そういう訳で、わたし達は皆で霞さんを駅まで送っていく事にした。
寿々谷公園から寿々谷駅までは少し離れているので、わたし達はその道中ずっと話しながら歩いていく。
そんな中でも、黎は何かを気にしているようなそぶりを見せていた。
「へー、耀平くん、中学校では軟式テニス部に入ってるんだ~」
「まー適当にやってるだけだよ」
霞さんと耀平が楽しそうに話し、ネロと師郎はその様子を暖かく見守っている。
しかし黎は何かを気にしているようで、わたしの意識はそちらに向いていた。
一体何を気にしているのだろうとわたしが気にする中、黎が急に足を止める。
「黎?」
わたしがつい立ち止まって尋ねると、黎は後ろを向いてあれ…と呟いた。
「あれ?」
一体な…とわたしが言いかけた時、不意にうふふふふふと高笑いがわたし達の後方から響く。
わたし達がそちらを見ると、そこには白いミニワンピースにツインテール、そして赤黒く輝く瞳を持った少女が立っていた。
今日一度目は目が合った。
気のせいかもしれないけど、私にはそう見えた。
2度目は隣のクラスに前でのんびりしてた。
私の男友達と話してた。
3度目は後ろから走って通り過ぎていった。
貴方の起こした風がかかった。
4度目は下駄箱が開くのを一緒に待った。
ドキドキしすぎて、寒さを感じなかった。
考えすぎ?
でも、こんなに会えるなんてね。
ああ
私こんなままじゃ不釣り合いだな
ああ
前のあの子ならもっと真っ直ぐだったんだろうな
背中見ながら唇を噛むことが増えた
慣れた言葉や仕草のその全てに
私じゃない方が幸せなんじゃないかって
そんなことがよぎるから
また私は上手く笑えなくなる
「そろそろ日も暮れてきてるし、帰る事にしようか」
霞さんがそう言ってわたし達に背を向けると、えーもう帰るの~‼と耀平が声を上げる。
霞さんはそうだよ~と振り向いた。
「君達だって、そろそろ帰らないと親に心配されるでしょ?」
「まーそうだけど…」
耀平は不満げな顔をするが、霞さんはじゃーあー、と彼に近付く。
「僕の事寿々谷駅まで送ってくれない?」
その言葉に耀平の顔がパッと明るくなった。
「え、いいの⁈」
「うんもちろん!」
ギリギリまで一緒にいたいし~と霞さんは続ける。
「やったあ!」
耀平はそう言って嬉しそうに立ち上がった。
霞さんはふふと微笑んだ。
友達見ている運動会
大声出した子1等賞
腫れ物触らずまた明日
いいないいな多様性っていいな
みんなでなかよく耳塞ぎ
優しく頷き過ごすんだろな
鳥さん見ている運動会
日和見できた子1等賞
波風立てずにまた明日
いいないいな多様性っていいな
みんなでなかよく目を逸らし
地平の果てを臨むんだろな
いいないいな多様性っていいな
みんなでなかよく目と目を合わせ
次の“普通”を探すんだろな
僕も帰ろう、子供に帰ろう
でんでんでんぐり返ってバイバイバイ
「何だか彼を見ていると、昔の自分を見ているみたいな気分になってくるんだよ」
霞さんが不意に言い出したので、わたしは目をぱちくりさせた。
霞さんは続ける。
「昔の僕もあまり慣れない人の前ではビビってる事が多かったからさ」
あんまり友達がいなくて…と霞さんは頭をかく。
「でも耀平くんに出会って、少し変われたんだ」
霞さんはふふと笑った。
「耀平くんは昔から明るくて、何だかこんな僕にもよくしてくれて、すごく嬉しかった」
だから僕も、人が怖くなくなっていったんだろうね、と霞さんは微笑む。
わたしや師郎は黙ってそれを聞き、隣のベンチにすわるネロと耀平も静かにこちらを見ていた。
「ま、そういう訳で、僕は変われたんだ」
霞さんは笑う。
わたし達はそんな霞さんの様子を見ているばかりだったが、やがて彼はさて!と手を叩いた。
夜ってなんか色々考えることが多い気がする。
特に1日の終わりになるとき。
1日過ごしてるときには感じなかったこと、深く考えてなかったこと色々と思い浮かんでくる。
なんでだろう?
表のスイッチが切れたからかな?
音楽を聴きながらでもなぜかいやいつも思い浮かぶんだ。
今これを書いてる時だって。
時には嫌なこと、明日の心配事、苦しいこと
時には嬉しかったこと、楽しみなこと、
時には過去のこと、今日なにか感じて思ったこと、想像…
色々考えちゃうんだよね~夜は。
でもその時間が意外と好きだったりする
まあ嫌なことたちは嫌だから音楽で思考逃避してるけど。
この色々考える夜は自分整理の時間かもしれないね。
それがなきゃ心が疲れ果てて壊れちゃうかもな…
色々考える夜は大事な大事な無意識な日課なのかな…?
そう思った今、夜の10時頃。
お金持ちになること。
貧しい国の人々から悲しい顔が消えるくらいに。
お金持ちになってみせる。
そしたらいっぱい、いっぱいに寄付が出来るから。それで、貧しい国の人々が働ける場所を提供するんだ。
あなたの性格
長所
あげていったらキリがないけれど
ひとことで言うなら
仕事が出来て、決断力が鋭く、みんなから信頼される人。いちもく置かれている存在。
あなたは気付いてないかもしれないけれど
みんな感じてるよ。
人を大事にする所や、隠しきれない魅力とか、
全部、ぜんぶ知ってるよ。
(* 'ω' *)
「…黎、相変わらず師郎の陰に隠れようとしてるね」
わたしが思わずこぼすと、師郎は黎の方をちらと見て、あぁそうだなと答えた。
「たまに黎は見ず知らずの他人に対して隠れようとするからさ」
仕方ない、と師郎は笑う。
そうなの、とわたしは返すが、ここで、ねーねー何話してるの~?と隣のベンチの方から霞さんの声が聞こえてきた。
見ると霞さんがベンチから立ち上がってこちらへと近付いてきている。
「あ、えーと…黎が師郎の陰に隠れているのは何でかって話をしてたんです」
わたしがそう答えると、霞さんはそっか~と言いながら師郎の右隣に目を向けた。
黎はパーカーのフードを目深に被って顔を隠している。
「…」
霞さんは笑みをたたえながら黎の顔を静かに見ていたが、ふと師郎がなぁと口を開いた。
「何で黎にそんな興味持つんすか?」
その質問に、え、と霞さんは驚く。
「もしかして迷惑だった?」
「いや、迷惑って程でもないんだが…」
ちょっと気になって、と師郎は苦笑した。
霞さんはふーんとうなずき、そうだねぇ…と宙を見上げる。