こうして、リーリアメティヘンシューラのマイセリア サイアニス率いる魔法少女たちによる、櫻女学院襲撃は失敗に終わった。
生徒会長のピレタがレピドプテラ総務局に連絡したことで現場には総務局の局員が駆けつけ、サイアたちは連行されていったのである。
そうやって、櫻女学院に平穏が戻った。
「……あのサイアって人、このあとどうなるんでしょ?」
去り行く総務局の関係者を校舎の玄関から見送りつつ、ラパエはふと呟く。それに対し制服姿に戻ったピレタは「ま、良くも悪くも大事にはならないでしょうね」と返す。
「レピドプテラではかなり有力な学園の魔法少女だから、学園側が総務局に圧力をかけて、あの子たちもすぐに普段通りの生活を送れるようになると思うわ」
ピレタが呟くと、ラパエはなんか複雑ですねとこぼす。それに対し制服姿のサルペは仕方ないよと苦笑する。
「このレピドプテラにおいて総務局はそんなに強い存在じゃないから」
正直総務局よりも強い学園なんていくつもあるしね、とサルペは伸びをする。ラパエはへーと答えた。
「まぁまぁ、そんなことは置いといて……もうそろ帰ろうぜ」
日も暮れちゃうし、と制服姿に戻ったシーアはラパエの顔を覗き込む。制服姿のグッタータもそうですねと頷く。
「じゃー、もう帰ろっか」
みんな、とサルペはラパエたちを見やって笑う。ピレタはそうねと返し、シーアはおうよ、グッタータははい、と言う。そしてラパエは「帰りましょ、サルペ先輩」と微笑んだ。
そして5人は櫻女学院の校舎をあとにした。
〈おわり〉
「⁈」
サイアが困惑したように自らの腕を見ると、透明な手が自身の腕を掴んでいることに気付いた。
「お前は‼︎」
サイアが声を上げると、その透明な手の持ち主がはっきり見えるようになった。赤いロリィタ服を身に纏った三つ編みお下げのその少女……ピレタは、サイアの腕を無理やり玄関の床に押さえつける。
「私たちの学園で騒動を起こすなんて、リーリアメティヘンシューラの魔法少女も酷いものね」
ピレタがそう呟くと、サイアは彼女を睨みつける。
「……櫻女学院の生徒会長、チタリアス ピレタか」
そう言うと、サイアはピレタの手を振り解こうとする。だがピレタは逃がさないわとサイアの腕を掴む力を強める。
「あなたは私たちの学園生に危害を加えようとしたのだから、総務局に来てもらうわよ」
堪忍なさいとピレタは言う。その言葉にサイアはそうかいと答えて、抵抗をやめた。
「こんな子ども騙し、私には通じない!」
そう声を上げながらサイアは“ラパエ”たちが消失したことでがら空きになった場所を走り抜ける。それを見たサルペは「させない!」とサイアに飛びかかろうとするが、サルペの目の前でサイアの姿は見えなくなった。
「まさか、固有魔法‼︎」
サルペはそう叫ぶ。“周囲の空間に溶け込む”魔法を固有魔法とするサイアは姿を見せないまま校舎内に突入し、玄関を見回す。すると、柱の陰に座り込む二つ結びの少女が見えた。
サイアはそのままその少女……ラパエに近付こうとするが、不意に「シーア!」とサルペの声が後方から飛んでくる。その次の瞬間、サイアは誰かに横から体当たりされ、地面に倒される。
「⁈」
驚きの余り魔法を解除してしまったサイアの目の前には、山吹色のキャミソールとバルーンパンツを身に纏った、サイドテールの魔法少女が姿を現した。武器である鉄扇を突きつけているその少女……シーアに気付いた時、サイアは自身が罠にはめられたことに気付いた。
「そんな、無名の学園生ごときに!」
サイアはそう言ってマシンガンを構えようとするが、手に持っているマシンガンが突然飛んできた何者かに奪われる。混乱するサイアが飛んできた人物が着地した方を見やると、マシンガンを持った黄土色の髪で黄土色と緑の和服のような衣装を身に纏った少女……グッタータがサイアの方を振り向いていた。
「……これでキミたちの負けだね」
不意にそんな言葉をかけられて、サイアは玄関の扉の方を見る。ちょうど校舎の外からサルペが入ってきている所だった。
「キミが連れてきた魔法少女たちはみんなラパエの分身が無力化したし、キミもその状況じゃ動けない」
「もう、諦めた方が……」とサルペは言いかけるが、サイアはそうかと呟く。サルペは言葉を止める。
「これで私を無力化できたと思っているのか」
サイアの言葉に、サルペはまさかと目を見開く。その次の瞬間サイアは右手にマシンガンを生成し、サルペに突きつけようとした。
しかし彼女の腕は突然誰かに押さえつけられたように上がらなくなる。
「⁈」
サイアが困惑したように自らの腕を見ると、透明な手が自身の腕を掴んでいることに気付いた。
一方、サルペを櫻女学院の校舎内まで吹っ飛ばしたサイアや彼女に従う魔法少女たちは、校舎の目の前で武器を構えてサルペたちを待っていた。学園の入り口付近で違う学園同士の魔法少女が戦うことはまだしも、武力をもって櫻女学院の校舎に入ればそれこそ学園間の大問題になるため、サイアたちは下手に動けず暫く様子を見ていたのだ。しかし校舎内でサルペたちは話し込んでいる様子であるため、そろそろ校舎内に立ち入ることもサイアは考えていた。
「そろそろ、頃合いか」
早くしないと我が学園の生徒会長に怒られかねないからな、とサイアは校舎外壁に掲げられた時計を見やる。
「それに、あの魔法少女は早く捕縛せねばなるまい」
なにせあのまま放置すれば有力な学園同士での勢力均衡に影響が出かねん、とサイアは校舎の玄関口に目を向けた。
いつの間にか、サルペたちは玄関の柱の陰に隠れている。それを確認したサイアは周囲に従えた少女たちに対し声を上げた。
「総員に告ぐ!」
「これより……」とサイアが言いかけた時、不意に「サイア‼︎」という声が校舎の玄関から聞こえた。サイアが声のする方を見ると、そこにはサルペとラパエが玄関口から外に出てきていた。
それを見てサイアは驚く。
「どうした、気でも変わったか」
それに対しサルペは「まぁ、そんな所だよ」と返す。
「キミたちに、ピエリス ラパエを引き渡そう」
「……ただし」とサルペは続ける。
「“本物”を見分けられたらだけどね‼︎」
サルペがそう言った途端、周囲の地面に突き刺さった状態で水色の刀が何本も現れる。その直後、玄関の中から大勢の“ラパエ”が現れ、地面に刺さった刀を手に取ってサイアたちの方へ駆け出していった。
「まさか‼︎」
サイアは思わずそう叫ぶ。サイアに従う少女たちは一斉に銃器を構えるが、どの“ラパエ”が本物か分からず引き金を引くことができない。その隙に“ラパエ”たちはサルペの生成した刀で少女たちの銃器を弾き飛ばしていき、あっという間にサイアが従える少女たちの陣形は崩れていった。
しかしサイアはすぐに冷静さを取り戻し、マシンガンで“ラパエ”たちを撃ち抜いていく。“ラパエ”たちは魔力弾を喰らうとすぐに消えていった。
_シオン転入から1週間。シオンは個性的なお嬢様に気に入られたアスリート体格の人として若干名を馳せつつあった。
「シオンさん!」
「うわーーーーっ!!!!」
エリザベスに耳元で大声を出され、シオンは柄にもなく叫んでしまう。
「まあ、お元気なようで何よりですわ!おはようございます」
「お…おはよう…リサちゃん」
のんびりとしているシオンとは対照的に、エリザベスはてきぱきと靴を履き替え、シオンの腕をぐいぐい引っ張り始めた。
「ほらほら!早く行きましょう!」
「わわ、待って〜」
「ああそうですわ、こっちを通ると近道になりますの。でも壁にひびが入っていますから、先生方に見つかると怒られてしまいますわ。この時間なら誰も通りません、行きましょう」
「う、うん」
エリザベスは申し訳程度に立ち入りを禁じているカラーコーンを跨いで階段を登る。シオンもそれにならい、ついていく。
「_ん?」
違和感。踊り場の鏡にはひびが入っていた。ひびからは僅かにだが水が染み出している。しかし、それだけだ。シオンは無視して通り過ぎた。
10月のある日の午後9時,1人の青年は俗に言う肉体労働のアルバイト勤務を終えて疲れた身体に鞭打ち,都会のドーム球場を目指しておよそ7キロの道を地下鉄と己の脚力に頼って駆け抜けた。
なぜなら,彼が幼少期から応援し続けているプロ野球チームが4年ぶり39度めのリーグ優勝を果たし、上位三チームがぶつかり合うポストシーズンの勝ち抜き戦の最終試合がそのチームの本拠地であるドーム球場で行われていたからだ。
この試合で勝ったチームだけがその後,その年1年間で最も強かった野球チーム一つにしか贈られない名誉ある座に相応しいチームを決める決勝の舞台への参加資格を得られるからだ。
しかし,その優勝チームは残念ながらリーグ3位から勝ち上がったチームに接戦で勝ち切ることができずに逆転を許し,シーズンに別れを告げて長くてつらい冬のオフシーズンへと入った。
その青年もまた,胸に悲しみと負けた悔しさを秘め,数々の場所を巡って新たな人生の1ページを求めて悶々とした日々を過ごした。
しかし,花曇りの空の下で満開の桜が舞う3月下旬,彼や彼と同じチームを愛し,応援するファン仲間やチャンピオンの座を目指して全力を尽くして敗れ去っていった他チームのファンにとっても長くてつらい5ヶ月とは別れを告げ,この国のプロ野球最古の伝統球団として,40回めの優勝と13年越しの日本一という悲願成就に向けた創設91周年という節目のシーズンが今,始まろうとしている。
球場で固唾を飲んで見守る人,事情があって出先からラジオ中継やテレビ中継・ネットの速報で試合の様子を知ろうとする人,野球選手に憧れる若い世代の人,愛するパートナーや家族と共に試合を見守ろうとする人,この国で大衆娯楽の一つとして愛される野球を愛する全ての人が待ち望んだこの瞬間,それぞれの球場でそれぞれの試合開始時刻になり審判から試合開始という意味の「プレイボール!」のコールがかかりました!
さあ,野球の時間です!
良く言えば、気付ける人が増えた
悪く言えば、神経質な人が増えた
目の前に多くの意見が行き交って、自分の気持ちが見えなくなっていく
それならと、美味しい意見は飲み込んで
不味い意見は吐き出した。
まあそうすれば、ちっとは楽だ。
あの校庭
あのチャイム
あの時計とレモン石鹸。
(皆さん、卒業おめでとうございます。どんな3年間でしたか?やり残したことなど悔いはないですか…?良かったらレスなど、詩の感想を。)