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空の青さを知る君は明日海へ行く

数年ぶりの夏休みだった。中3の時に前線に行ってから
夏休みはおろか、教科書を片手に日々、血と弾丸の降り注ぐ毎日だった。夏休みが始まる少し前に一時的な休戦協定が結ばれた。大学部以下の者は全員、夏休みに入ることができた。でも、いつ、相手国は再び襲撃してくるか分からない。だから、夏休みとは言え気が抜けない。もし、普通の学生だったなら、もう少しマシな人生を送れていただろうか。もし、両親が生きていたならば…。そんなことを思いながら、優樹はガラスの奥の子猫を見ていた。たまに、時間がある時優樹はペットショップの犬や猫達を見ながら物思いにふけっていた。子猫がおもちゃで無邪気に遊んでいる様子をぼんやり見つめていると、後ろから肩をポンと叩かれた。
「やぁ、君は相変わらず猫ちゃんが好きなんだな。」
「隼斗もきてたのか、どうも、子猫には敵わなくてね」
「ほほ〜無敵の優ですら、敵わないものがあるんだな、勉強になった、なった。それより、さっき妙なグループに会ったんだよ。何故かは知らないが、俺を見るなり、何もしてないのに、いきなり驚いた顔して一目散に走っていったんだよ。」
「不思議だな、いや…少し思い当たることがある…それって…」
優樹は先程の地下の階段での出来事を話した。隼斗は納得した顔と同時に少しニヤニヤしながら
「そういうことが、相変わらず、優樹はすごいな、雰囲気だけで相手を黙らせるとは、さすが、高等部全軍総司令官!!」
「や、やめろよ、恥ずかしいじゃないか、でも、僕はそんな、怖い顔をしていたのだろうか…だと、すると、あぁ…もしかして舞さんにも怖い思いをさせたかもしれない…」
「まぁ、でも、結果は君の一目惚れの相手にまた、会えたんだ。良かったじゃないか。」
「まぁな…。」

それは、突然の出来事だった。2人がペットショップを出ようとした瞬間だった。
「ブゥーーーーーーーン!!」
空襲を告げるサイレンだった。
この不気味な音に一瞬で周りはパニックなった。
優樹と隼斗はサイレンが鳴った瞬間にお互いにその場を離れた。
「隼斗、詳しい話はあとで、まず、君はこのショッピングモールの中にいる人達を地下に誘導!もし、他にも仲間がいれば、手分けして避難誘導だ、僕は外にいる人たちを誘導する!」
「了解、あとは、無線で連絡しよう!じゃあ!」

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空の青さを知る君は明日海へ行く

「お兄さん方、何をしているのですか?」
それは、今まで聞いたことがない、とても静かで、とても冷たい声だった。
その声に思わず全員がその声の主の方を向いた。
そこには、彼がいた。無表情なその目はとても冷たく、男達を見つめていた。それのためか、自然とその空間はより、一層冷たくなったように感じた。舞は思わずその雰囲気に身震いした。
「くっ、その服…お前、あそこの学生か…ちっ。」
「こいつらには、敵わねぇ、学生に見えて力は化け物だからな、こっちが危険だわ」
男達は、舞の手を壁に投げつけるように話すと足早に階段を登り消えた。しばらく沈黙が続いたあと、舞は恐る恐る彼の顔を見た。無表情だったが、先程の冷たい空気は消えていた。彼は男達の足音が消えるまで全く舞の方を見なかったが、音が消えるとサッと階段を降り、舞の元に駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?お怪我はございませんか?」
彼は少し微笑みながら舞に話しかけた。舞は少し顔が熱くなるのを感じつつお礼を言った。
「あ、ありがとうございます。あの、この前も会いましたよね、えっと…」
「お久しぶりです。自己紹介をしていませんでした。若槻優樹と申します。貴女は?」
「舞です。ほんとに、色々ありがとうございました。あの、若槻さんは大学生…とかですか?」
「いえ、まだ高校2年生です。でも、よく大学生と間違えられます。」
「そうなんだ!私と同じだね。良かった、少し肩の荷がおりた…。」
優樹の顔もさっきより和らいでいるように見えた。
「自分のことは呼び捨てでいいですよ。では、私はこれで失礼します。どうぞ、お気をつけて。」
そう言うなり、優樹は素早く音無しに階段を駆け上がっていった。舞はしばらく踊り場に佇んでいた。

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