2人の位置を入れ替えたのだ。
「そしてぇ……ぽいっと」
短距離転移術で体外に移動し、毒霧の範囲外に出現してからキリと入れ替わる。
「キリちゃん、身体は大丈夫? 毒霧はまだ収まってないけど……」
隣に転移してきたヴィスクムに、キリは親指を立ててみせた。
「息止めてたから大丈夫」
「それなら良かった。……さぁて。お腹に大穴、片腕欠損、頭も1つ取った。一気に決めちゃおうか!」
「うん。手ぇ貸してもらうぞ、相棒」
キリは立ち上がり、左隣のヴィスクムと手を叩き合わせた。
「どうせ戦えないし戦う気もないのだから、ここで全部終わらせるのが1番いい」
そうすれば、あの子の所にと青緑色の髪の少女は空を見上げる。少年は思わず俯いた。
「…そんなの、間違ってる」
間違ってるよ!と少年は叫ぶ。その言葉に青緑色の髪の少女はちらと少年の方を見た。
「大切な人を失ったからって、自分もいなくなっていい訳がないよ!」
なんで諦めちゃうんだよ!と少年は言う。青緑色の髪の少女はだってと呟く。
「もう僕には戦う意味なんて」
「意味はあるよ‼︎」
少年は彼女の言葉を遮るように声を上げる。
「…ぼくは、知ってる人に死んでほしくない」
例えあなたであっても、と少年は続ける。
「あなただって、知ってる人に死んでほしくないんじゃないんですか⁇」
だからぼくに逃げろって言うんでしょ、と少年はしゃがみ込む。
「なら、一緒に生きましょう」
せっかくならぼくはあなたと契約したって構わない、と少年は青緑色の髪の少女の目を見る。青緑色の髪の少女は思わず目を逸らす。
「で、でも、僕のマスターになったら君は」
「大丈夫です、ぼくは死にません」
ビーストなんかにやられないから、と少年は真剣な面持ちで言う。青緑色の髪の少女は目をぱちくりさせた。
「…本当にいいのかい、少年」
君は、もしかしたら過酷な目に遭うかもしれないよと青緑色の髪の少女は訊く。少年は分かってますと頷く。青緑色の髪の少女は暫くの沈黙ののち、ため息をついた。
「分かった」
そう言って青緑色の髪の少女は立ち上がる。
「君と契約しよう」
「うん」
少年がそう頷くと、少年と青緑色の髪の少女の左手の甲に青緑色の花の紋様が浮かび上がった。
「じゃ、行ってくる」
彼女がそう言って右手の指を鳴らすとパッとその場から消えた。
避難所となっている小学校近くの通りにて。
大型爬虫類のような姿のビーストが、3人のドーリィと戦っている。ドーリィたちはそれぞれ武器を携えて果敢に攻めるがビーストは周囲の建物を崩したり火球を吐いたりして応戦していた。
「…このままじゃラチが空かないわね」
2本の赤い刀でビーストに斬りかかったリコリスがふと呟く。相手のビーストの胴体の皮膚は鱗に覆われている訳でもないのに硬質で、魔力による強化をしても中々刃が通らなかった。