「…何だよ」
「いや何だよって」
おれが苦笑すると、少女はふてくされたような顔をする。
「お前こそ何してんだよ、ネロ」
おれが尋ねると、ネロはふいとそっぽを向く。
「別に」
ここから下の風景を眺めてるだけだよ、とネロは答える。
「ふーん」
おれはそれだけ言ってうなずいた。
…と、おれはある事を思いついた。
「あ、そうだ」
おれがそう呟くと、ネロは何?と不思議そうな顔をする。
「おれ、今皆とかくれんぼしてるんだけどさ」
お前おれの事手伝えよ、とおれはネロに提案する。
「は?」
ネロは意味が分からないのかポカンとしていた。
「だからお前の異能力を使っておれの仲間を探し出すんだよ」
簡単だろ?とおれはネロに笑いかける。
青葉と“野武士”がそれぞれの武器で同時に襲い掛かるのを、悪霊は明らかに不自然に身体を折りたたみながら回避し、腕を2人に伸ばす。青葉は跳躍によって回避し、“野武士”は無数の腕の霊“草分”に引きずられてその場を離脱する。
更に2人が正面から外れたのと同時に、犬神が自身の能力で土壁の破片を射出し、悪霊に直撃させた。土塊は着弾と同時に粉砕し、悪霊の周囲に土煙が上がる。
土煙の中から高速で伸びてきた2本の腕が3人を狙って暴れ回るが、その攻撃は犬神の展開していた土壁に防がれた。
「……うーん、ちょっと困ったな」
犬神の呟きに、あとの2人が視線を向ける。
「どした?」
千ユリが訊き返す。
「……いやさぁ。私のこの土を操る力はさ、私に憑いてる犬神にお願いして使ってるんだけどね? この子、どうも臆病なところがあってね? だから私が手綱握ってあげないとなんだけど……多分、あの悪霊のせいでこの一帯が穢れてるんだろうね。普段ほど自由に力が使えない。防御用の障害物を展開するくらいが限界だから、攻撃は2人に任せるね」
「へェ……役立たねぇヤツだなー」
「いやぁごめんね。あ、来る」
犬神の警告とほぼ同時に、土壁が悪霊に殴り砕かれる。千ユリはエイト・フィートに自身を引き寄せさせ、青葉は犬神を巻き込んでその場に倒れ込み、その攻撃を回避した。
旧帝国の誕生よりおよそ200年。
帝国は最西の最強として名を馳せる。
しかしその実情は、独裁体制が敷かれ、言論の統制などの悪政が横行していた。
そんな中、少年ミツクは教会で獅子王の啓示を受ける。
「皇帝は龍に乗っ取られておる。儂の力を貸してやろう。お主の先祖、サヌオスの様に龍を打ち破り、再びこの地に平穏をもたらすのだ。」と。
ミツクは、例え獅子王のご加護があったとしても、子供一人では無理だと考え、再び五人の聖騎士を集めることにした。
幸いにも、五人の聖騎士の子孫は居場所が知れていた。
一人一人の家を訪ね、事情を説明し、丁寧に頭を下げてまわった。
その結果、全員の協力を得る事に成功した。
ミツクは王宮へ忍び込み、塔に幽閉されている本物の皇帝と皇太子を救出した。
皇帝と皇太子を仲間に託すと、ミツクは玉座の間へと進んだ。
玉座には偽物の皇帝が座っており、いびきをかいていた。
ミツクはここぞとばかりに、サヌオス将軍の槍を突き立てた。
偽物の皇帝に成りすましていた邪龍は、大きく一声鳴き、再び姿を消した。
助け出された皇帝と皇太子はミツクと五人の仲間に感謝した。
その後、自身の不甲斐なさを恥じた皇帝がミツクへと皇位を継承した。
かくして、「新ハルク帝国」が誕生したのである。
「せんせぇー、アルベド先生ぇー。ワカバが来ましたよー」
研究室に続く階段を下りながら、ワカバは室内にいるであろう“アルベド”に声を掛けた。
(……返事ないな。いつもみたいに術式構築の最中かな? それなら静かにしなくっちゃ)
そう考えながら、防音加工された扉を静かに開き、隙間から顔を覗かせる。
研究室の中央では、“アルベド”と呼ばれる魔術師の青年が、見知らぬ少女に組み伏せられていた。薄汚れた簡素な衣服を身に纏った痩身の少女は、両脚の膝より下が猛禽のそれを思わせる鱗に覆われ鋭い爪を具えたものに置き換わっており、背中ではところどころ羽根の抜け落ちた、痩せた茶色の小さな翼が生えていることから、人外存在であることは明白だった。
「あれ、先生。新しい娘さんですか? かわいいですねー」
言いながら、ワカバはデスクの上に荷物を下ろした。
「あぁっ⁉ ンなわけ無ェだろうが見て察せ!」
アルベドの言葉は無視して、ワカバは壁際の薬品棚を見上げ、その上に丸まっていた猫の特徴を表出した子供に声を掛ける。
「こんにちは、おネコちゃん」
「……んゃぁ…………」
“おネコ”と呼ばれたその使い魔は、小さく鳴き尾を軽く振って応えた。
「おーい向田ワカバァ、挨拶が済んだら助けてくれ頼む!」
「ん、どうしました先生?」
「見て分かんねーかなぁ⁉ 現在絶賛暗殺されかけてる真っ最中なんだよ!」
猛禽風の使い魔は鋭く伸びた足の爪をアルベドの喉元に突き刺さんと踏みつけを試みており、対するアルベドはその足を下から押し返し、残り数㎝のところで持ち堪えている。
「アルベド先生、結構恨み買ってますもんねぇ……」
「それは否定できねェけどさァ……」
「うーん……ちょっと待っててくださいね」
ワカバは格闘する二人の傍にしゃがみ込み、使い魔の顔を覗き込んだ。
〈主要登場人物〉
・ナハツェーラー Nachzehrer
通称ナツィ。
二つ名は「黒い蝶」。
一人称は「俺」。
この物語の一応の主役にしてアイコン。
髪は短く癖のある黒髪と黒目で背丈はそんなに低くも高くもなく(156cm)、少年とも少女ともつかない容姿をしている。
服装は基本ゴスファッション(スカートは履かない)で、足元は黒タイツと厚底のショートブーツかメリージェーン(ストラップ付きパンプス)、手にはいつも黒手袋をはめている。
性格は面倒くさがりだけどツンデレ。
でもその強さは折り紙つきで、もしもの時は仲間をちゃんと守ってくれる。
数百年前、高名な魔術師“ヴンダーリッヒ”によって作り出された最高傑作の人工精霊にして使い魔。
人間嫌いだが、「緋い魔女」「緋い魔女と黒い蝶」では相方のグレートヒェンにデレてたりするのでものすごく嫌いって訳ではなさそう。
好きなものは紅茶と甘いもの(甘いものに関しては隠したがってる)。
ジークリンデと名付けた白いウサギのぬいぐるみを大事にしている。
右手に仕込まれた術式によって蝶が象られた黒鉄色の大鎌を生成したり、背中にコウモリのような黒い翼を生やして飛んだりできる。
普段はかすみやキヲン、ピスケス、露夏と共にかすみの主人の喫茶店の2階の物置に溜まってお茶をしていることが多い。
キヲンには好かれているし、隠したがってるけどかすみのことは好き。
ピスケスを通して“学会”から監視されている。
露夏のことはなんとなく気に食わない。
現在の主人は背の高い老紳士で、微妙な関係性。
最近ここを見にも来られないくらい
忙しい生活の中にいた
書きたいと思うことすら忘れるくらい
脳は何かに支配されていた
人は変わる
生活次第で、持っているお金次第で、何を見ているか次第で、
久しぶりにここに来ても昔の自分のように人の気持ちに溺れる感覚がなかった
冷たくなってしまったと怖くなった
社会を知らなければ人を知れないと思ったのに
社会の実態を、競走の激しさを知ることで気付かぬ間に何かを捨ててしまっていたのだろうか?
難しい言葉なら、専門用語なら沢山覚えたのに
今のこの虚しさを指す言葉がない
形容する術も、例える画もない
昔より走ってきた分
出来ないことが悔しくなる
だから私はまとまらない思いをこうして言葉にしていく