表示件数
2

ファミリー

「やっぱりレストランのほうがいいんじゃない?」
「いいの。りょう君、家庭の味に飢えてるっていつも言ってるから」
「サラダが欲しいわねぇ。かなちゃん、レタス買ってきてくれる?」

「買ってきたぁ」
「じゃあ半分に切ってちぎっといて」
「はあい。……お母さーん」
「なあに?」
「レタスの中からあかちゃんが」
「あらおめでとう」
「どうしたらいいの?」
「あなたが育てるのよ」
「えっ⁉︎ なんで?」
「当たり前でしょ。あなたが買ってきたんだから」
「当たり前って……」
「あなたのときはかぼちゃだったわ。おばあちゃんが送ってきてね」
「わたし、かぼちゃから生まれたの⁉︎」
「そうよ」
「こんにちはー」
「あっ。りょう君きちゃった」
「どうぞ上がってくださいな」
「おじゃましまーす。……おー、生まれたんだー」
「ごめんなさいりょう君、わたしが買ったレタスから出てきたの」
「出生届出さなきゃなー。あ、婚姻届が先か。名前どうする?」
「どうするって……」
「二人の子どもなんだから二人で考えるべきだろ?」
「こんなに早く孫の顔が見られるなんて思ってなかったわぁ」
「ほら、お前のおばあちゃんだよ〜」
「よろちくね〜」
「あっはっはっは」
「おっほっほっほ」
「…………」

2

続・シューアイス

「ドロドロに溶けてしまったね。」僕は目を覚ます。ベニヤと埃の匂いがする。ぼんやりとした視界が段々ハッキリしてきて、目の前には神崎がいる。麗しの神崎照美。1組のマドンナ。僕がシューアイスの次の次くらいに好きだった女性。霧がかかったような思考で僕は何が起こったか必死に思い出そうとしてみる。そうだ、僕はあの下劣極まる加藤をボコボコにぶっ倒したあと、やつが食べていたシューアイスを救おうとしたんだ。「こんな、形の無いクズみたいなもののために人の彼氏殴ってんじゃねえぞ、落とし前つけろよ。」ドスの効いた声が響き、咄嗟に逃げようとするが動けない。ロープで縛られ、地面に転がされている。僕はあの時、今にも崩れてしまいそうなシューアイスを掴もうと手を伸ばした。あと少しでその純白の肌を劣悪な環境から救ってやれる、そう思ったとき、背後から何者かに殴られ昏倒したんだ。「そんなに大切ならくれてやるよ、ほら。」頭に何かトロリとしたものをかけられる。僕は咄嗟に目をつぶるが、甘い香りが鼻につき、神崎が僕の頭にかけたものの正体を知ってしまう。不敬だ。これは、何よりもしてはいけないこと。シューアイスを、僕の体で汚すなんて。何という愚行。何という失態。僕は怒りと恥ずかしさでわなわなと震える。助けてやれなかった、その罪を、僕は今身をもって味わっている。