私には夢がなかった
やりたいと思っても一時的で
どこかでそれを自覚もしてて
小学生の時は将来って言葉が
怖くてたまらなかった
今の時間がさも有限で
いつか大人に取り上げられる
脆く虚しい物に思えた
その言葉は中学で
進路って言葉に変わって
今度は選択を迫られた
少しずつ羽をもがれていく
存在もしない夢への一本道
ただ、その道は
漠然としたやりたいことが
具現化された場所でもあった
大学へと進み
自分と同じ何かを追う人と
出会い、共に歩む
漠然とした何かが
形を持って私の手に触れた
そんな気がした
私は夢がないんじゃない
否定されるのが怖かったんだ
将来って言葉で、才能の差で
自分のやりたいことが
できないってわかる
その瞬間から逃げてた
でも今、やりたいことを堂々と共有出来る人と、場所と出会えた。
もう逃げない、隠さない、誰にも否定させない
自分の生涯やりたいことを貫いて
未来へ続く今を生きるんだ
アトリエから出ようと振り向くと、扉側の壁に絵画が一枚かかっていることに気づいた。
『…ん…?』
それは濁った空、枯れた草花に覆われた原っぱ、そして人が描かれている。人の頭が不自然に黒く大きく描かれているように見える。
『こわいな』
『ああ…さっさと出るか』
琥珀は林檎の首根っこを咥えてアトリエを出た。画廊を戻っていくと、先ほど追いかけてきた人間と思しき人間が先に見えた。
『げっ』
そっと様子を伺うと、暗くてよく見えないが、背中がもよもよと不自然に動いているようだ。
『きみわるい』
琥珀は林檎の首根っこをそっと離しておろしてやり、座って様子を伺った。
…人間の背中から何かが生えた。
『きゅう』
林檎の悲鳴を聞いて琥珀は林檎を背中がわに庇ってやる。
人間はぐるりと振り向く。琥珀は反射的に林檎の首根っこを咥えると人間の様子を見つつ後ずさる。
(…………さっ、てっ、とぉ……)
目の前の覚妖怪を睨みつつ、鎌鼬は思案していた。
(困ったな……俺の力、それ自体は攻撃力0だからな……出てきたは良いけど、師匠が来るまでもつか……?)
『……ほう?』
覚妖怪の口角がにたり、と吊り上がる。
『貴様、殺傷能力は持たんのか。ならば恐るるに足りんな』
「げっバレた。けど、お前転がすだけなら俺でも出来るんだぜ」
『面白い。その程度でワシをどうこうできるというなら、試してみるが良い』
「……りょーかい」
鎌鼬はクラウチングスタートの姿勢を取り、身体を風に変え、覚妖怪に向けて飛んでいった。
覚妖怪が跳躍した直後、その背後の木の幹に鎌鼬が姿を現わし、一瞬遅れて地面に降りる。
「クッソ、躱された……!」
『……ククク……貴様、どうやらその異能、そう何度も使えるものではないようだな。そして……「自分の方が速度は上だろうに、何故当たらない」、そう考えているな? 無駄だ。貴様ら“考える人間”では、ワシを捉えられんよ』
鎌鼬は額から頬を伝い顎に流れる汗を手の甲で拭い、ニタリと口角を吊り上げる。
「はぁ? どういう意味だよ、技術かトリックか? スペックで俺が勝ってるのは事実なんだ。お前、俺に謎を解かれた瞬間食われるぜ?」
『無駄無駄。解けたところで、解決法なぞ無いのだからな』
「やってみなくちゃ、分からねぇだろ!」
再び風に変じ、鎌鼬は覚妖怪に迫った。しかし、その攻撃もまた回避される。二度、三度と攻撃を仕掛け、その悉くが回避されて終わる。
「クッソ……何が足りねぇんだ……? …………けど」
『「これで挟み撃ちの形になった」か?』
覚妖怪がニタリと笑う。その背後から、白神が電撃を纏った爪を振り下ろした。覚妖怪はそれを軽く身を逸らして回避する。
『悪いが、ワシの脳は貴様1人に使い切るほど狭量ではないぞ』