ノートの切れ端に書いた歌詞
我ながら傑作だと悟る
だけどそれはただの自己満足
だれも見向きはしない
笑うだけさ
ベットの端で浮かんだ歌詞
何処に書き留めようかな
悩んでいる間に遠くへと
僕の思想は飛んでゆく
四六時中僕は悩む
世の中の真理を
どんなアイデアも
どんな言葉も
走れない時はある
そんな時は
そんな事は
忘れてかき消して仕舞えばいい
作詞ノートの目次が増える
紙一枚一曲書いてゆく
悩んでる間に遠くへと
旧友が去ってゆく
友達との関係も
なんでもいいのさ
どんな歌詞も
どんな言葉も
曲がなければ見てもらえない
そんな時には
そんな世間は
捨てて仕舞えばいいのさ
人付き合いも何もかも
作詞がしたくて辞めたんだ
元々いらない人間は努力しても
報われない
そうさ本当に僕の価値はないんだ
「動かないで」
近づくと撃つよとヤマブキは低い声で言う。
その様子を見た露夏はあの野郎…!と思わず歩き出そうとしたが、それをピスケスは手で制した。
「…あなたたちが噂の“魔術師を襲う”人工精霊ね」
ピスケスがフューシャたちに目を向けると、フューシャはあぁと頷く。
「“学会”には恨みがあるからな」
「恨みってなんだよ」
何かあったのか、と露夏は尋ねる。
フューシャは…そうだな、と言ってから淡々と語り出した。
「オレたちは元々、“学会”やそれ以外の組織の魔術師の使い魔だった」
フューシャは目を瞑る。
「だが主人との反りが合わなくて、オレたちは奴らから逃げ出したんだ」
そしてオレたちは出会い、仲間になったとフューシャは続ける。
「そうして暫く5人で暮らしていたんだが…」
「5人?」
お前ら4人じゃないのか?と露夏がここで首を傾げる。
フューシャは目を見開く。
「…本当は、オレたちは5人だった」
オレとヤマブキとドゥンヤー、鉄紺、そして…とフューシャは呟く。
「……ごめん俺契約の押し売りは断れって死んだ婆ちゃんに言われたから……」
「そんなぁ、どうして」
つい勢いで断ってしまった。実際、ドーリィがいれば安心ってのは事実だ。最近はビースト事件の報道も増えてきているわけで、マスター付のドーリィが身近にいれば安全性は一気に向上する。けどなぁ……。
「いやだってお前……なんか、あれじゃん……」
こいつがドーリィだってのが事実だったとして、こいつ個人と契約するのはなぁ……。
「でも私、お兄さんのこと命に代えてもお守りしますよ?」
「お前なのがなぁ……そもそも互いに名前すら知らねえじゃん。信頼も何も無ぇ」
「あ、私お兄さんの苗字知ってます。スナハラさん!」
「サハラな。砂に原でサハラ」
「砂漠?」
「違げえよ。いや字面的にはそれっぽいけど」
「そういえば砂砂漠って『砂』の字が2個連続してて面白いですよね」
「おっそうだな」
「あ、私の名前でしたよね。私、カリステジアっていいます。ハマヒルガオのCalystegia soldanella」
「長げぇな」
「短く縮めて愛称で呼んでくれても良いんですよ?」
「えっやだそんなのお前と仲良いみたいじゃん……」
「最高じゃないですかぁ」
少女カリステジアと言い合っていると、俺達の上に影が覆い被さってきた。
「ありゃ……これは、マズいですかね?」
カリステジアの言葉に見上げると、あの巨大ウミヘビが俺達を見下ろしていた。
ウミヘビが口を開けて突っ込んでくる。同時に、カリステジアが俺を押し倒した。悪いが地面にへばりついただけでどうこうなる話じゃないと思うんだが……。
(あの霊たちの動き……不自然だった。あまりにも統率が取れていた)
屋根の上を走りながら、青葉は考える。無数の手の霊が注意を引き、武者の霊が背後を取る。あたかも協力して人間を狩ろうとしているかのようなその様子。ただの悪霊が共生関係を取ることは、基本的にあり得ない。
「……つまり」
(つまり?)
立ち止まり、夜の街を眺める。
「『霊を操る何か』がいる。悪霊退治だけじゃ、駄目なんだ」
(なるほどねぇ……もしかしたらその予想、なかなか鋭いんじゃない? ワタシの可愛い青葉)
カオルの声に頷き、再び駆け出そうとして急ブレーキをかけ、その場にしゃがみ込む。
(ワタシの可愛い青葉、どうしたの?)
(いや……下を姉さまが通るのが見えて……)
(抜け出したのが見つかったら、怒られちゃうかな?)
(どうだろう……どっちにしても、心配はかけちゃうからな……それは避けたい)
(じゃあ、少し待ってから行こうね)
(うん。流石に走り疲れてきてたから、休憩できるのはむしろ助かるよ)
しばし屋根の上に伏せて待機し、物音が聞こえなくなるのを待ってから再び立ち上がる。
「取り敢えず、人の少ない場所を探そう」
(目標は?)
「人間。『何も探していない』人間」