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世にも不思議な人々72 殴る人その6

那由多の体重と運動エネルギーを乗せた一撃は、その衝撃を余す所なく男に伝え、
「ぐふっ……」
男の肺から、空気が漏れ出した。
「まだまだぁッ!!!」
その拳を引き、すぐさま掌底、両の掌底と続け、男の身体を空中に打ち上げた。
スピードを技量でパワーに変換する那由多にかかれば、精々85kg程度しかない男の身体を宙に打ち上げることなど容易いのである。
その身体より更に高く跳び上がり、次は回転しながらの踵落としを食らわせる。
男が地面に落ち切る前に回転を利用して強引に着地し、反動で今度は膝蹴りを繰り出し、再び宙に打ち上げる。それを両手の手刀で無理やり止め、とどめとばかりに貫手を鳩尾の辺りに命中させ、男を1mほど吹っ飛ばした。
「ハァッ!どうだ!ボクの怨嗟と憎悪と嫌悪を存分に込めた怒りの七連撃は!……しかしまあ、一回どこかで見ただけの技だけど、案外と上手く行くもんだな。さて、こいつをどうするか、ぬぉわっ」
突然那由多の膝から力が抜け、耐え切れずがくっと座り込む。これまでの動きをまるで疲労の色を見せずにやり切ったというのだから是非も無い。アドレナリンと気合で無理に動いていたのが、緊張の糸が切れたのだろう。
「うあぁ……いったぁ……。やっぱ貫手は駄目だな、もう脚も痛くて動かないし。あーあ、ここらで都合良く安芸ちゃんが通りかかってくれて治してくれたりしないかなー」

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世にも不思議な人々71 殴る人その5

前回の続きだが、能力に頼ることにした那由多。すぐに変化が現れた。
彼女の両腕、二の腕の真ん中より先の方全体を覆うように、西洋の鎧に付属する手甲が出現した。ただ一つ奇妙な点があるとすれば、手首より先、本来手の甲を守る金属板やグローブになっているであろう部分が、手の全体を覆うようについた内側にやや湾曲した長さ50cmほどの刃になっていた点だろう。
『ホラ、刃ハ提供シタシ、彼奴ニ勝ツ力ハ君自身ガ持ッテル。後ハ君ノ好キニシナ』
彼女の能力が楽しそうに言う。
(ありがとう。今一番欲しかったものをくれた。……しかし、これじゃあ蝗(グラスホッパー)というより、蟷螂(マンティス)だよなぁ……)
「んん?何だァそれは?武器か?何もない所から出しちゃうの。うわすげ。しかし無意味だな。今の俺にはどんな攻撃も通らない!」
そう言って男は猛スピードで突っ込んできた。がしかし、那由多は、
「ああ、確かに『無意味だ』という意見に対しては賛成だよ……。しかし、『お前の防御力が』という意味だけどな」
跳ね飛ばされたアスファルトの欠片を弾き返し、更に男が繰り出した拳を懐に入り込むようにして躱し、両手の刃で思い切り斬りつけた。
「ボクの刃は身体を斬らない。お前の『記憶』だけを斬る!」
「ガッ……!」
「うおおおおぉぉおおらあぁぁああぁあ!!!」
能力生命体の具現化によるブラッシュアップを果たした彼女の能力による幾度もの斬撃は、プラスマイナスに拘らず男の記憶を切り裂き引き裂き掻き回し、その精神的ショックは男を気絶させるには充分過ぎた。
勢いを失い倒れ込んでくる男の身体の前で、那由多はしかし攻撃の手を休めなかった。
両腕の変形手甲を消し、両足を前後に配置し爪先を右に向け深く腰を落とし右手を固く握りその手を左手で包み込み、ぐん、と男に背中を向けるように上半身を捻り、
「ダメ押し、だぁッ!!!」
上半身を戻す勢いで男の胸部に拳を叩き込んだ。

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世にも不思議な人々70 殴る人その4

那由多の小さく軽い身体から繰出された、しかし強烈な一撃は、確かに男の顔面中央に命中し、男を仰け反らせた。しかしそこまでだった。
「んなっ……馬鹿な、確かに思いっきしど真ん中に命中させたのに……」
那由多が呆然とするのも無理無い話である。
「……人間のステータスって、大きく分けて3つに分かれるんだわ」
男が仰け反った姿勢を直しながら話し始める。
「一つはパワー。攻撃力だ。一つはスピード。俊敏性だ。そしてもう一つは、防御力だ。どんなにパワーとスピードがあっても、それに耐えうる身体が無いと意味が無い。そして俺の能力は!パワー!スピード!それらに耐えうる耐久力!それらを扱う感覚機能!その全てを強化する!そこに死角など無い!」
「嘘……だろ……」
「しかし、まさか俺の攻撃をあれだけ躱し、更に一撃を返すたあ、やるじゃないか。俺の本気、思う存分食らえ!」
そう言って男は、地面を思い切り殴った。小さなクレーターができる。そしてその場で回し蹴りを繰り出した。しかし少し距離を置いている那由多には届かない。
(一体何をやって……)
その瞬間、背筋に嫌な寒気を感じ、咄嗟に那由多は左に身体をずらす。その瞬間、アスファルトの欠片が先程まで彼女の眉間があった位置を弾丸もかくやというスピードで通過した。
(はぁっ!?アスファルトを殴って飛んだ欠片を蹴り飛ばしたってのか!?そんなん運でしか避けらんないじゃん!)
次々繰り出されるその遠距離攻撃を、男の動きと直感から全て躱し切る那由多。しかしそこに先程までの余裕は微塵も感じられない。ただひたすらに回避に全身全霊を注ぐのみである。
(ぐっ……せめて何か刃物があれば、弾くなり防ぐなり出来そうなものなのに……。全部あいつのせいで取り出せなくなってるし、これじゃあまるで詰みじゃないか!)
そんな彼女の耳に、何者かの声が聞こえてきた。
『ヤアナッチャン。苦労シテンネエ。言ウテワチキモアイツ嫌イヤワア』
(む、『グラスホッパー物語』。こんなときに何だ一体?今死にそうなんだが。ダイイングなんだが!)
『マアマア、力、借リタイ?』
(借りるったって、刃物が無いじゃん!)
『ソウ焦ラナイノ。君ニハアイツニ勝テルダケノ力ガ既ニアル。ワチキガ後ハソレヲ活カシタゲル』
(そこまで言うならやってみろ!)

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世にも不思議な人々69 殴る人その3

いくら攻撃しても那由多に攻撃が当たらないためか、男の方にも焦りが見え始めた。
「うぅわ、こんな攻撃も避けちゃうんだ。すげぇやぁ。だがくたばれっ」
次々繰り出される殴打や蹴りを全てギリギリで避け切る那由多。それもそのはず、元来彼女の身体能力は、速度と技術について常人を遥かに凌駕するものなのである。その能力の全てを回避に費やしているのだから、たとえ能力無しでも、身体強化能力者にも引けを取らないのである。いわゆる『誠刀防衛』だ。それに気付いた那由多はギリギリながらも挑発することにした。
「ッ……どうしたっ、通り魔っ。どうやら、身体能力、の、強化が、お前の能力みたいだけど、まだ能力を、使ってない、ボクに、一撃だって、当てられて、ないじゃあ、ないか!」
男も攻撃の手を緩めずに答える。
「ほお……お前も能力者なのか。しかし、俺を止められないようじゃあ、所詮はゴミだなあ!」
「………あ?今お前、何つった?」
突然、那由多の持つ雰囲気が変化する。
「お前らみたいな人種は、力も無くて現場じゃ何の役にも立たないから、ゴミみたいなもんだっつったんだよ」
その言葉と共に飛んできた拳を那由多は紙一重で躱し、男の勢いを利用してその顔面に飛び蹴りを叩き込んだ。
「ああ…確かに『男尊女卑』ってものはあるし無くならないと思うよ。単純な力は男の方が上なんだから、表じゃそっちの方が重宝はされるさ…。けど真の『男尊女卑』とは!男女の身体的な格差を役割の分担によって補い合うものであり!お前が言うような差別的なものでは断じて無い!お前みたいな奴は今ここで!ボクが裁く!」

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世にも不思議な人々68 殴る人その2

その日の帰り。
(ふむ、通り魔、か……。凶器は鈍器の類なんだろうな、殴り殺されてたって話だし。ってかあいつはなんで分かってたんだ?あ、あいつなら何もおかしくないや)
そんなことを考えながら、那由多がある街灯の下を通ったとき、向こう側から一人の男が歩いてくるのが見えた。背丈190cmほどの長身だ。
二人がすれ違いそうになったその瞬間、男が殆どノーモーションで殴りかかってきた。
「なっ……!」
那由多は咄嗟に持っていたギターケースを盾のように構え(那由多は普段能力発動のための刃物を全てギターケースに入れて持ち運んでいる)、更に後方に跳ぶことで衝撃を和らげた。しかしその威力は恐ろしく高く、数メートル吹き飛ばされ、ギターケースはひしゃげてしまった。
「誰だお前!まさか!お前が例の通り魔か!」
那由多が何とか停止して叫ぶ。
「何だ、もう広まってたのか?すげすげ」
対する長身の男は楽しそうに応える。そのまま一瞬にして距離を詰めてきた。那由多はその拳を相手の懐に飛び込むようにして回避し、そのまま相手の背後5m程まで滑り込み、再び男に向き直る。しかしそのときには既に、男もすぐ側まで拳を迫らせていた。
「ぬわっ!」
それを仰け反ることでギリギリで躱し、後転しながら距離を取る。しかしそこに男の踵落としが降ってくる。それを横に跳んで回避するも、次は回し蹴りが飛んでくる。
「うおああああああああああ!!!!」
 その回し蹴りを跳んで躱し、続けて飛んできた右ストレートに回し蹴りを合わせ蹴りの勢いで回避する。

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世にも不思議な人々66 間違っている人その4

肩にある蜘蛛脚と下半身の蜘蛛脚で這うように走る阿蘇さん。その速度は自動車に匹敵します。それに何本もの腕で一つ目小僧も何とかしがみついています。
そしてついに件の鵺達のところまで辿り着きました。鵺と山彦は知らない男のもとに集まっています。
一目「見つけたぞ妖怪共!」
?「……何この化け物共」
阿蘇「マアそりゃそうだよナ。まあちょいと聞いてくれよ」
人外化を解いた阿蘇さんが会話を試みました。
?「はあ、何でせう」
阿蘇「こいつが偶然そこの山彦を見かけたんだ。それでそいつを探しに出たら、今度はそっちの鵺にも遭遇して、面白そうだから両方捕まえようぜってんで、その鵺を追跡してたらここに来たというわけだ」
?「なるほど。つまりあんたらはただの好奇心旺盛な阿呆共ってだけで、悪意は無いわけだ」
一目「阿呆共言うな。いやまあそうだけど。そいつらは何なんだよ」
?「俺の能力で産まれたものだよ。どうせお前らも能力者なんだろ?あの姿や何本もの腕。能力者じゃなきゃバケモンだ」
阿蘇「どんな能力?」
?「『間違っているとされたもの、存在しないとされたもの、別のもので説明されたものを操る』能力だ。山彦は音の反響、鵺はレッサーパンダとかトラツグミとかあるからな」
阿蘇「ほう、じゃあ名前も教えてもらえる?呼び方に困る」
?「お前らが名乗れよ」
阿蘇「俺は阿蘇。こいつは……まあ一つ目小僧とでも呼んでやって」
?「ふーん、俺は八街祝」
阿蘇「へー、やちまたはふり。面白い名前だな」
八街「あ、そうかい?俺はこの名前好きだよ。縁起良いもの」
ところで一つ目小僧はこの後山彦を一匹八街に譲ってもらったそうです。

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元人間は吸血鬼(仮)になりました。#4

 「今日からハロウィンだね。」なんて風花さんが言う。私は首をかしげる。
「ハロウィンって一日だけじゃないんですか?」と尋ねれば「は?一日で人間捕まえて食うの?間に合うわけねえじゃん」なんて返された。なんであんなに口悪くなったんだ。もとから悪いけど。雨月さんの方を見れば「うへへ。やっと女の子食べれる…」なんて相変わらず気持ち悪いことを言っていた。涼香さんは無言でピアノを弾き続けていた。
 風花さんに「ハロウィンって何日あるんですか?」と聞くと、「10月31日から11月2日までの三日間。その間に怪物は三人まで人間を食べていいって決まってるんだよ。一年に三日しか私らは飯食えないの。」と言っていた。その横で雨月さんが「うへへ、今年から三人だよ。うへへ。」と言いながら笑っていたのは聞いていないことにした。「何で今年から三人まで食べてOKになったんですか?」と尋ねると、「人間増えすぎだからお前らもうちょい食べていいよって魔界の偉いやつに言われたの。」と風花さんに返された。「お腹空いたな。」と思うことはなかったが、人間だった時と同じようにおいしいものを食べたら、怪物の時でも幸せに感じるのだろうか。でも、よくよく考えてみれば、もともと人間だったのに、人間を食べるのか。…なんか、グロいな。涼香さんは、何をしているのかと思えば、いつもと同じように、一心不乱にピアノを弾いていた。ピアノに乗っていた楽譜を見れば、音楽の授業で習ったような気がした曲だった。音楽の授業は興味がなくて、真面目に聞いていなかった。まあ、今更後悔することもないのだが。ハロウィンか、なんて考えていれば、いつの間にか夜明けは来てしまうのだった。
 怪物は寝ていなくても、疲れがたまらないので、基本的には夜が明けるまで起きているのだ。それを毎日繰り返すのが、吸血鬼になってからの生活サイクルだ。だが、この魔界、仕事はなかなか無いし、新しい生活があるわけではなかった。むしろ、活動時間が増えただけだ。流石ののんびり屋の怪物たちでも、退屈だと感じたのだろう。いたって人間界と変わらない。いや、むしろ、人間界より、進化してるかも。なんだかんだ言って、怪物の方が頭いいのかも。
「夕方になったら人間界行くぞ」という風花さんの言葉に静かに頷いた。