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ファンディーナ

あなたが僕に優しかったことだけ書いた
くたびれた日記を花束にして僕の寝床に
並べてほしい

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑪

「……飛んでいけ」
光弾を発射する。タマモのように直線的にでは無く、放物線を描く軌道で、奴を全方向から取り囲むように。
私の放つ弾幕は8割方無事に命中し、敵の腕を順調に命中させていく。
「え嘘、これそんな使い方できンのかよ」
「できるかなー……って思ってやったらできた」
「はぇーお前すげェな。俺は普通に飛ばした方が楽だな」
「そりゃ何も考えず飛ばせるんだから楽でしょ。その分ペース落ちるから、頑張って止めてね」
「そりゃ勿論」
追加で光弾を用意する。半分は放物線、もう半分は着弾の直前で僅かに軌道をずらすように弾道を設定して、一斉に発射する。
発射の瞬間、腕は防御態勢を取ったけれど、ずらした弾がダメージを与えていく。
「タマモ、この戦い方すっごい楽しい」
「そりゃ良かったな」
続く弾幕は、敵の50㎝ほど手前で一瞬停止するように。奴の防御が無駄に空を切り、また腕を破壊していく。
「タマモ、これ良いね。相手の防御無駄にするの楽しいよ」
「……うん、そうだな。お前にはそれが向いてるよ」
次の弾幕を用意していると、エベルソルの上方の腕がほどけ、急に伸長して全方向に向けて拳を繰り出した。私達の方だけじゃなく、周りの彫刻も狙っている。
「っ!」
用意できていた分を全部発射して、彫刻を狙っていた分の腕はどうにか破壊する。
こちらに向かってきた腕はどうしたものか、とりあえず自分の腕で防御しようとして、背後から足を払われ仰向けに倒れた。

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視える世界を超えて エピソード7:潜龍 その⑨

「犬神ちゃん、まさか……」
止めようとしたけれど、遅かった。犬神ちゃんはその戸を勢いよく開け放ってしまったのだ。
薄暗い本殿の奥、大黒柱の根元に、人影が見える。あれは生きた人間……というより、まさに自分たちが探していた種枚さんだった。
大量の拘束具で身動き取れない状態にさせられている、あまりに痛々しいその状況に反して、彼女はリラックスした様子で目を閉じ、眠ってでもいるようだった。
「……今、何時だい?」
不意に種枚さんが口を開く。寝ていたわけじゃ無かったのか。
「まだ3時前だよ。キノコちゃん」
種枚さんに近付きながら、犬神ちゃんが答える。
「そうか。まだそんなものか。犬神ちゃん、これ、外せるかい?」
「無理。できたとしてもやってあげない。キノコちゃん、こないだのデートすっぽかしたでしょ。私、怒ってるんだからね?」
「悪かったよそれは……見ての通りガッツリ捕まっちまっててさ」
「どうせ逃げようと思えば逃げられるくせにー」
「誰だって痛いのは嫌なものさ。じゃ、6時になったら教えておくれよ。うっかりでも祭りに水を差すような真似はしたくないからね」
軽口を叩き合いながら、犬神ちゃんは種枚さんの目の前に座り込んだ。
このあまりに軽妙な空気感に、自分はただ誰かに勝手に入っているのを見られやしないかと不安になることしかできなかった。逆に言えば、それ以外に心配するようなことは、既に無かったと言えた。

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復讐屋

“復讐屋”
性別:女  年齢:27歳  身長:181㎝
ブラックマーケットの奥深くで「復讐支援業」に従事している女性。本名を知っている人間はごく少数で、腕利きの情報屋ですら名前を探れないでいる。
「復讐とは、過去の因縁に決着を付け前に進むための儀式である」との信念から、顧客たちの復讐の支援を行うべく、情報収集・ターゲットの誘導・武器類の提供を行う。
飽くまでも直接手を下すのは復讐を望む本人であるべきと考えており、「復讐代行」だけは絶対にしないと決めている。
愛銃は6発装填リボルバー式拳銃の〈ジェヘナ〉と5発装填ボルトアクション式スナイパーライフルの〈リンボ〉。実際に発砲する機会は少なく、特に〈ジェヘナ〉には常に1発しか弾丸を入れていない。
仕事で使っているリュックサックは状況に応じて中身が変わるが、ミネラルウォーター500ml×2、携帯食料1日分、アーミーナイフ、防水マッチ30本入り1箱、電気ランタン、合成繊維製のロープ10m、カラビナ4個、ブランケット、〈リンボ〉用の弾薬箱20発×2、〈ジェヘナ〉用の弾丸1発は常備している。
自分の生業については、「死後地獄に堕ちることが確定しているだけでそれ自体は正当な行為である」と認識している。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑩

「しかしまあ……結構だりィぞ」
「何が? ちょっと頑張ればダメージ通せるよ?」
「いやァ……ちょいと俺の攻撃をよォーく見といてくださいよフヴェズルングさんや」
タマモの攻撃が、防御していた腕を数本吹き飛ばす。すぐに別の腕が防御に回って……。
「あ、なるほどー」
千切れていたはずの腕が無くなっている。というか、無事な腕の陰に隠れた隙に再生してるっぽい。
「火力足りてなくない?」
「だなァ。一般市民が通報して応援が来てくれるまで粘るってのもアリではあるンだがよォ……なあロキ」
「何?」
「せっかくの初陣、華々しい勝利ってヤツで飾りたくね?」
「まあ、せっかくならねぇ」
ニッ、と笑ってタマモが1歩踏み出す。
「じゃ、ちょっと頑張ろうぜ」
「うん」
タマモは素早く弾幕の用意をして、それと並行してエベルソルを攻撃している。正面から削り切るつもりだろうか。私も攻撃に参加しても良いけど、私達2人でダメージが追い付くだろうか。せめて全方位から削れれば効率良く倒せそうなんだけれど……。
「あ、良いこと思いついた」
「あ? 何だ、先輩として協力なら惜しまねーぞ」
「引き続き頑張って」
「りょーかい」
少し大きめの光弾をたくさん生成する。そのうち半分は、作るのと同時にエベルソルに飛ばして、タマモの支援をする。
そして、そこそこの数の光弾が貯まったところで、改めてエベルソルを睨む。

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視える世界を超えて エピソード7:潜龍 その⑧

犬神ちゃんと一緒に、種枚さんを探しながら本殿の前をうろついていると、不注意で前からやって来た人とぶつかりそうになった。幸いにも向こうが避けてくれたおかげで、衝突はしないで済んだ。
「す、すみません」
「いえ、どうぞお気になさらず。ただ、前方確認は怠らないようにした方が良いかと」
「はい……」
狩衣姿のその男性は、舞殿の方に急ぎ足で去って行った。神楽の出演者だろうか。
ふと、犬神ちゃんの方に向き直る。さっきまで神楽に少しも関心を見せなかった犬神ちゃんだったけれど、今は足を止めて、口も閉じて、舞殿の方をじっと見つめている。
「犬神ちゃん?」
「………………」
「犬神ちゃーん?」
「……キノコちゃん」
「え?」
あの人……は流石に種枚さんではないし……。
「今、キノコちゃんの匂いがした」
「今の人から?」
「んー…………何だろ、分かんない」
「……そっかー」
犬神ちゃんは再び種枚さんの名前を呼びながら歩き出した。その足取りは先ほどまでの当ても無く彷徨い歩くようなものではなく、何か強い意志を感じさせる、たしかな足取りだった。そして。
「…………い、犬神ちゃん? 何してるのかな?」
本殿正面の扉の前で立ち止まり、内部をまたじっと見つめ始めた。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 20.エインセル ④

「そ、それってどういう…」
ネロが困惑したように呟くと、短髪の少女は文字通りの意味だよと返す。
「あの子は穂積を切り捨てた、ただそれだけ」
短髪の少女は人差し指を立てつつ言う。
「…切り捨てられたって、どういう事だよ」
ネロがそう尋ねると、今度は穂積が口を開く。
「この間、ヴァンピレスに会った時に”貴女はもう用済み”って言われたのよ」
「用済みって」
ネロの言葉を気にせず穂積は続ける。
「あの女曰く、あたしとあの女が繋がっている事があんた達にバレたから、この関係は終わりにしよう、だってさ」
穂積は呆れたように肩をすくめる。
「…ま、そのせいであたしはヴァンピレスに異能力を奪われそうになったんだけど」
穂積の発言にわたしはえ、と驚く。
「奪われそうになったって…」
「そりゃ口封じのためだろ」
ネロはジト目をわたしに向ける。
「アイツと繋がっていたって事はある程度奴の内情を知る事にもなるから、関係を断つ時にそれ位やるだろ」
ネロは淡々と言う。

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視える世界を超えて エピソード7:潜龍 その⑦

石段を上り、鳥居をくぐり、境内に入る。“潜龍神社”は本殿の他に3社の摂社と4社の末社、舞殿があり、敷地の総合面積もかなりのものになっている。
神楽はその中でも本殿の手前に建つ舞殿で行われる。合計で半日もかけるような本格的なものというわけでは無く、7演目を合計4時間ほどかけて舞う構成になっている。
自分は普段、途中で見飽きて帰るのだが、ただでさえ人外のモノが少ない神社境内の中でも、神楽の最中の舞殿周辺には不思議と怪異の姿が見られず、清浄な雰囲気さえ感じられて、その場の空気感自体は好きだった。

犬神ちゃんに手を引かれて舞殿の前を通る。神楽は既に始まっていて、周囲には人だかりができていた。
つい足が止まるが、犬神ちゃんはそちらには全く興味が無いようで、構わずぐいぐいとこちらの手を引いて奥へと進んでいく。仕方なく彼女に従い、本殿の方へ向かう。
「キぃーノーコちゃぁーん、どぉーこぉー?」
犬神ちゃんは辺りをきょろきょろと見回しながら、種枚さんを探し呼びかけている。
「ほら君も、キノコちゃんのお気に入りなんだから一緒にあの子のこと呼んでよ」
「え、あ、はい。……く、種枚さーん」
「声ちっちゃい!」
「えぇ……?」

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心の内側

勝手に悲観して
勝手に諦めて

狭い世界に閉じ籠って

本当は知ってる
ひとりぼっちじゃない

扉の向こうに
広がっている世界が
自分の想像より優しいこと

認めたくないだけ

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歩廊の唄

こんな寂しい駅に、自分を置きざりになんてしないで。
各駅停車だけれど、君を明日に連れていきたい。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 20.エインセル ⑤

「あとヴァンピレスはやべー奴だからな」
それ位はやって当然、とネロはココアシガレットを咥える。
わたしははぁ…とうなずいた。
「でも今見るからに異能力も記憶も奪われてないみたいだけが」
それはどうしてだい?と師郎がふと尋ねる。
「あーそれはね、うちがたまたま助けたんだよ」
今度は短髪の少女が話し始める。
「うちがこの間、偶然ヴァンピレスを見かけて何気なくあとをつけたらたまたまあの子が穂積を襲おうとしてて」
それで助けたんだと短髪の少女はウィンクする。
「…うちの異能力を使ってね」
そう言って彼女はつぶっていない方の目を一瞬青白く光らせた。
「うちは薬師丸 雪葉(やくしまる ゆきば)」
…もう1つの名前は”ジャックフロスト”、と雪葉は続ける。
「”指定した人間の動きを凍ったようにうごけなくする”能力さ」
まぁ異能力を使っている時は気軽に”フロスティ”と呼んでいいよ、と彼女は笑った。
「ふーん」
ネロはそううなずくと穂積の方に目を向ける。

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ねえ、わかるかな

涙が出ると思ってたんだ
うれしくて、あるいはさびしくて
でも何も変わらない笑顔と声が
ふたりが並んだその姿が
泣いてる暇なんてないと思わせて
ただ幸せに浸かるしかなくなってしまった
夢かと思った
今までのなによりも夢だと思った
何年経っても
何歳になっても
大きすぎる思い出は私の中で膨らんで
こんなに言葉を紡ぐのが下手になったよ
また、夢を見るんだ
また、夢を見たいんだ
唯一じゃなくても特別じゃなくても
私はまだ未来が創れると信じたいよ

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑨

彫刻から飛び降り、大きな影、エベルソルの下に駆け付ける。青白いヒトの腕が無数に絡みついたような気持ちの悪い姿の化け物が、公園の柵を蹴倒しながら猛然と突っこんできていた。
「おいクソッタレのエベルソル! なァに芸術以外ブッ壊してンだ生ごみ野郎がァ!」
エベルソルに対して挑発するように喋りかけながら、タマモはガラスペンで描いた光弾をいくつもぶつけた。化け物を構成する腕の表面には、弾が当たって焦げ跡ができたけれど、有効打にはなっていないみたいだった。まあ、こちらに気付いてくれたようだけど。
「ああクソ面倒くせェ。コイツそこそこ硬てェぞ」
「わぁ大変」
「お前も働くんだよロキ」
「まあまあ。まだペン使うのに慣れてないんだから……」
ガラスペンを取り出し、タマモに倣ってインキ粒をいくつか描き、エベルソルにぶつける。あまり威力は無かったけれど、練習はできた。こんな感じか。
「理想はここの彫刻全生存。最悪何個か壊れても作者さんに謝りゃ良い。気楽に行こうぜ」
「うん」
タマモがエベルソルの気を引いているうちに、少し走って奴の真横に位置取り、水玉模様の捻じくれた彫刻の陰で光弾のストックをいくつか用意する。小さい弾じゃダメージにはならないみたいだったから、少し時間をかけて大きめの弾にする。
数十個完成させたところで、攻撃に参加しようと彫刻の陰から顔を出す。エベルソルは腕のいくつかを防御のために前方に構えながら、タマモにじりじりと接近している。こちらからは完全に無防備だ。
こちらの用意した光弾のうち、3分の1ほどを一気に叩き込む。無事に奴の腕をいくらか千切り飛ばしたは良いものの、すぐに対応されて防御されてしまった。
「お、やるじゃねーのロキ。次はお前が狙われるぞ」
「えー」
たしかに、エベルソルの進路は私の方に変わっているみたいだ。流石に彫刻を巻き込むのはそれを守る人間として申し訳無いので、陰から出てタマモの方に駆け寄る。
「お前なんでこっち来た?」
「いや、つい……彫刻の少ない方にいたから」

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 20.エインセル ⑥

「それはそうとして、チョウフウ…じゃなくて穂積、アンタに1つ聞きたい事があるんだけど」
ネロが質問すると、穂積は何よと呟く。
「アンタ、ヴァンピレスと繋がってたんなら奴について何か知らない?」
個人情報とかさ、というネロの言葉に皆が穂積に注目する。
穂積は溜め息を1つついて知らないわよと答えた。
「は、何で⁈」
アンタ奴と繋がってたんじゃないのかよとネロは立ち上がって語気を強めたが、穂積は知ってる訳ないじゃない!と言い返す。
「相手はあのヴァンピレスよ!」
徹底的に自分の事は人に教えないような奴だからあたしが知ってる訳ないじゃないと穂積はそっぽを向く。
「何だよ連絡先とか知らないのかよ」
「電話番号は教えてもらってたけど今や音信不通よ!」
「何だよソレ‼」
ネロと穂積の言い合いは過熱していく。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 20.エインセル ③

「たまたまこの辺を通りかかっただけだよ」
ねー穂積、と短髪の少女は側に立つ長髪の少女こと穂積に目を向ける。
しかし穂積は嫌そうにそっぽを向いた。
「あーちょっとそんな顔しないでよ~」
短髪の少女はそう言うが、穂積はそっぽを向いたままだった。
「何やってんのコイツら」
「夫婦ゲンカじゃね?」
耀平と師郎はお互いに顔を見合わせる。
「どうしてそんな顔するのさ」
「あたしはコイツらと関わりたくないだけよ」
「えー何で~」
短髪の少女と穂積は暫くそう言い合っていたが、やがて短髪の少女はこう言った。
「そんなに拗ねてるんなら、”あの事”、この人達に言っちゃうよ~」
短髪の少女がにやけると、穂積はなっ‼と驚く。
「ちょ、ちょっと、それは…」
「はーい今から言いまーす」
「やめてやめてやめて」
穂積の制止を気にせず短髪の少女はわたし達に向き直る。
「実はこの人、あのヴァンピレスと繋がってたけど今は縁が切れたの」
「え」
短髪の少女の言葉に、わたし達はポカンとする。

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少年よ無能たれ

論理的に考えて生物として当然の事ではあるんだが。
若くて未熟な個体ってのは必然的に絶対的に経験が少ないんだから、幼いうちの「できない」は何もおかしいことじゃあない。
どうせ生きてりゃ勝手に「学び」は得ていけるんだから、ガキの無知も無学も無能も、罪でも何でもない。

どれだけ道を逸れようが問題無い。道なら何千本でも示してやる。
いくらスッ転んだって構わない。何百回でも手を引いて立たせてやる。
大人の後ろ盾背負って、安心してバカ晒しながら進んで行け。

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渋滞車窓

花びらにまみれた車をみて
舌打ちが微笑みに変わる
少しだけ、
優しいただいまが言えそう

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑫

「う……タマモ?」
腕の攻撃は空振りに終わったけれど、私を助けてくれたのであろうタマモの方を見ると姿が無い。ぶつけた後頭部をさすりながら周囲を見ると、数m後方でひっくり返っていた。
「タマモ……その、ごめん」
「いや謝るな、感謝しろ。俺のお陰で死なずに済んだんだぞ……痛え」
そこまでのダメージは受けなかったみたいで、すぐに起き上がった。鼻血を流してはいるけれどそのくらいだ。
「ありがと、タマモ。頭はぶつけたけど」
「マジか。次は受け身取れよ?」
「善処する」
そういえば攻撃の手が止んでいた。咄嗟にエベルソルの方に向き直る。さっきまで頑張って破壊していた腕は大部分が再生しているようだ。
「あークソ、せっかくの攻撃が無駄になったじゃねえかよ。大人しく防御だけしとけッてンだよなァ」
「上への攻撃がちょっと密度低かったかも」
「反省会は後だ。削れるのは分かったんだから……もう一度殺しきるぞ!」
タマモはまた光弾を用意してすぐに発射する。
私も光弾を描きながら、描いた傍から撃ち出していく。ほぼ真上に、奴を狙うのでは無く、取り敢えずその場から退かす意味合いで。
「……準備よし。全弾……突撃!」
十分な数を撃ち出したところで、光弾全てを敵の一点、およそ中央に向けて叩き込む。
槍の如く並んだ光弾は、腕の防御を破壊しながら奥へ、また破壊しながら奥へ、どんどん突き刺さり、体幹を破壊した。腕たちの起点を上手く射貫けたようで、腕たちがバラバラに地面に散らばる。
「……ロキお前……すげえな」
「殺せては無いし」
「いやァ……あとは1本ずつ順繰りに処理すりゃ良いだけだからな。9割お前の手柄だよ」
「わぁい」
あとは腕たちを二人で手分けして処理していき、私の初めての戦いは無事に勝利で終わった。

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深夜の迷子 日没

「ど、どうしよう…」
山の中で、肩くらいまでの茶髪を落ち着きなくいじりながら『ゆず』は呟く。
彼女は今日、山奥の集落に住む祖父母に会いに行き、帰る…はずだった。
ゆずの自宅と祖父母の住む集落を隔てる山はなだらかだが迷いやすい。それに重ねてゆずは方向音痴なので、必ず両親と共に行くようにしているのだ。しかし、今日はゆずが一瞬目を離した隙に両親は忽然と姿を消し、見事に迷子になってしまったのである。
「う〜…」
ゆずはそわそわと空を見回す。すでに太陽は西へ沈んでしまっているようだ。迷子になってから数時間、少しも景色が変わっている様子はない。
「ん…あ!」
ゆずの目にきらりと希望が戻る。前方に人を見つけたのだ。
「あ、あのっ」
「ん?」
小柄な子供が頭を上げた。黒い大きな目がゆずを見、暫くして勢いよく立ち上がってゆずの手を握った。
「迷子?奇遇だな、私もなんだ」
「えっ?」
「夜は危ない、一緒に下山しよう」

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幸せになる権利

今現在この世に生きている全ての人間には、『幸せになるチャンス』が最低1個与えられ、平等に『幸せになる権利』がある。
ただ機会を掴めなかった奴が幸せになり損ね、機会を掴まなかった奴が不幸に堕ちていくだけで。

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fate destroyer

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良し悪しはともあれ、なんとも珍しいキャラバンがあったものだ。
普通はこんなことはせずに放置、山賊も雇われ者であることに途中で気づいて適当に解放する、これが一番多い流れだ。(と思う)
何故解放してくれるのかと言うと、自分達がしょっ引かれた時の保険の様なものだ。
つまり、「罪を重くしたくないから殺人は控える」
と言う事だ。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑧

「……そうだ、何か芸術っぽいのが多い所行こうぜ。エベルソルってのは芸術をブッ壊すことに命懸けてる連中だからな」
「なるほどー。それなら“芸術公園”とか?」
「おっ、名案」
通称“芸術公園”。この彩市在住のアーティストが制作した彫刻などの立体作品がそこら中に乱立する市民公園。屋外ステージもあって、ちょくちょくイベントが開かれたりもする、住民たちの憩いの場だ。
「こっからだと歩いて……10分くらいか。お前時間とか大丈夫か?」
「うちは門限とか結構緩いから大丈夫」
「そうかい。じゃあ行こうか」
適当な世間話をしながら、公園に向かう。タマモ、私より2つも歳上だったのか。敬語でなくても構わないと言われたので、言葉遣いはそのままだけど。
「……さて、着いたわけだが」
「いないね、エベルソル」
「いないなァ……」
殆ど日没といった空の下、公園には数人の一般市民が見られる程度で極めて平和そうな日常風景が広がっていた。
「……もう帰って良いかな」
「そう言うなよ。10分くらい時間潰していこうぜ」
「ん」
曲線的なシルエットをした石材製の大型彫刻に登り、公園全体を見下ろす。
「……本っ当に平和。エベルソルって実在するの?」
「一応、10回くらい遭ったことはあるんだけどなァ……」
少し離れたところに立っている時計をちらと見やる。もうすぐ5時か。
「5時まで何も無かったら帰って良い?」
「良いんじゃね?」
そのやり取りを終えた瞬間、まるで見計らっていたかのように大きな影が公園に近付いてきた。
「……あーあ、フラグ立てたりするからよォ」
「むぅ、まあ戦い方も考えたいし良いか」

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 番外編 吸血姫と竜生九子と雪の精 ②

あたしはフンと鼻を鳴らした。
「意味不明な奴」
さっさと奪いたいなら奪ってしまえば良いのにとあたしは呟く。
ヴァンピレスはそれを聞いてうるさい!と声を上げた。
「貴女、大人しくわらわの餌食に…」
ヴァンピレスはそう言って白い鞭を振り上げる。
あたしはもはやこれまでかと目をつぶった。
しかし鞭が振り下ろされることはなく、代わりにヴァンピレスがうっとうめく声が聞こえた。
あたしが目を開くとヴァンピレスが白い鞭を振り下ろそうとする体勢で動きを止めていた。
「⁈」
あたしが驚いていると背後から聞き馴染みのある声が聞こえた。
「穂積」
思わず振り向くと、短髪で前髪をカラフルなピンで留めた、瞳を青白く光らせた少女が立っていた。
「…”フロスティ”⁈」
あたしがつい声を上げると、彼女はこちらへ駆け寄ってくる。
「逃げよう、穂積」
「え、でも」
「さっさと逃げようか」
フロスティはあたしの手を引いて元来た方へ走り出した。
暫くあたし達は走り続け、気付くと駄菓子屋の前まで辿り着いていた。
「ここなら大丈夫だね」
駄菓子屋は異能力者の緩衝地帯だし、とフロスティはあたしの方を振り向く。
その目はもう光っていなかった。
「…雪葉、どうして」
「どうしてもこうしても、親友がピンチだったからうちが助けてやったんだよ」
あたしの言葉を遮るように、フロスティこと雪葉はあたしの顔を覗き込む。
「あんたさ、たまに悩み事を1人で抱え込む事があるからよく警戒してたんだよ」
最近怪しいと思ってたら、案の定だったと雪葉は笑った。
「別に、あんたに助けて欲しいなんて」
あたしはそう言いかけるが、雪葉は友達なら助け合うのが普通だと思うよーと続ける。
「特に親友ならなおさら」
雪葉はそう言ってウィンクした。
「…もう」
あたしは呆れたように呟いた。

〈番外編 吸血姫と竜生九子と雪の精 おわり〉

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例えこの世が地獄に堕ちても
ぼくはきみを愛するから。

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シラー

「誰かが隣にいる」
そんな未来が良かったな
スタート地点は多分私だけ遠くて
誰も隣に居ない
居たとしても寄り添ってはいなくて
ゴール地点までは多分地球1周くらいあるんだろう

知らないあの子が楽しそうに笑ってる
私は一人 睨んでしまいそうで
でもそんなこと私はしたくないから
一人で立ちすくんでしまう

今頃みんなで連絡を取って
楽しそうに笑ってるんだろうな
私はその輪の中には居なくて
次あの子達と会っても誰とも話せないんだろうな

誰かと仲良くなって
分かり合ってバンドを組んで
そんな未来を思い描いていたのにな
誰も隣に居ない
居たとしても分かり合えてはいなくて
思い描いている人は一体どこにいるんだろう

知ってるあの子も楽しそうに笑ってる
その目に私は映っていない
「寂しいよ」「一緒に居てよ」なんて
言ってしまえたらいいのにな

今頃私と連絡を取ろうなんて
考えもせず笑ってるんだろうな
あの子達とはいくら待っても
私が送らないとメールも何も来ないんだろうな

今頃みんなで知らない話題で
楽しそうに笑ってるんだろうな
私の事なんてほぼ知られてなくて
次あの子達と会っても話せないんだろう

今頃私と話してみたかったなんて
言ってる人は居ないんだろうな
あの子達とはいくら待っても
話すことなんてできないんだろうな

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どしゃ降り

春雨どころか、ところてん

数時間後、ところてんはやんだ

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円環魔術師録 外伝 後書き

リンネ「さて、外伝も終了だね!」

ミル「そうですね、次週から本編ですかね〜?」

『いえいえ。ちょっと2月にアンケート取った短編を書いてからですね、ちょっとおやすみです。』

リンネ「おお、遂にご本人登場か。帰って?」

ミル「辛辣‼︎仮にも産みの親に向かって!」

リンネ「良いよ別に。歳下の小娘位どうだって。」

ミル「じゃあそれから産まれた僕等ってそれ以下なんですか?」

『そうだそうだ!どうなんだー!』

リンネ「君達さぁ、言ってて悲しくない?」

ミル「...あ、やたろう逃げた。」

リンネ「と言うか、いつまでアリス出さない気なんだろうね。個人的にはとっとと倒しちゃいたいんだけど。」

ミル「まあ伝家の宝刀って奴じゃないですか?」

リンネ「どうせいつかブッ飛ばすから良いんだけどね、いつまで読者待たせるの?って事。」

『.....すみませんマスター....!』

ミル「我が子に負けてるぞこの人...!」

リンネ「じゃ、この辺で!」

ミル「あ、ちょ、まだ何も言ってな...」


...
「円環魔術師録」本編は7月位に投稿予定です。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
本編も何卒宜しくお願い致します。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 20。エインセル ②

「チョウフウ、だっけか…面倒な敵が増えちまったよ」
なぁ?と師郎は隣に座る黎に目を向ける。
黎は黙ってそっぽを向いた。
「何だよ、チョウフウと同じ学校なのを気にしているのかい?」
お~い~と師郎が黎を右肘で小突くと、黎はちょっと師郎から離れた。
「…別に、同じ学校ってだけで学年違うし」
あんまり自分は奴の事知らない、と黎は棒の付いたアメをくわえる。
「ただ、部活で使っている所が近いってだ…」
黎がそう言いかけた時、不意にあと聞き覚えのある声が飛んできた。
わたし達がパッと声の主の方を見ると、カラフルなピンで前髪を留めた少女と、メガネをかけた長髪の少女が近付いてきた。
「あ、アンタら!」
ネロは2人に気付くとバッと立ち上がり、目を光らせる。
その様子を見た短髪の少女はあーもう殺気立たないの~と笑みを浮かべる。
「また会ったね、あんた達」
短髪の少女はそう言って手を小さく振る。
しかしその後ろにいる長髪の少女がムスッとした顔をしていた。
「一体何の用だ」
目を光らせるのをやめたネロは2人を睨みつける。
短髪の少女はいや~ちょっとね、と笑う。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 番外編 吸血姫と竜生九子と雪の精 ①

路地裏というものはアングラな雰囲気を纏っている事が多い、とよく言われる。
大通りに対して建物が密集しており空も狭く見えるし、上から入ってくる光も限られる。
だから”常識の外の存在”も当たり前に存在するのだ。
例えば、この路地裏を歩くあたしのような…
「うふふふふふふ」
不意に聞き覚えのある高笑いが聞こえたので、あたしはパッと顔を上げる。
しかし周囲を見回しても誰もいない。
一体奴はどこに、とあたしが思った所で後ろの首筋に気配を感じた。
「ご機嫌よう」
チョウフウ、と背後に真っ直ぐな棒状にした白い鞭をあたしの首筋に突き付ける少女…ヴァンピレスは言う。
自分の後ろに回っているため顔は見えないが、きっとその顔は笑みを浮かべている。
「…何の用」
あたしが聞くと、ヴァンピレスは貴女にお知らせがあって来たのと答える。
何、とあたしが聞き返そうとした時、ヴァンピレスはこう言った。
「貴女を利用するの、やめにしたわ」
「は?」
あたしは思わず振り向く。
「何で…」
「単純に貴女の事が、”彼ら”に気付かれてしまったからよ」
淡々としたヴァンピレスの言葉にあたしは…なるほどと呟く。
「あの常人と死霊使い達にあたしがアンタと繋がっている事がバレたから、消しに来たって訳ね」
あたしがそう言い切ると、ヴァンピレスはうふふふふと笑った。
「貴女を消してしまうのはもったいないかもしれないけど、どちらにせよ貴女の異能力は使わせてもらうから感謝なさい」
「感謝なんてするかよ」
あたしは思わず言い返す。
「あんた、あたしの親友の異能力を奪おうとしやがって、それを止めようとしたらその代わりにあたしに協力を持ちかけてきて…」
こんな自分勝手な奴に感謝なんてしな…とあたしが言いかけた所で、やかましい‼とヴァンピレスは声を上げる。
「特別使える訳でもない異能力のクセに偉そうな口を利いて…!」
せっかくわらわが奪おうとしてやっているのに…と彼女は身体を震わせる。