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NO MUSIC NO LIFE #9 ワルシャワの夜に

結月視点

「瑠衣にあったことあるのか?」
僕が玲に尋ねると、玲は顔を顰めて
「…わからないんですよ。でも、きっと瑠衣ちゃんなんだと思います。私が実家を出たのは、中学校一年生の時なんです。それから、私がもともと居たあの犯罪集団に拾われました。でも、私たち姉妹が離れ離れになった理由は確かに覚えています。」
と、答えた。
「どうしてなのか言えるか?」
「…それは、少し待ってもらえますか」
そう言い放つ玲の表情はどこか辛そうだった。


玲視点

 思い出したくもない、あの両親。憎悪の念があふれてくる。顔だって覚えていない。結月さんに質問をされていたことを思い出し、結月さんの顔を見る。私と同い年だとは思えないほど、大人びたその行動。不安そうなその表情。嗚呼、また誰かを困らせてしまった。こんな有様だから捨てられてしまうんだ。
 意を決して結月さんに向き合う。
「私の昔話、聞いてくれますか?」
そう尋ねれば、一歩私に歩み寄って微笑みながら彼女は頷いた。どうしてだろう、いつからだろう、人から向けられる優しさが怖くなったのは。また、私のせいで傷つけてしまうのだろうか。どうして、その瞳はそんなに澄み切っているのだろうか。
 そんなことを考えていれば、彼女は口を開いた。
「怖がらなくていいよ。辛かったら、途中で言うのをやめてもいい。大丈夫、玲も瑠衣も僕が守るから。」
その目は真っすぐ私を見つめていて。どうしてこんなにもこの人は優しいのだろうか。その優しさですら、不快に感じてしまうほどに私は愚かで。
 でも、この人は信用してもいいのかもしれない。

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世にも不思議な人々66 間違っている人その4

肩にある蜘蛛脚と下半身の蜘蛛脚で這うように走る阿蘇さん。その速度は自動車に匹敵します。それに何本もの腕で一つ目小僧も何とかしがみついています。
そしてついに件の鵺達のところまで辿り着きました。鵺と山彦は知らない男のもとに集まっています。
一目「見つけたぞ妖怪共!」
?「……何この化け物共」
阿蘇「マアそりゃそうだよナ。まあちょいと聞いてくれよ」
人外化を解いた阿蘇さんが会話を試みました。
?「はあ、何でせう」
阿蘇「こいつが偶然そこの山彦を見かけたんだ。それでそいつを探しに出たら、今度はそっちの鵺にも遭遇して、面白そうだから両方捕まえようぜってんで、その鵺を追跡してたらここに来たというわけだ」
?「なるほど。つまりあんたらはただの好奇心旺盛な阿呆共ってだけで、悪意は無いわけだ」
一目「阿呆共言うな。いやまあそうだけど。そいつらは何なんだよ」
?「俺の能力で産まれたものだよ。どうせお前らも能力者なんだろ?あの姿や何本もの腕。能力者じゃなきゃバケモンだ」
阿蘇「どんな能力?」
?「『間違っているとされたもの、存在しないとされたもの、別のもので説明されたものを操る』能力だ。山彦は音の反響、鵺はレッサーパンダとかトラツグミとかあるからな」
阿蘇「ほう、じゃあ名前も教えてもらえる?呼び方に困る」
?「お前らが名乗れよ」
阿蘇「俺は阿蘇。こいつは……まあ一つ目小僧とでも呼んでやって」
?「ふーん、俺は八街祝」
阿蘇「へー、やちまたはふり。面白い名前だな」
八街「あ、そうかい?俺はこの名前好きだよ。縁起良いもの」
ところで一つ目小僧はこの後山彦を一匹八街に譲ってもらったそうです。

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元人間は吸血鬼(仮)になりました。#4

 「今日からハロウィンだね。」なんて風花さんが言う。私は首をかしげる。
「ハロウィンって一日だけじゃないんですか?」と尋ねれば「は?一日で人間捕まえて食うの?間に合うわけねえじゃん」なんて返された。なんであんなに口悪くなったんだ。もとから悪いけど。雨月さんの方を見れば「うへへ。やっと女の子食べれる…」なんて相変わらず気持ち悪いことを言っていた。涼香さんは無言でピアノを弾き続けていた。
 風花さんに「ハロウィンって何日あるんですか?」と聞くと、「10月31日から11月2日までの三日間。その間に怪物は三人まで人間を食べていいって決まってるんだよ。一年に三日しか私らは飯食えないの。」と言っていた。その横で雨月さんが「うへへ、今年から三人だよ。うへへ。」と言いながら笑っていたのは聞いていないことにした。「何で今年から三人まで食べてOKになったんですか?」と尋ねると、「人間増えすぎだからお前らもうちょい食べていいよって魔界の偉いやつに言われたの。」と風花さんに返された。「お腹空いたな。」と思うことはなかったが、人間だった時と同じようにおいしいものを食べたら、怪物の時でも幸せに感じるのだろうか。でも、よくよく考えてみれば、もともと人間だったのに、人間を食べるのか。…なんか、グロいな。涼香さんは、何をしているのかと思えば、いつもと同じように、一心不乱にピアノを弾いていた。ピアノに乗っていた楽譜を見れば、音楽の授業で習ったような気がした曲だった。音楽の授業は興味がなくて、真面目に聞いていなかった。まあ、今更後悔することもないのだが。ハロウィンか、なんて考えていれば、いつの間にか夜明けは来てしまうのだった。
 怪物は寝ていなくても、疲れがたまらないので、基本的には夜が明けるまで起きているのだ。それを毎日繰り返すのが、吸血鬼になってからの生活サイクルだ。だが、この魔界、仕事はなかなか無いし、新しい生活があるわけではなかった。むしろ、活動時間が増えただけだ。流石ののんびり屋の怪物たちでも、退屈だと感じたのだろう。いたって人間界と変わらない。いや、むしろ、人間界より、進化してるかも。なんだかんだ言って、怪物の方が頭いいのかも。
「夕方になったら人間界行くぞ」という風花さんの言葉に静かに頷いた。

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NO MUSIC NO LIFE 一周年記念番外編 天球、彗星は夜を跨いで ④

いつの間にか降り始めた流れ星は、四人の視界を輝かせては一瞬で消えていく。
そんな感じで時は過ぎ、気づいたときには深夜の一時を過ぎていたらしい。
「まあ、明日休みだしゆっくり帰ろうぜ」
と言う結月の言葉に三人は頷いた。
「アイス食べたいー」
という時雨のわがままにより、四人はコンビニに寄った。
道中、美月と玲が声をそろえて
「「疲れたー」」
と言ってたとか言ってなかったとか。
コンビニについた一行は、それぞれが好きなアイスを買い、食べ始めた。
他愛ない会話をしていると、美月が思い出したように
「でもやっぱり、一瞬で消えちゃうのは、さみしいですよね。流れ星って。」
と言い放った。
「じゃあ、彗星ならいいんじゃね?消えないし、きれいだし。「別離」の象徴でもありながら「再会」の象徴でもある。なんか素敵だしさ。」
そう言う結月の言葉に
「じゃあ、次は、彗星観察だね。」
と時雨が返す。
その言葉に反応して、玲がスマホを取り出し、次に彗星が来るのは何時か検索しだす。
そんな姿を、見ながら、結月は空を見上げながら考える。

彗星なら流れ星よりも強い光で、
夜空を切り裂いて、
真っ暗な天球を繋いで、
「別離」と「再会」という相反する意味を持って、
僕の願いを叶えてくれるのだろうか。
押し殺した悲しみを
寝静まった街に降らせてくれるだろうか。

いつかそんな日がくればいいと結月は考えた。


【一周年記念番外編 天球、彗星は夜を跨いで 終わり】

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NO MUSIC NO LIFE 一周年記念番外編 天球、彗星は夜を跨いで ③

丘の上で空を見上げる四つの影。その間では、こんな会話がされていた。
「ねえ、流れ星に名前つけられたらなんてつける?」
笑いながら尋ねる時雨。
「…確か、流れ星って地球の大気と衝突してすぐ燃え尽きちゃうんじゃなかったっけ?」
そうつぶやく美月に結月がこう返す。
「だとしても、名前ぐらい付けてあげるべきだろ。それぐらいしかしてやれないんだし。」
「確かにそうですね!」
と美月が笑顔で返す。
「流れ星って見たときにお願い事すると叶うっていいますよね!」
玲が嬉しそうに言う。
「お願いしたけど、叶わなかった…」
小さくつぶやく時雨。
「流れ星ってさ、真っ暗な空に一瞬光って、夜を切り裂いてるみたいでカッコよくね?」
少し無邪気に結月が言う。
「そうかもしれないですね!」
と言う美月も
「えー?そうかなー?」
と言う時雨も
「素敵なこと言いますね」
と言う玲も
三人を見つめる結月も
笑っていた。

いつの間にか流れ星は降り始め、四人の視界を輝かせた。
それぞれがどんな思いで流れ星を眺めていたか、なんて誰にも知る由もない。


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皆さん!そうです、僕がイカとにゃんこです!初めましての方もお久しぶりの方も
いらっしゃるとは思いますが、一周年企画どうでしょうか!まだまだ続きますけどね。
この曲はfLactor(月影:つきかげ)さんに決めて頂きました!
いつも仲良くしてくださっていて、今回コラボもしていただけてとても嬉しいです!
感想お待ちしております!

イカとにゃんこ

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No music No life 一周年記念番外編 天球、彗星は夜を跨いで ②

「なんと今日、流星群が見られるらしくてさ」
気象予報のコーナーで言ってたよと時雨は付け足した。真面目な時雨は毎日ニュースをまめにチェックしている。意外にも世間にさといのが時雨だった。
「流星群! 私まだ流星群どころか流れ星一つ見たことないです」
一回くらい見てみたいなーと美月が目を輝かせる。
「僕は流れ星くらいは見たことあるけど、流星群はないなぁ」
「私は一回だけ見たことありますよ」
「そのときはどうだった? やっぱり綺麗だったの?」
玲も星を眺めることがあるのかと思いつつ、結月が質問する。
「小さいころに見たんであんまり覚えてないんですけど、正直なところあんまりすごいとは感じませんでした。ぶっちゃけただの流れ星でしたよ。ぽつりぽつりってかんじで、子供心にはやっぱりもっと一斉に星が降ってるところを見たかったんでしょうね」
「……そんなもんなんですか?」
ぽろりと零れるような声で結月が呟いた。シャッター連続開口写真のような壮大なやつを期待していたのだろう。
「まあ、そんなものらしいよ。”流星群”とはいってもたくさん降るって意味じゃないんだって。一時間に二、三個程度の流星群なんてざらみたい」
「二、三個!? 夢がないですね……」
今スマホでささっと調べたらしい時雨の言葉は美月の流星群のイメージを破壊して余りあるらしかった。
パンッという乾いた音が三人の注目を集める。結月が手を打ち鳴らしたのだ。
「まあでも美月は流れ星見たことないんでしょ? ……そうだな、新月で空は快晴とあることだし、今夜は天体観測といこう」
悪だくみをするときの顔とはまたちょっと違う気もするが、おおよそ小学生たちが浮かべているそれと大差ないよな、という感想を抱いたのは時雨だ。好奇心が止まらないといったような無邪気な笑顔である。もちろんそのことは口には出さず、代わりに肯定の意を示す。この話題を出した時点で結月がこの提案をしてくれることを期待していないわけではなかった。
「……それって警察に補導されたりしないかな」
「我々の身分を忘れたのかね」
美月の心配は結月の次の言葉で粉々に吹き飛んだ。