ヤマブキは魔力式銃をピスケスに向かって撃つが、ピスケスはそれを易々と避けていく。
そしてピスケスはどこからともなく出した短弓で矢を放った。
しかしここで緑色の肌のコドモことドゥンヤーがヤマブキの前に飛び出し、掲げた右手から光の壁を生成して矢を弾いた。
「ドゥンヤー!」
ヤマブキが思わず声を上げるが、一息に魔力を使い過ぎたのか光壁は消滅してドゥンヤーはへたり込んだ。
そこへ露夏が懐から出した包丁を持って駆け込むが、フューシャが右脚のホルスターから果物ナイフを取り出して露夏の攻撃を受け止める。
露夏とフューシャは互いの得物で鍔迫り合いをすると、フューシャは涼しい顔で露夏を弾く。
だが露夏は地面を転がるもすぐに立ち上がりフューシャに向かって飛びかかる。
2人は再度互いの武器で押し合った。
「…」
仲間たちが戦う中、後方で立ち尽くすキヲンとかすみに気付いた鉄紺は両手に1振りずつ刀を生成して駆け出そうとするが、不意においと呼び止められて立ち止まる。
鉄紺が声のする方を見ると、地面に座り込んでいたナツィがふらふらと立ち上がっていた。
「ちょっと二人とも、仕事の時間だよ。」
「「はーい」」
「よいしょ....っと。それでは」
「行ってきます!」
吹き抜ける夜風が、少女たちの髪を優しく撫でた。
桜の木は、月光の花を咲かせてそよいでいた。
少女たちを見つめるかのように。
「なッ、貴様、待て! 何をする気だ!」
平坂は慌てて後を追うが、青葉の敏捷性には追いつけず、その差は少しずつ開いていく。
やがて二人はその路地の最奥、数軒の民家に囲まれた行き止まりに辿り着き、そこで一度立ち止まった。
「何故逃げた……岩戸の……」
息を切らしながら、平坂は青葉に近付いた。
「私は容疑者の姿を遠巻きとはいえ実際に見ています。協力できるはずです」
「貴様…………分かった。協力はしてもらうが、俺の監視下に置くからな。勝手はさせんぞ」
「はい。それで良いです」
2人が話を付け、表の通りに戻ろうとしたその時、突然、平坂が振り返った。
「? 潜龍さん?」
「……お前、ここに子供が入ってきたと言っていたな」
「はい、言いましたけど……」
「俺は姿こそ見なかったが…………どうやったんだ?」
「何がです?」
青葉の疑問には答えず、平坂はある民家の屋根の上に何かを投げつけた。ほぼ直線の軌道で飛んでいったそれは、硬い金属音と共に弾かれ、地面に落下する。
「……危ないなァー。体力少ない雑魚のくせに投擲力だけは無駄にあるんだから」
屋根の上から、柄の悪いやや幼めの女声が降ってきた。
青葉がそちらに目を凝らす。星明りの下、注意して見ると、屋根の縁に一人の少女が足を組んで腰掛け、2人を見下ろしていた。
ウミヘビの方を見る。何度か攻撃を繰り返しているようだけど、本当にこっちには何の影響も無いみたいだ。
「あー……カリステジア」
「はい」
「詳しく説明してくれ」
「はい。私のバリア、6面の直方体の形なんですけど、えっと……」
カリステジアは俺の釣竿に付いていた浮きを外して掌の中で転がしてみせる。
「これを……こう」
奴がそれを真横に向けて投げた。浮きは奴が投げたのと反対方向から、俺達の間に転がって来た。
「こんな感じで、私のバリアの境界面に触れたものは、反対側から出てくるんです。外側と内側、どっちにも適用できるし、通り抜けを起こさないのもできますよ。……と、いうわけで」
奴がまた抱き着いてきた。周りのバリアが狭まったのが触覚で分かる。
「いつものドーリィちゃんが何とかしてくれるまで、私達はこうしてのんびり待っていましょうね」
「それは良いけどまずは離れろや」
「お兄さん……当然ですけど、バリアは広げるほど消耗が激しくなるんですよ? できるだけ狭い空間で密着してた方がお得じゃないですか」
「…………ちなみに、あとどれくらい持つ?」
「お兄さんが寿命を迎えるまでくらいの時間は余裕で」
「ならもう少し広げようなー」
「そんなぁ……」