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蛍雪の功

窓枠 ひとつ 灯りが燈る
数多の光 数多の命 揺蕩う縁側
寄り集まって 離れて戻る 無常なり

秒針が動く間 地面と靴との間
また命が消えた また命を生んだ

そんな灯りに 私はなりたい
雪ほど暗く 夜闇より明るい
影になりきれぬ 優しき努めの光

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12年前、10歳でSCHOOL OF LOCK!を聴き始め、14歳の時にポエム掲示板と出会い、言葉を綴り始めました。今読み返せば、当初は拙い言葉の集合体であり、感情や衝動がそのままあけすけで、大変読みにくかったろうと思います。それでも、必死で言葉を綴り、毎日何編も投稿しました。言いたいことがうまく言えなかったから、私は詩の世界で、ただ1人雄弁に語る神々しい弁士となることを夢見て、詩を書いていました。やがて、私は詩の世界だけに満足出来ず、人との付き合い方、向き合い方、話し方、自分の身なりなど色んなことを一つ一つ努力して改善して来ました。あの頃から、私は随分人として成長したなと己を振り返ります。詩の世界だけではなく、すべての世界に影響を与えたい。そう思うようになった私は、ここ掲示板で出会った仲間と詩集を作り、別の居場所で絵や小説を書き始めたり、親しい人と俳句や短歌を詠み合ったりと、様々な経験をして来ました。その中で、己の感受性を褒められる機会が多く、貴方の原点は何ですかと聞かれるたびに、この居場所を答えて来ました。ここ数年、大学入学を機に未来の鍵を握り、SOLの卒業を決め、ポエム掲示板への書き込みを殆どして来ませんでした。しかし、今一度言葉を綴って、本当の意味で『大人』になったことを詩で表現したいと思い、今日大学4回生22歳の誕生日に筆を取らせていただきました。本当にありがとうございました。小学5年生10歳の頃、未来の鍵を握るこのラジオに相応しく、花屋という意味だけではなく、大好きな花を守る、花を研究する人、そういう意味で未来の鍵『フローリスト』をラジオネームとして己に名付けました。そして今、私は春から無事に花・植物を守る人として無事に未来の鍵をしっかりと自分の手に掴んでいます。これからも、更なる高みと理想を夢見て、表現者としても社会人としても愚直に努力してきます。

2024年12月17日 フローリスト

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終末を巡る_7

アトリエから出ようと振り向くと、扉側の壁に絵画が一枚かかっていることに気づいた。
『…ん…?』
それは濁った空、枯れた草花に覆われた原っぱ、そして人が描かれている。人の頭が不自然に黒く大きく描かれているように見える。
『こわいな』
『ああ…さっさと出るか』
琥珀は林檎の首根っこを咥えてアトリエを出た。画廊を戻っていくと、先ほど追いかけてきた人間と思しき人間が先に見えた。
『げっ』
そっと様子を伺うと、暗くてよく見えないが、背中がもよもよと不自然に動いているようだ。
『きみわるい』
琥珀は林檎の首根っこをそっと離しておろしてやり、座って様子を伺った。
…人間の背中から何かが生えた。
『きゅう』
林檎の悲鳴を聞いて琥珀は林檎を背中がわに庇ってやる。
人間はぐるりと振り向く。琥珀は反射的に林檎の首根っこを咥えると人間の様子を見つつ後ずさる。

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五行怪異世巡『覚』 その⑦

「む……鬱陶……しい!」
白神さんの振るった爪を、覚妖怪は飛び退いて回避した。
「うぅー……!」
白神さんが苛立たし気に唸っている。彼女の手元をよく見てみると、奇妙な形で固定されていた。五指を大きく広げ、人差し指と薬指だけを根元から垂直に近い角度で折り曲げている。
「もー怒った!」
そう言って、白神さんは自分を素早く捕まえ、所謂『お姫様抱っこ』の形で抱きかかえた。
「痺り死ね!」
白神さんの足下から電光が迸り、地面を伝って周囲全方向に駆け抜けていく。なるほど、これなら覚妖怪でも回避しようが無い。
『「これで仕留められる」、そう思ったな?』
覚妖怪が口を開いた。その意味を量りかねていると、妖怪は猿のような肉体を活かして手近な木を物凄い速度で登り始めた。電撃は妖怪を追うが、多くの枝葉が避雷針のように機能することで、覚妖怪まで電撃が届かない。更に悪いことに、頭上を隙間なく覆う樹の中に妖怪が姿を隠してしまい、どこにいるのか分からなくなってしまった。
「し、白神さん。これじゃあ」
「大丈夫、もう1回……!」
白神さんが片脚を持ち上げたところで、頭上を強風が吹き抜けた。直後、少し離れた地面に覚妖怪が着地する。
『…………ふむ。“風”の思考を読んだのは、初めてだな』
「あれっ、そいつは驚いたな。どうせ何百年も生きてんだろーに、初めてか? “鎌鼬”と喧嘩すんのは」
自分と白神さんを庇うように立ち塞がったのは、種枚さんの弟子、鎌鼬少年だった。

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五行怪異世巡『覚』 その⑧

(…………さっ、てっ、とぉ……)
目の前の覚妖怪を睨みつつ、鎌鼬は思案していた。
(困ったな……俺の力、それ自体は攻撃力0だからな……出てきたは良いけど、師匠が来るまでもつか……?)
『……ほう?』
覚妖怪の口角がにたり、と吊り上がる。
『貴様、殺傷能力は持たんのか。ならば恐るるに足りんな』
「げっバレた。けど、お前転がすだけなら俺でも出来るんだぜ」
『面白い。その程度でワシをどうこうできるというなら、試してみるが良い』
「……りょーかい」
鎌鼬はクラウチングスタートの姿勢を取り、身体を風に変え、覚妖怪に向けて飛んでいった。
覚妖怪が跳躍した直後、その背後の木の幹に鎌鼬が姿を現わし、一瞬遅れて地面に降りる。
「クッソ、躱された……!」
『……ククク……貴様、どうやらその異能、そう何度も使えるものではないようだな。そして……「自分の方が速度は上だろうに、何故当たらない」、そう考えているな? 無駄だ。貴様ら“考える人間”では、ワシを捉えられんよ』
鎌鼬は額から頬を伝い顎に流れる汗を手の甲で拭い、ニタリと口角を吊り上げる。
「はぁ? どういう意味だよ、技術かトリックか? スペックで俺が勝ってるのは事実なんだ。お前、俺に謎を解かれた瞬間食われるぜ?」
『無駄無駄。解けたところで、解決法なぞ無いのだからな』
「やってみなくちゃ、分からねぇだろ!」
再び風に変じ、鎌鼬は覚妖怪に迫った。しかし、その攻撃もまた回避される。二度、三度と攻撃を仕掛け、その悉くが回避されて終わる。
「クッソ……何が足りねぇんだ……? …………けど」
『「これで挟み撃ちの形になった」か?』
覚妖怪がニタリと笑う。その背後から、白神が電撃を纏った爪を振り下ろした。覚妖怪はそれを軽く身を逸らして回避する。
『悪いが、ワシの脳は貴様1人に使い切るほど狭量ではないぞ』