変身を解いてから、ヒトエはエリカに尋ねた。
「あの、エリカさん。さっきの人、何だったんですか? あのカミラって怪人と親しそうでしたけど……まるで母親みたいな……」
「うん……あの人は“ハイ・ジャック”って人」
「ハイジャック?」
「そう名乗ってたの。怪人たちの親玉、って言えば良いのかな」
「へぇ……」
「っていうか、怪人たちについて、結構何も知らないね? ずっと前から世間の話題のど真ん中だったのに」
「ニュースとか見ないタイプでして……」
「まぁ、中学生なんてそんなもんだよねぇ。1年?」
「はい」
「私とチヒロちゃんは3年なんだぁ。よろしくね?」
エリカの差し出した右手を、ヒトエは両手で握り返した。
「えっあっはい。よろしくお願いします……」
「あと一人、2年の子がいるんだけど……来てないなぁ……」
エリカは周囲を見回してから、ヒトエに視線を戻した。
「またいる時に紹介するね?」
「はい」
「それじゃあ教室戻ろっか。もう帰りの時間でしょ?」
エリカに手招きされ、3人は校舎の中へと引き返していった。
琅に手を引かれてキヲンが歩き続け約20分。
いつの間にかキヲンは海沿いの倉庫街のような所に来ていた。
「ねぇ、ここどこ…?」
見知らぬ怪しげな場所に入り込んでしまったキヲンは不安げに呟く。
対して琅は別に怖い所じゃないってと笑顔を見せる。
「…それにしても硫、お前今まで何してたんだ?」
日が暮れ始めて薄暗くなってきた倉庫街を歩きながら、琅はふとキヲンに尋ねる。
ボクはキヲンなんだけどなぁとキヲンが答えると、そんなことはいいからと琅が続ける。
「どこかの魔術師の元で暮らしてたのか?」
琅の言葉に、魔術師っていうか…とキヲンは頭を掻く。
「魔術師“見習い”みたいな人の所で暮らしてたって言うのかな」
キヲンは続ける。
「ボクにもよく分かんないんだけど、ある人工精霊の手でボクはあの人の元に来たんだよね」
それで“ボクはボクになった”の、とキヲンは笑った。
琅はよく分かんね、と笑う。
「…そういうキミは何者なの?」
ボクのこと知ってるみたいだけど、とキヲンは琅に聞く。
琅は、そりゃお前の“家族”だよと返す。
不意に琥珀の下半身を押さえつけているダクトの鉄壁が消えた。思い切り後ろ足で蹴ると、肉球に毛のようなものが触れる。
『うおおお!?くすぐったい!!』
『ぴぃ!やっぱりなんかきてる!!』
林檎は悲鳴をあげて琥珀の耳を引っ張る。
『お前は!先に行け!』
琥珀は林檎を小突いて先に行かせ、自分も慌てて思い切り床を蹴った。林檎は琥珀の前を懸命に走る。琥珀が広くなったダクト内で首を回すと、後ろで口を開けている巨大な蜘蛛が見えた。
_ああ、なるほどな…。
その蜘蛛がダクトの中に入ろうと脚でこじ開けるため、琥珀も動きやすくなったのだ。
『こはく!そとみえた!』
琥珀が顔を進行方向に戻すと、林檎の身体が消えている。
『林檎…』
前足が空を切る。