「なんで…」
「あのおばあさんは病気だったのよ」
急にピスケスが話に割り込んできたので、ナツィの話を聞く3人はそちらに目を向ける。
ピスケスは淡々と続けた。
「ナハツェーラーを引き取った時点で、あのご夫人はもう先が長くなかった」
それでも引き取ったのは、あの夫妻には子どもがいなかったからみたいなんだけどね、とピスケスは呟く。
「最期くらい、子どもがいる生活を送ってみたかったのでしょう」
それでコイツと暮らすことを選んだ、とピスケスは足元に座り込むナツィを見下ろす。
ナツィは膝を抱えて黙っていた。
「それじゃ、ナツィは…」
「アイツはもう先が長くないこと、俺に黙ってたんだ」
入院したときだって、すぐ帰るって言ってたのにとナツィはこぼす。
「それなのに、アイツはいなくなってしまった…」
ナツィは抱えた膝に顔を埋める。
「それに、アイツだけじゃなくて、俺の保護者…あの爺さんも、俺にアイツの先が長くないってこと、黙ってたんだ」
だから裏切られたみたいで、俺は…とナツィは消え入りそうな声で続ける。
仲間たちはナツィの昔話を聞いて、つい沈黙する。
ナツィは膝に顔を埋めたまま震えている。
誰もが続ける言葉を見つけられずにいる中、ふとかすみがねぇ、と尋ねた。
言葉、題材。
夢。随筆。感想文。創造。
五感を綴る、言葉が並ぶ。
全てはアドリブ。だから私は、言葉が好きだ。
何もわからない。0から1を引き出し10へ組み立てる。薄くてもいい。過程が面白いのだ。
題材、それを他人に決めてもらうのもいい。0から生み出す1、それは無限の手段が溢れている。
10までの運び方、それは貴方だ。
「ナツィのところにおばあちゃんがいること知ってた⁇」
「いや、知らないけど…」
ピスケスは知ってたの?とかすみがピスケスに目を向けると、まぁそうねとピスケスは口元を手で隠しながら答えた。
「…で、話に戻るんだけど、俺は当時誰かに引き取られるのがすごくどうでもいいことだった」
だって引き取られたって俺は貴重品扱いで自由も利かないし、なにより人間が嫌いだしとナツィは足元を見る。
「だから俺はアイツらに引き取られてこの街に来ても、ずっとアイツの家にいるつもりでいたんだ」
でも、とナツィは自らの足先を見つめた。
「あの婆さんは、俺を外に引っ張り出した」
アイツは俺がずっと家の中にいるのはよくないと思ってたみたいだし、なにより俺を人間のコドモのように扱っていたんだ、とナツィは続ける。
「俺は人間が嫌いだから人間みたいに、ましてやコドモ扱いされることなんて嫌だったのに、アイツは俺を何度も外へ連れ出した」
そしてそのうち、俺もアイツらに気を許すようになったんだとナツィは呟いた。
「でも、アイツは…死んでしまった」
不意にナツィがそう呟いたので、キヲンは、えっと声を上げ、かすみや露夏も驚いたような顔をする。
白南風が顔を撫でる。この潮くささを知にきた。
ギターバックにチューナーは入れなかった、代わりに財布を。
私は始発の東海道線下りに乗る。駅中のコンビニのおにぎりは味が薄く、好みでは無い。
紅鮭、梅を、それぞれ一つ。
空はまだ、紺色。
この時間の駅はいい、調和の無いガヤつきは、道具なしで電車の走る決まったリズムだけになる。そして、私の足音。
本来礫は歪だ。
私はコンクリートの礫を轢かれた人間だと思う。
焦燥に駆られたのは午前3時ごろ。丑三時とかいうスピリチュアルは特に関係はない。
ただなんとなく、チューニングをしたくない。そんな一瞬を人生に感じたいと思っただけだ。
途中下車した砂浜で食べたおにぎりは、少ししだけ味がはっきりしていた気がする。
なんとなく、私は何かを見た気がした。
「なんで?」
「いや、シンプルにその親戚は屋敷に俺がいるってことを聞いてなかっただけだし」
イチイチ驚くな、とナツィは露夏を睨む。
露夏は…あ、うんとぎこちなく頷いた。
「それで俺の存在を知らなかった屋敷の持ち主は、“学会”に連絡しようと思ったんだけど…その前に俺の保護者が件の屋敷のある街に来て、俺の噂を聞いて屋敷に来たんだ」
ナツィは続ける。
「アイツは興味半分で俺を見に来たらしいんだけど…なんていうか、たまたま同行していた“アイツの奥さん”が俺を気に入ってしまって、それであの保護者の元に引き取られることになったんだよ」
「…ちょっと待て、“奥さん”⁈」
お前じーさんだけじゃなくばーさんもいたのか⁈と露夏がナツィの話に割り込む。
ナツィは、別に驚くことでもないしアイツらは俺の祖父母じゃないんだがと不快そうな顔をした。
それはそうだけど…と露夏は言うが、その間キヲンはねぇかすみ、と隣にしゃがむかすみに声をかける。
ごめんね。
私のひと言であなたを不快にさせちゃったね。
これからは気をつけるよ。
これからも友達でいてくださいm(*_ _)m
あぁ、とうとう来てしまった。
12月と1月の境界線と同じくらい
大事な境界線
境界線を飛び越えてしまえば新しい世界へとリセットされるようなこの境界線。
とうとう来てしまったよ。
この境界線の位置に。
別れと出会いの位置に。
もうすぐで飛び越えてしまうようだ。
寂しいようでちょっと楽しみな境界線を
新しい世界へとリセットされる境界線を
雨のあとのひんやりした冷気
この空の下にはムーンライト
雲が出てきた、
ピンクムーンを待つ。
天体ショーはいつも人間に深遠さを思い知らされる。
(4月の2日の満月はピンクムーンだそうです。桜とのコラボレーションが楽しみですね。桜が楽しみです。)
下田の別荘までの道のりといえば、海か森か宿場のだれかしかなかった。日本橋から伸びる一号線に、私は小田原で合流して下っている。
途中ビーチラインによってみた。伊豆半島を相模湾に向いている。
スーパーカブは下る。向かいからきたデカいバイクに乗ったバイカーと、ハンドサインで二、三回ほど挨拶をしただろうか。
日差しが強く、アスファルトからの熱が伝わる。