前線都市内でディソーダーの出現が確認されてから暫く。ヘスぺリデスの商店街では派手な色をした体長数メートルほどのディソーダーが、周囲に大小さまざまなディソーダーを引き連れて暴れまわっていた。ディソーダーは口のような器官から光線を放って街を破壊しつつ、ヘスぺリデスの大通りを進んでいる。基地の避難指示によって街中には人影がなく、ディソーダーが侵攻する地鳴りのような音だけが響いていた。
しかしディソーダーの群れが大通りの交差点にさしかかったとき、群れの横から光の矢や光弾が複数飛んでくる。突然の攻撃に小型のディソーダーは悲鳴を上げてひっくり返り、大型のディソーダーは動きを止めて光の矢や光弾が飛んできた方を見た。
交差点の角の向こう、商店街の建物の屋根の上や道路上には、華やかな容姿にカラフルな衣装を着込んだコドモたち——リニアーワルツが、弓や銃器の形をした武器——ジェミニを構えて立っている。敵の出現に気づいたディソーダーたちは雄叫びのような声を上げて、リニアーワルツたちの立つ方へ方向転換した。
しかしそんなディソーダーの目の前に、商店街の細い横道や建物の陰から刃物や鈍器の形をしたジェミニを持ったリニアーワルツたちが現れる。近接武器を持ったリニアーワルツたちは、群れの前方に固まる甲虫のような姿をしたディソーダーに飛びかかっていった。ディソーダーたちは口から光線を吐いたり攻撃を避けようとしたりしたが、次々とリニアーワルツたちに撃破されていく。そんな中で、青い長髪をバンスクリップでまとめたリニアーワルツ・インテことインテリジェントは、三叉矛型ジェミニ・ポセイドンを振り回して小型のディソーダーたちを串刺しにしていた。
「……それにしても、前線都市内でディソーダーが出るなんて、随分妙な話ですよ」
「ねぇ?」とインテが近くで大剣型ジェミニ・エンキドゥを振り回すリニアーワルツ・パッションことパッショネイトに話しかけると、パッションは「そうだな!」とディソーダーを斬り捨てつつ返す。
血が騒ぐ
何故だろうか?
胸に杭が刺さったようだ
ニンニクを食べたので
匂いが気になって仕方がないからか
血が騒ぐ
何故だろうか?
気になる人が目の前にいるからだろうか
私から漂ってないだろうか?ニンニクの匂いが
涙を流しながら
空を指でなぞる
数知れない銀河に
奇跡の1つ
心が洗われない気分に
花を置く
数え切れない細胞で
覆った盾
閉ざす扉には
未来へのヒント
解き方は自分次第
重なった愛は
貴方の人生の一部
使い方はご自由に
守った傷痕に
滲んでく悲しさは
綺麗な歌を纏っている
新しい傷が
できたあとには
命と息をする
全部が全部
大切なわけじゃないけど
私は今日も愛している
涙を拭いながら
貴方の頬をなぞる
数知れない命の灯火に
出会えた軌跡
いつもと違う空色に
雲を添える
数え切れない思いで
創った武器
開かずの窓には
今という過去
消える今日は私のもの
重すぎる愛は
藍色を形づくる
風化するなら要らない
鳥が鳴く
朝を告げるアラーム
始まりはもう過ぎた
鼓動は今も鳴り始める
命は終わらない
月が笑う
眠るための歌
終わりなんかじゃない
明日笑えるための
面白いカラクリ
守りたい傷痕は
治ってく虚しくも
私のためだけじゃないけど
新しい傷が
腐るときには
自分に寄り添ってあげよう
かぶれた絆創膏の中は
治ってく悲しくも
私の命の力の美しさ
古い傷も
いつかは消える
治らなくても私の宝物
全部が全部
大切だから
私は明日も愛してみる
明日を愛している
貴方が笑う
始まりの合図
ゴールテープは100年先
鼓動は今も感じている
私は生きている
私は生きている
「だってそのキーホルダー落としてった子、リニアーワルツなんでしょ~」
「ペアもいるみたいだし、きっと平気だよ~」とフォーはニコニコしながら続ける。それでもミラは不安げだったが、「なによりも」とインテは笑みを浮かべた。
「ミラは、それをその子に返すんでしょう?」
「なら、ここで待っているのが正解だと思いますよ」とインテはミラの頭を撫でる。ミラは「……うん」と苦々しく頷いた。
「じゃ、おれたちも行くかね」
ミラとインテ、フォーの会話を見てから「早くしねーとこの街が壊されちまう」と、パッションはグリッタの方を見やる。グリッタは「そうね」と返す。
「あたしたちペアで、この街を守りましょ!」
そう言って、パッションとグリッタはラウンジを飛び出していく。
「では僕たちも」
「行ってきます、ミラ」と言って、インテはミラの頭から手を離した。そしてフォーとともに、ラウンジを去っていく。
「……」
再び自分一人になったラウンジで、ミラは再度ポケットからあのキーホルダーを取り出す。照明の光にかざすと、相変わらずきらきらしていた。
「あの子、大丈夫かな」
一人でディソーダーを軽々と倒していたとはいえ、ペアの話をするとひどく苦しそうにしていたあのリニアーワルツ。
本当に大丈夫だろうかという思いが、ミラの中をよぎる。
「やっぱり」
ミラはそう呟いてソファーから立ち上がる。そして、キーホルダーを力強く握りしめて、ラウンジを飛び出していった。
「なぁミラ、そのディソーダーが出たところってヘスぺリデスのどの辺だ?」
「管理官たちに報告して、おれたちが……」とパッションがテーブルに身を乗り出したとき、不意にラウンジ内のスピーカーからサイレンが流れ始めた。
「⁈」
リニアーワルツたちが思わず顔を上げると、ラウンジの出入口から背の高い女性……ウェスト管理官が飛び込んでくる。
「大変よ‼」
「ヘスぺリデス内で、 ディソーダーの出現が確認されたわ‼」と管理官は大声を上げた。ミラは「実は今その話を……」と言いかけるが、ウェスト管理官は気にせず続ける。
「司令官は、ヘスぺリデス基地所属の全ペアの出撃を命令したわよ‼」
「だから訓練終わりに悪いけど、あなたたちも出撃しなさい‼」とウェスト管理官は叫ぶと、そのままほかのリニアーワルツを呼びに行くのか廊下へ飛び出していった。ミラは管理官の言葉に思わず青ざめるが、パッションの「……行くか」という言葉を聞いて我に返る。仲間たちの方を見やると、四人は既にソファーから立ち上がったり、ラウンジの出入口の方に向かったりしていた。
「……みんな」
「大丈夫ですよ」
言いかけるミラに対し、インテは優しく声をかける。
「僕たちは、いつも通り出撃するだけですから」
「安心してください」とインテはミラの肩に手を置いた。ミラは「だけど……」とインテの顔を見上げる。
「このキーホルダー、あの子にまだ……」
「それもきっと大丈夫だと思うな~」
ミラの言葉を遮るように、今度はフォーが口を開いた。