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とある街にて 7

ある高校の生徒が、部活が終わって下校していた時の話。
夕日があと少ししたら沈んでしまいそうな時刻。その生徒はいつも通り帰路を辿っていた。
道のりの半分を歩いた頃、その生徒は奇妙な人物を目にした。
目深にかぶったつばの広い帽子に地味な色のローブ。人口の殆どが黒髪だといわれる超未来カグラにおいて、明らかに異質な白に近い色の長い髪の毛。その生徒は髪を染めたのかと訝しんだが、わずかな残光に照らされたその髪は透明感があり、地が黒だったとは思えなかった。
そこだけ空気が変わったような雰囲気に、その生徒はわずかに惹かれ、そのあとをこっそりとつけていったのだそう。

「はい先生」
白鞘が手を挙げた。
「なんだね、白鞘君」
「知らない人に勝手についていってはいけないと思います」
「話はこれからなので、どうか見逃してあげてください」

その謎の人物についていった生徒は、またしても奇妙な光景を目にした。
路地裏に入りあたりを確認した謎人物は、路地の壁に何か描いたかと思うと、突然その壁に吸い込まれていったのだ!跡形もなく消えてしまったその跡を見て、隠れてその様子を見ていた生徒は、怖くなって一目散に逃げかえったという。

「……っていう話。どう思う? 」
「始めから終わりまでベタな展開のホラー話ですね」
「右に同じく」
「そこには触れないで」
「どう思うかって、暇な生徒が暇つぶしに造った”下手な”噂話でしょう。探せばそんな話、どこにだって転がってますよ。八式先輩は信じるんですか? 」
「そうだよ。こんな胡散臭い話、絶対与太話だって。信じるだけ時間の無駄だよ。な、八式」
しかし先輩は、わずかに言葉を濁すように言った。

「いや、それがさ。もう信じるほかないというか……? 」

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とある街にて 5

「二人とも。魔法って知ってる? 」
唐突な八式の問いに、美澄と白鞘は思わず顔を見合わせた。当然のことを聞かないでくれ、とでも言いたそうな。
「知ってるも何も、あんなに騒がれてましたからね。子供の耳にだっていやでも入ってきますよ」
「もう十何年も前の話だろ。それがどうかしたのか」
十五年前、この超未来カグラが丸ごと異世界にお引越しした際、狂暴なモンスターとともに発見されたのが”魔法”だった。というより、新たなエネルギー体が発見されて、それが物理法則に従っていなかったことから、未知の法則という意味を込めて”魔法”という言葉を仮付けしただけに過ぎない。この”魔法”は、しかし数多のファンタジー作品に出てくるようなカッコイイ代物ではなく、むしろ非常に地味であった。そのエネルギー体(公式で”魔力”と命名された)は未だ完全解明からは程遠く、分かっていることと言えば、魔力が物質に蓄積されること、その量はかなり微量なこと、物から取り出された魔力は火や水などに変換しないと霧散してしまうこと、そして魔力対のエネルギー効率が非常に悪いなど、あまり未来に明るい内容とは言えなかった。因みに絶望的なまでに攻撃力がない。魔力で生み出された炎はろうそくの火といい勝負になる。
「その魔法の話なんだけどね、実はとある高校の生徒で、見たって子がいるのよ」
「見た?何を? 」
八式先輩はそれっぽく前置きして、それから若干もったいぶるように言葉をつないだ。
白鞘が珈琲だったものを啜る。

「それはその子が街を歩いていた時の話よ」
ベタな展開から始まるものだ。八式は口の端を吊り上げて楽しそうに言葉をつづけた。

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気付いたのですが、八式と白鞘は苗字なのに美澄だけ名前でした。作中で美澄は名前を嫌っているようなので完全に皮肉ってますね。面白いのでこのままにします。

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とある街にて 5

「そういうとこだぞ。八式」

その言葉に八式の頬がぷっくり膨れる。分かってますよぅ、と言いたげだ。
「美澄先輩、こんにちは。これから店番ですか」
「ん、八式が来るちょっと前から。八式の珈琲、私が出したし。まあこの様子じゃ……」
美澄は店内を見渡す。閑散とした店内には目の前の客二人と自分しかいない。
「……正直、さぼりホーダイだよな。あと、ボクの名前は律と呼んでくれと前々からいってるんだけど」
「すみません、八式先輩につられてしまうもので」
一人称がボクの店番の彼女は、その名前を律響院美澄といった。
「八式も、律と呼んでくれよ」
「昔は美澄でよかったじゃない。もうそっちに慣れちゃったわよ」
「八式先輩と美す……律先輩って昔馴染みですもんね」
「まあ、そう言うのは分かってたけどさ」
何故か名前で呼ばれるのが嫌いな美澄は、白鞘のオーダーを受けて珈琲を淹れ始めた。いい香りとともに黒い液体が落ちていくが、そこにはあとで大量のミルクと砂糖が入れられる予定である。
「それで?話って何」
美澄は出来上がった液体を白鞘の前に置きながら本題に入る。
美澄がここの店番とはいえここに自らを含めて3人を集めた張本人が、その言葉に待ってましたと言わんばかりに口を開く。口の端をわずかに上げながら。
「二人とも。”魔法”って知ってる?」

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とある街にて 4

カランコロン……、とドアベルが鳴る。
木製の扉を開けたのは一人の高校生。
入り口から差す夕日の逆光のせいでその顔は伺えないが、彼を待っていたカウンター席の客は、すぐにその人物が自分の待ち人であることを知れたようだ。にっこりとほほ笑んで彼を呼ぶ。
「白鞘、こっちこっち」
白鞘と呼ばれた高校生は彼を呼ぶ声の主を見つけると、彼女がいるカウンター席に向かって一直線に歩いていった。客はもともと彼女しかいなかったので迷いようはない。
白鞘はその客の隣のカウンターに腰掛けた。
「どれくらい前に着いてたんですか、八式先輩」
八式というらしい名前の客は一瞬時計を見て「10分くらい前かな」と答える。どうやら二人は待ち合わせをしていたらしい。八式の手元には湯気が立つ珈琲がある。
「白鞘はここまでのんびり歩いてきたの?レディを待たせて」
「本物のレディは自分のこと、レディなんて言いませんよ。それにたかが10分じゃないですか。誤差ですよ、誤差」
「まあ、白鞘は鈍足だから仕方がないか」
「……一概に否定できないのがまた悔しいですが」
体力テスト時の白鞘の50m自己ベストは9秒前半である。
「たかが10分程度を遅刻扱いにするのは流石に酷だと思うが」
店の奥からひとり、顔を覗かせるものがいる。
黒のエプロンを身に着けたその人物はこちらに歩み寄ってきた。
「そういうとこだぞ。八式」


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設定書くの飽きたので本編書き始めます。世界線は作中で追々説明を追加する予定です。
人物紹介を一つ。
律響院美澄……ボクっ娘。髪の毛はショート。

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とある街にて 3

自治体からの発表で、その謎の空気の原因はすぐに知れた。
それは到底、誰もが受け入れられるものではなかったが。
航空の偵察隊からの情報である。超未来カグラの周りから、周辺都市、周辺国家が跡形もなく消え去っていた。かつて山があったところに巨大な森が出現したという情報から、地理情報がまるっきり変わっていることも見て取れた。
都市ひとつの、異世界転生。それが真相。
市民には混乱を避けるためにある程度情報が制限されて報道されたが、そんなことは無意味だった。当然の様にパニックになり、街中には困惑の色が色濃く残った。
市民を不安にさせたのはそれだけではない。
制限しきれなかった情報の中には、都市の外側、無法の荒野を映した映像が残っていたのだが、そこに見たことのない生物たちが映っていたのだ。銃刀の類が効かない硬い毛を逆立て、柔らかい人間の肉ならやすやす切り裂くであろう牙をむき、狂気に黄色く濁った目を怒らして常に得物を探し続ける、一目で凶暴だとわかるイノシシのような外見を持つ”モンスター”達。あまつさえ混乱の中にあった市民たちは、そいつらが人間ひいては街の一部を襲い、すでに多くの被害を出していることを見た瞬間、爆発的なパニック状態を引き起こした。恒久的に続くと思われていた平和な生活から、未知の連続でいつ来るともしれない恐怖に突き落とされた市民たちの心はすでに限界を迎えていた。

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すみません、世界観設定の説明がもう少し続きます。個人的にも早くストーリーに取り掛かりたい反面、しっかりと自分の中でも世界観を確立しておきたいです。つまらない文面にもうしばらくお付き合いを。
文字ばっかりで読みにくいことこの上ないですね。