「きーちゃんは?」
その言葉にナツィは、は?と聞き返す。
「キヲンならそこに…」
ナツィは先程キヲンが歩いていた前方を見やるが、そこには誰もいなかった。
あるのは人混みくらいである。
「あーもうアイツ…」
ナツィは呆れ顔で呟く。
それを見たピスケスはうふふと笑った。
「またどっか行っちゃったわね」
「そこ笑う所じゃないでしょ」
ピスケスの言葉に寧依はシリアスに突っ込む。
ピスケスはうふふふふと口元を隠した。
「…とにかく、探すか」
またこないだみたいに変な奴に攫われてなければいいんだけど…とナツィは呟いて歩き出す。
「そうね」
その場に残る魔力を追跡すればすぐに追い付くでしょうからとピスケスもそのあとに続く。
露夏、かすみ、寧依も頷くと2人のあとを追った。
相変わらず彼女に突っかかるチンピラ。
「あ⁈警告だぁ?調子のってんじゃね
チンピラが声を荒げた瞬間。
彼女の足がチンピラの頬にめり込んだ。
当たりどころが悪かったのか、そのまま床に崩れ落ちる。
彼女は倒れたチンピラには目もくれずに、声を張り上げた。
「皆様、大変お騒がせしました。皆様に多大な御迷惑をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。なお、ダイヤに乱れは御座いませんので、そのままご乗車ください。」
そう言いながらチンピラの首根っこを掴むと、窓から思い切り放り投げた。
…放り投げた⁉︎
「え、ちょっと、あの、それ、」
「?どうされましたか?」
放り投げられた彼は無事なのだろうか。
いや、そもそも放り投げるのは駄目だろう。
あまりにも平然と行われたその行為に、どこから突っ込めば良いのかわからない。
あー、とか、えー、とか言いながら言葉を探す僕を見て、彼女は、あ、と言い放った。
「顔、切れてますね。申し訳御座いません。治療を致しますので、このまま終点までご乗車ください。
お代は頂きません。」
170センチくらいの人型実体となった水は顔の部分をシオンたちへ向ける。と、顔の真ん中あたりから凄まじい勢いで水が発射された。
「うわっ」
シオンが足を上げて回避すると、水は床に当たって跳ね返り、不自然な動きでエリザベスの脛に命中した。
「っ!!」
「リサちゃんっ!」
穴は広くはないが足を貫通していた。
「わ、私が避けちゃったからかな…ごめんね、一旦逃げよう」
シオンはエリザベスをお姫様抱っこにして素早く発射される水を避け、階段へと少しづつ移動する。
「そこの階段、壁にひびが入っていますわ!崩せるかもしれません!」
「ああ、あの近道の…」
階段へ一歩を踏み出しかけて、シオンは足を止める。
「待って。ここの踊り場の鏡、確か水が漏れて_」
ぬるり、と踊り場に人型実体が現れる。シオンが踵を返すと、背後にも、人型実体がいた。挟み撃ちされてせまい段上で高速で発射される水を避けきるのは、いくらシオンといえど容易ではない。
「ど、どうしよう…」
「シオンさん、致し方ありませんわ。私の固有魔法で、下の階に無理やり降りますわよ!」
エリザベスは足元に向けて手を伸ばし、指を鳴らした。
どうも、猫町やたろうです。
実は私、散歩や遠出が趣味でして。
5月は行楽シーズンという事で新作です。
私が今まで行った場所の思い出的なものをちょこちょこ投稿しようと思ってつくりました。
これからもどこか行ったらまた投稿します。
タグは「#猫町旅記」です。
よろしくお願いします。
それでは本編どうぞ。
「不眠街」
午後10時、中央線の車窓から覗き込んだ新宿の不夜城は、猥雑なネオンや看板に彩られ、さながらミラーボールであった。
ミラーボールには、小さな新宿が詰め込まれているのかも知れない。
30クリック前にGG995付近でエネルギー反応観測、急行し5クリック前に惑星外縁付近到達
廃棄されていた衛星を鹵獲、惑星をスキャン
仮称として『ゼノプラネット995』と命名
観測開始
「…誰だ」
人影は電柱の陰からキヲンに尋ねる。
「え、誰って」
キヲンが思わずこぼすと、人影は…なんだよと不満そうに言う。
「名乗らねぇのか」
「あ、でも知らない人に名前を教えちゃいけないって」
「アンタ小学生か」
キヲンの言葉に人影は突っ込む。
「明らかに魔力の気配がするってことは、アンタも人工精霊だろ」
人影がそう聞くと、キヲンはあ、うん…と頷く。
「ていうか、アンタ“も”ってことはキミは…」
キヲンが聞き返すと、あぁと人影は言って電柱の陰から出る。
「うちも人工精霊だ」
その人物はボロ布のような外套を身に纏っており、背丈はピスケスより少し小さいくらいだった。
キヲンはその人物の言葉に驚く。
「…そう、なの?」
「まぁな」
その人物は頷く。
「それにしてもアンタ、どうしてこんな所に迷い込んだんだ?」
ここはうちらのナワバリなんだが、とその人物は腕を組んで尋ねる。
キヲンはえっと、と上を見上げる。
「…ねぇ、よかったらでいいんだけどさ」
キヲンは不意に相手に尋ねる。
相手はなんだ?と聞き返す。
「ボクのこと、大通りまで案内してくれないかな?」
「…は⁇」
キヲンの言葉に相手は素っ頓狂な声を上げる。
「なんでうちがアンタに付き添わなきゃいけないんだ」
「あ、嫌ならいいんだよ、嫌なら」
でもボク1人で大通りに出られる自信がなくて…とキヲンは恥ずかしげに頭を掻く。
相手は少しの間考えるように黙り込んでいたが、やがていいよと返した。
キヲンはその返事にホント?と聞き返す。
「あぁ」
まぁこの辺りの地理には詳しいしなと相手は頷く。
「それにこの辺りは“商会”のナワバリだから、明らかな部外者のアンタが1人でうろちょろするのは危ないし」
うちが付いていた方がいいかもしれない、と相手は呟く。
キヲンはその言葉に引っかかりを覚えたが、まぁいっかと思い、ありがとう!と返した。