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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 番外編 サマーエンカウンター ⑦

そんなこんなで、自分は家に急に来た2人組を自室に上げてしまった。
幸い平日の昼間に親は家にいないので問題はなかったが、正直自分の家に自分の意思で人を上げたのは初めてだったので少し緊張する。
それでも2人はお言葉に甘えて、と言いつつ家に上がり、自室に入っていった。
「…」
床に座って自分と向き合う少女と少年に、自分はどんな言葉をかけるか困り果てる。
とりあえずで家に上げてしまったよく分からない2人組に、自分はどう対応したらいいのだろうか…?
「…この子、かわいいね」
ふと少女が彼女にすり寄ってくる自分の家のネコ、ロヴィンを撫でつつ自分に話しかける。
「名前なんでいうの?」
少女が自分の方を見て尋ねるので、自分は困惑する。
しかし黙っている訳にはいかないので、少しの沈黙ののちこう答えた。
「…ロヴィン」
「へーロヴィンか~」
少女はそう言ってロヴィンを撫で回す。
ひとまず気まずい雰囲気は回避できたという事で、自分は少し安堵した。

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悲しみはどうしたら消せる

自分の欲しい物を買ったときに悲しみが消せると思ってた。でも消せなかった。

優越感に浸って悲しみを消せると思っていた。
でも消せなかった。

群れて悲しみを消せると思っていた。
でも消せなかった。

でもね

愛されていた事を自覚したときに、何だか、心が
暖かくなったんだ。

ようやく消せた。悲しみ。

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Specter children:人形遣いと水潜り その⑮

『クカカッ……キ、キキッ……知ってるんだゼェ? 盗み聞き、してたカラ……オマエ、“喜怒哀楽”を人形にして使うンダ』
鬼は長い前髪に隠れた口を歪めながら言う。
(……冰華ちゃん家で話してたの、聞かれてたのか。窓の下にでもいたのか? まったく気付かなかった……)
『ソレに、見たゾ……オマエの“武器”、人形を3体混ぜテ使うンダ。クカカッ』
「……それが何?」
拳を握り締めたまま蒼依が聞き返すと、鬼はケタケタと笑いながら言葉を続けた。
『カカカッ! 簡単な引き算ダ! 人間は感情ゼンブを捨てル事なんか出来ネェ! ソンナ事したら、感情ある生物は抜ケ殻になっちマウからナァ! ツマリ!』
鬼が右手の人差し指を立て、蒼依に突き付ける。
『オマエが同時に扱えるノハ“3体”! 3体マトめた“武器”は投げ捨てた! もう武器ハ無ェノダ!』
嘲るように笑う鬼に対して、蒼依の表情は飽くまで冷淡だった。
何も答えず駆け出し、跳躍して勢いのままに膝蹴りを鬼の鳩尾にめり込ませる。
『ゴブッ……⁉』
揺らいだ鬼の両肩を掴まえ、蒼依は更に膝蹴りを続ける。3度、4度、5度と、ひたすら膝蹴りを続けていた蒼依だったが、鬼が上半身と両腕を振り回したことで、飛び退くように距離を取り直した。
『効かネェんだヨ!』
反撃しようと、鬼が両腕を振り上げて一歩踏み出す。次の瞬間、鬼は『後方に向けて』跳躍した。その直後、1台のスクーター(原動機付自転車)が蒼依と鬼の中間を駆け抜けた。
(バイク……?)
蒼依が原付に気を取られていると、数m先の木の幹に車体を擦らせながら停止した機体から、冰華が飛び降りてきた。
「蒼依ちゃん! 助けに来たよ!」
「冰華ちゃん。原付免許持ってたんだ」
「うん、家まで取りに行ってて遅くなった。でも絶対轢けると思ったのに……」
「流石にエンジン音でバレるんじゃ」
「そっかぁ」
二人が鬼に意識を向けると、鬼もまた原付に気を取られ脇見をしていた。

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名もなき日

平等に残酷に過ぎていく1分1秒
そのうちの24時間
あるいは1440分、86400秒
人はこれを1日と呼ぶ

日が昇って日が沈む
起きてご飯食べて寝る
月が隠れてまた輝く
それに準えたただの単位

勝手に名前付けて
意味を求めて傷ついて
そんなんしなくても
勝手に時は過ぎていくのに

名など所詮実体を縛るばかり
昔の人が定めたどんな記念日よりも
私は今日という「名もなき日」に
意味があったと信じてる