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少年少女色彩都市・某Edit. Passive Notes Walker その①

「……あー、マイクテス、マイクテス。タマモノマエのー、アジテイションレイディオー。わーぱちぱちぱちぱち」
椅子に掛けてテーブルに足を掛け、後ろの二脚を支点に椅子を揺らしながら、タマモは無感情に虚空に向けて独り言を放っていた。
「俺はぶっちゃけサポーターの方が楽なんだよ。だから相棒……ロキがいねえとエベルソルとの戦闘に当たってそこそこ困るわけなんだけどさァ……いやロキもサポート向きだから相性自体は微妙なんだけど」
向かいの席に目をやる。普段ならロキがいるはずのその場所は空席だった。
「えー……ロキの奴は現在、高校入試に向けて受験勉強が佳境に入っているので任務には参加できないそうです。俺が中3の頃なんて、ろくに勉強してなかったぜ? 勉強しなくて良いように行く高校のレベル調整してたから。……閑話休題。だからフォールムの偉い人にさ、俺1人じゃただの役立たずのクソ雑魚なんで誰か臨時のバディくださいって頼んだわけよ。ガノ以外で。俺あいつのこと嫌いだし」
言葉を切り、ドアの方に目をやり、すぐに天井に視線を戻す。
「まァ…………一応俺の提案は認めてもらえてさ。何か、前衛向きの奴寄越してくれるって話だったんだけどさ」
壁掛け時計に目をやり、溜め息を吐く。
「……まだ来ねェ…………んがッ」
バランスを崩して椅子をひっくり返し、床に投げ出される。
身を起こそうとしていると、慌ただしく駆ける音が扉の向こうから近付いてきた。
「ん、やっとか」

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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その⑥

「……誰だい」
種枚は倒れたまま声の方へ目を向けた。彼女から10mほど後方に、抜き身の日本刀を携えた小柄な少女が立っている。
「そいつは、私の獲物だぞ!」
威勢よく言う少女を睨み、億劫そうに立ち上がってから、種枚は一瞬で少女との距離を詰めた。片手は刀身を強く掴み完全に固定し、攻撃の余地を潰している。
「ひっ⁉ お、鬼……⁉」
怯える少女の顔を無表情で覗き込み、背後から肉塊怪異の気配を感じながら種枚は口を開いた。
「……本当にやるのかい?」
「……へ?」
「あれ、君が殺すのかい?」
「っ…………や、やってやる!」
「そうか。頑張れ」
刀から手を放し、少女の肩を軽く叩き、怠そうに少女より後ろに退避していった。
「本当にあの子に任せちゃうんです?」
種枚の隣に下りてきた鎌鼬に問われ、種枚は目だけを向けた。額には既に角は無く、口も人間のそれに戻っている。
「ああ、真剣持ってたし、本人がやるっつってたんだし、別に任せて良いだろ」
「え、あれ本物だったんですか⁉」
「うん。手ェ切れるかと思ったよ」
からからと笑いながら種枚は手近な民家の屋根に上がり、肉塊怪異と交戦する少女を観察し始めた。

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視える世界を超えて エピソード2:鎌鼬 その④

種枚さんに指示されて、一人で通りを歩く。時間がまだ早いせいか、自動車や歩行者もまだ少なくて、人通りが完全に途切れた一瞬なんか、いやに不気味な空気が流れる。
彼女が言うことには、適当なタイミングを見計らって、人目につかなさそうな場所に入り込めば良いということだったけれど……。
そこでふと思い出し、足を止める。ちょうどその位置から横道が伸びていて、この道に入って少し歩くと、そこそこ大きな公園がある。まだ時間も早いし、あそこがちょうど良いんじゃないか。
そう決心して、すぐ足早に公園に向かった。

公園までは早歩きで行けば5分もかからない。すぐに到着して、更に人目を避けるように奥へ奥へと入っていく。
外縁に遊具が立ち並ぶ広場を通り抜け、整備された遊歩道を踏み越え、落葉樹や灌木で敷地外からは殆ど中の見えないエリアにまで入り込み、そこで立ち止まる。
種枚さんの言う通りなら、あの少年が現れる筈……。
その時、背後から突風が吹いてきて、堪らず倒れ込んでしまった。
落葉の積もった地面に咄嗟に両手をついたお陰で、完全な転倒とはならずに四つん這いになるような姿勢になったが、そこに人型の影が被る。誰かが自分を見下ろしているような形だ。
顔を上げると、種枚さんに見せてもらった写真に写っていたあの少年が、無表情で立っていた。