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LOST MEMORIES ⅩⅨ

まもなくして大人の人が入ってくる。50代くらいだろうか。男の人である。どうやら担任の先生。寝癖だろうか、朝起きてそのままのような状態の頭の彼は細身で、いかにも低血圧といった感じがする。瑛瑠の思う統率力のある先生のイメージとは、かけ離れているといっても過言ではなかった。少なからず、このような人を王宮の中では見たことがなかった。
教卓の前に立つ先生。
「おはよう。今年一年このクラスの担任をやる鏑木(かぶらぎ)だ。
今日の日程は事前に紙で見ていると思うが、始業式のみ。昼には完全下校。」
なかなかの単刀直入タイプであった。たしかに、事前に予定は知らされていた。もちろん、チャールズ経由ではあるが。
「今日は時間がないから、クラス内での自己紹介や委員等の決め事は明日。
これから職員会議だから、静かに教室にいること。勉強でもしとけ。」
気だるそうに言う先生を、瑛瑠はまじまじと見つめる。
先生はそのまま教室をあとにした。
あんな先生、あんな大人は初めて見た。
クラスで話し声が聞こえる。
「ねえねえ、鏑木先生だったね!超嬉しい!」
「ほんとほんと!嫌な先生だったら1年間おしまいだもん。」
生徒間の人気は高いようだ。
今話している子達は中等部からの付き合いなのだろうと思いつつ、やはり彼の人柄は疑問だった。
「瑛瑠さんは高等部からの人?」
振り返るのは望だ。
「そうですよ。長谷川さんは?」
「ぼくもだよ。鏑木先生ってどんな人なんだろうね。」
話についていけない組発見。静かにとは言われているが、あくまで静かにだから、許容範囲だろう。それぞれやっていることはまちまちだ。