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自己家畜化

 だるだるのダルメシアン。
 ダルメシアンはだるかったの?
 ダルメシアンはだるかったんだよ。
 どうして?
 ペットだったから。
 ダルメシアンはペットだったの?
 ペットペットサロペット。
 なにそれ。
 知らない。
 
     *

 ダルメシアンはペットであることに飽いた。
 だから家を出ることにした。
 野で暮らすのだ。
 野で暮らすことを考えると不安だった。
 不安なのでペットの先輩であるスコテッシュフォールドの意見をきいてみた。
「暗い展望しか持てない者はいまある材料、目先の材料だけでしか物事を判断できない小者なのだ。先のことはわからないのが当たり前。どうせわからないのだからなにもしないより行動を選ぶべきだ」
「わからないから行動しない。じっとしているというのが自然界の法則では?」
「たしかに。いま気づいたよ。だがスコットランドでは」
「スコットランド行ったことあるのかい?」
「ないけど……あのな、月に行ったことなくても月にはクレーターがあるなんて話しするだろ。それといっしょだ」
「なるほど。相変わらず理屈っぽいね」
「お互いさまだ」
「ぼくらは発想が似ている。おんなじ。おんなじだ」
「似てるってことは違うってことだ」
「名言がぽんぽん出てくる」
「いまのは昨日見たドラマのセリフだけどな」
「そうか」
「そうだ」
「なんか楽しいな」
「そうだな」
 ダルメシアンはやはりペットであり続けることにした。そんで、かぷかぷ笑った。

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恩返し

 マンションのエントランス。たたずむ男。白いワンピースを着た、細身長身の女が入ってくる。
「あの、すみません」
「はい。なにか?」
「道に迷ってしまいまして、今晩泊めていただけないでしょうか」
「この先にビジネスホテルがありますよ」
「お金がないんです」
「はあ」
「お願いします泊めてください。なんでもしますので。機織りが得意なんです」
「ああ。そういうの、間に合ってるんで」
「……実は……わたし、先日助けていただいた鶴です」
「鶴を助けた覚えなどない」
「またまたあ。助けたでしょ」
「助けた覚えなどないって言ってるでしょ」
「とにかく助けていただいたんです」
「しつこいなあ。警察呼びますよ。どこかほかあたってくださいよ」
「そんなわけにはいきません。助けていただいたからには恩返ししないと」
「だから助けた覚えなんかないんだって」
「いいからいいから。あ、ほら、お金もうけしたくありません?」
「こう見えて僕は年収一億だ」
「お金はいくらあっても困らないでしょ? もうけさせてあげるからさぁ〜。泊めてよ〜」
「駄目だ。ほかをあたってくれ。金もうけの才能があるんなら自分のためにつかいたまえ」
「ああそうですかっ。なんだよっ。ばーかばーか」
 鶴去る。男、エレベーターに乗り、最上階に上がる。ドアが開く。無数の鶴が、機を織っている。
「          」
 男は、誰に言うともなしに、つぶやいた。