表示件数
1

…もう潔く負けを認めます

「…んも、だからさぁ!」これじゃ半ば八つ当たりだ。からみ酒だ。でも今じゃなきゃ言えないと思ったし、今なら酔った勢いだと聞き流してくれると思った。
「あたしがそうしたかっただけなの! この人なら好きになれるかなぁって、付き合ってみて、寂しさとか性欲とか満たしあってさぁ! でもこの人のためにあんたと飲むのやめようって思えなかったの! この人に時間拘束されるくらいならあんたと飲みたいって思ったの! あんたといるのが一番落ち着くんだからしょうがないでしょう!」「…あのねえ先輩」なによ、と強がる声は震えた。小さく息を吐く音が聞こえる。
「素面じゃないから何言ってもいいと思ってない? 僕が聞き流せるとでも思った?」完全に敬語が外れてるのを初めて聞いて___いや今そんな場合じゃないんだけど罪悪感めいたナニカをガツンと蹴飛ばして、胸がどくん、とときめいた。
「酔った勢いだからって聞き流してあげない」
そんな可愛い台詞、と辛うじて聞き取れた。え、と驚く間もなく形成逆転のように畳み掛けられる。「誰にでも優しくできるほど聖人じゃないよ。誰とでも飲むほど暇じゃないよ。他の誰にも可愛いなんて言わないよ。こっちは結構頑張ってるのにさらっと流されたりしてさ、」どんだけヘコんだかわかる? と睨まれて、縮こまる。___待ってそれはどうゆうことなの。
ちっと舌を打ったところを見ると、彼も相当酔っている。
「僕は先輩が好きですよ。高1の時から先輩がずっと好きですよ。電話してくれるのも甘えた声聞けるのも嬉しかったんですよ。
だからもういい加減僕のところに来てくださいよ。これだけ待ったんだから僕のものになってくださいよ。先輩だって僕のこと好きなの知ってるんですよ。あんな可愛いこと言っておいて違うなんて言わせませんよ」

5

近くて遠い背中に爪を立てる

「今年も織姫ちゃんは素敵だった」

開口一番にそんなことを抜かしながら、目元も口元も緩みきった彼が帰ってきた。浮かれる彼の声に叩き起こされた哀れな私は、「そう」とだけ返して煙草をくわえる。ポケットの中からライターをつまみ出そうとしたところで、ようやく自分が素っ裸であることを思い出した。

「俺が帰ってくるまで、ずっとそんな格好でいたわけ」

「天の川に橋がかかるまで、もうしばらくあるから」と、昨日の夕方になるだろうか、私をこんな格好にした張本人は笑う。大河を挟んで遠距離恋愛中の恋人との、年に一度の逢瀬―――そのギリギリまで他の女を抱くような男のそれとは思えないほど、無邪気な笑顔だった。

「別に良いでしょう、放っておいて」
「別に良いけど、放ってはおけない」

私の唇から煙草を引っこ抜き、代わりに己の舌をぬるりと差し込んでくる彼に答えながら、ぼんやり思う。こいつの大好きな織姫ちゃんとやらも、どこの誰とも知れないような男と、私達と同じようなことをしているんだろうなあ。たった1日の純愛と、残り364日の不純愛。

彼の大きな掌が、私の体を再びシーツの海に沈める。昨日よりも少しだけ優しい手つきだった。三日月型の彼の瞳に見下ろされながら、その白い波に初めて身を委ねたのは、もういつのことになるだろう、そんなことすら思い出せないほど、熱に浮かされて、意識はあぶくに、ああ、もう、なんだかなあ。

「織姫ちゃんって、有名人に例えると誰に似てるの」
「綾波かアスカかで言うならアスカだわな」

超可愛いじゃん。なんだかなあ。