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タイムジャック5

「処刑…?あんたも時の能力者のはず…そんな物騒な術持ってるのか?」
「俺は時の支配者だ。やろうと思えばなんとでもなる。例えば…お前たちの時間を消す…とかな」
相手は相変わらず表情ひとつ変えない。まるで何人もそうやって手にかけて来たかのようだ。
「支配者…?随分大きく出たな」
「間違ってはいない、俺の能力は支配者のそれだ」
「能力…」
智也は自分の右手を見た。
「そうだ…ここでは能力こそが全てだ」
「なんでそう言い切れる…」
俺は拳を作る。
「簡単なことだ、俺がこのゲームの支配者なだけだ」
「は?何を言って…」
俺も智也も驚きを隠せなかった。
「ちょうどいい、冥土の土産にいくつか教えてやるよ」
相手は脅しのように掲げた左手を下ろし、戦意の無い様子を示してくる。
「聞いてやる、いいよな?智也」
「え?あぁうん、気にはなるからね、このゲームのこととか」
「このゲームは…全て俺と俺の親父によって企画されたものだ」
そう言って始まった彼の過去についての話は、俺らからしたら大して驚く内容ではない。能力者ならば多少なり心当たりのあるものだ。
「なるほど、能力者だから寂しい…その友達探しのためにこんなゲームを…ねぇ?」
「まったく迷惑な話だ…だから生き残りは50人なのか」
「そうだ、そしてゲーム形式にするのはもうひとつの目的がある。それが親父側の目的、優秀な能力者を選別して実験体を探してるんだ、生活の保証もモルモットとしての安定した衣食住ってだけだ」
「そんな…」
「ここに捕まった時点で俺たちはもう死ぬか、実験台にされるかの2択しかないってこと」
相手は無表情を貫きながら筋肉だけで諦めるように少し笑った。
「ふざけんな!なんでそんなこと!」
「だから言ったろ、処刑されるのを光栄に思えって。お前たちは支配者である俺の術をかわした栄誉のままに死ねる。中途半端な親父の実験の犠牲者にならなくて済む。これがどれだけ光栄なことか」
「はぁ」
俺は大きくため息をついた。今度は納得ではなく、すっかり呆れてしまったのだ。
「そういうのが、気に入らねぇんだよ!人の気持ちを勝手に決めんな!俺たちはそんなことこれっぽっちも望んでねぇ!そんなに実験台が嫌なら今ここで俺が殺してやるよ!」

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境界線 Ⅱ

 何故、生徒のいない三階を通ってはいけないのか。

 気になったので確かめることにした。
十中八九規則を遵守させるためだとは思うが、注意され行動を規制されたことに対する反抗心もあって、確認というよりもそういった目的の方が大きかった。

 時刻にして五時四十五分を回ったところ。四階から西階段を下りて、図書館前まで来た。
 怖くはなかった。強がりではない。本当に怖くなかった。それどころか楽しくなってきた。薄暗い廊下。橙色に輝く斜陽。通ってはいけない場所を通る背徳感。その中で廊下を一階分、ただ突っ切るだけだ。微少の高揚感以外に特筆すべき感情はなかった。
 歩いている途中、やることもないので惰性で教室内を覗く。
 案の定人はいない。教卓と幾つかの机と椅子が端に寄せられている空き教室と、特別支援学級の教室がおおよそ交互に並ぶ。特別支援学級の教室も普通学級より少し賑やかな印象があり、机が五つ程度であること以外に目立った差はなかった。
 各教室には空き教室以外はクラス名が書かれた札が掛かっている。特支1、空き、特支2,空き、ランチルーム、特支3,空き、特支4、特支5……順々に見送り、遂にあと空き教室一つを過ぎれば東階段というところまで歩いてきた。これはかつて特支六組だったところだ。
 特に面白いこともなかったかと思いながら、最後の空き教室の中を覗く。
 他の空き教室と同じく殺風景なものだったが、少し違う点があった。
 黒板の左端の方。黒い影がそこにあった。
 よくよく目を凝らしてみると、それが何なのかが分かった。

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タイムジャック3

0:00
そう画面に表示される瞬間
『始め!』
の掛け声よりも早く一斉に術の撃ち合いが始まる。
と言ってもそれがわかっていれば
かわすのは容易である。
何せ、ここに集まっているのは
<時>の能力者達。
術が直接的な攻撃では無い。
時を止める。
巻き戻す訳にはまだいかないので皆それを選ぶ。
あとはタイミングと術痕さえ見分けられれば十分に対処は可能だ(多分)
さぁあと1秒…
0:01を表示したモニターは
0:00に変化した。
放送のカフが入った音がする。
見た未来通りなら…
『始め』の合図よりも前に
術が起こる。
確か…
僕の右斜め40°前…それから…
景色が止まった。
その余波が起こる。
すかさずその波動の隙間に飛び込む。
横で同じ動きをする智也の姿。
「さすが、まずは第1関門突破かな」
「あぁ、お前もさすがだ」
術は回避できたようだ。
しかし気は抜けない。同じことができるやつはそれなりにいるはずだ。そいつが直接狙ってくる可能性もある。警戒心を解くな…
しかし予想に反してその関門クリアは多くない。
「あれ?おっかしいなぁ、確実に全員止められるように術のタイミングずらしたのに、なんで動いてるの?」
あいつが術の主か…
「まぁいいや、50人には達してなさそうだし、1人ずつ倒せば」
こいつ…狂ってる…
これが…【サバイバル】

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音が繋ぐ

「おはよう」
振り返ると君がいる。
おはよ、と返しつつスマホの画面を君に向ける。
「俺の好きなバンドじゃん!知ってるの?」
当たり前でしょ、すすめてきたのは君なんだから。
知ってるよ、と何もなかったように話すけど
つまりは、あの日の会話は忘れられている訳で。
少しだけ、ほんの少しだけ、寂しくなる。
「あぁ!ツアー情報出たんだよね!!!」
分かりやすく高揚する君を愛しく思う。
愛しい、なんて言うと好きな人みたいだけど
いやいや、彼のことは好きだけど、
なんか、そういうのじゃないんだよなあ。
「え、え、いつがいい?」
唐突な君の言葉にえっ、と言葉に詰まる。
一緒に行くの?と可愛げのない返しをする。
「え、行こうよ!」
君のそのありすぎる行動力が苦手という人もいると思うし、正直始めは僕もドン引きだったんだけど。
その行動力に、あの時の僕は救われたから。
溢れるワクワクを抑えるように
チケット、当たるといいけど
って口を尖らせてみた。
「神社通うわ!毎日!!!」
わけのわからない返しをしてきた君と
大好きなバンドのライブへ行って
それがきっかけで音楽にのめり込んで
僕ら2人がギターを持って、ステージに立つのは
もう少し先のお話。

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Trans Far-East Travelogue㉕〜野球大会決勝編〜

初回は双方とも三者凡退
二回表は4番の兄貴、5番の彼女さんと連続で出塁俺の彼女が打席に立つが守備に阻まれ併殺
俺のフェン直打で先制し、1人残塁のまま攻守交代
裏には元カノに初安打を許すも、彼女の「行くぞ」という叫びを聞き、2塁を見たら盗塁阻止に成功
その後は6回まで両者無得点で試合が進み、7回裏にまさかの外野エラーで逆転を許してしまう
兄貴の「打たせてやれ。俺達で抑える」という叫びに「頼むぞ」と返し、その後は得意の直球フォーク混合技で抑え、8回はチャンスを作るも無得点
裏は俺と彼女でバッテリーの位置を交代し、無失点
ベンチで準備する中、兄貴が「マッチ、俺達の巨人に来たんだから熱男しようぜ」と言い出し、皆頷く
彼女は「私、打つから見てて」と宣言し、フェン直放って逆転、続く俺のソロで3点差に突き放す
裏に抑えると最後に元カノが来る計算ので、彼女が「最後はガチンコ勝負するよ」と言い、俺は頷く
元カノには粘られたが、フォーク三振で優勝
巨人ファンならご存じ、原監督名物のグータッチで兄貴と喜びを表現する
元カノが近寄って来たが、俺は互いの健闘を称えてハッキリと復縁しない旨を告げ、彼女と抱擁する
いよいよ、報道機関の前でヒーローインタビューだ

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Trans Far-East Travelogue㉔〜野球大会決勝直前編〜

決勝で対戦する相手チームの選手2名が負傷して欠員を出してしまい、助っ人が合流するまで時間がかかる関係で、試合開始が少し遅れるとのことだ
そして、姿を見せた助っ人を見て高雄の男衆と彼女は驚き、俺は頭を抱える
何を隠そう、助っ人というのは松山の副長とその彼女、つまり元カノだったからだ
彼女が「貴方の彼女として、私は絶対に元カノ相手に負けられない。だから、私が先発する」と言うが俺は首を振り、「俺は君の彼氏だろう?だからこそ、君に1人で背負って欲しく無い。2人で、俺達のバッテリーで勝てばいい。だから、俺が先発で組んで、勝とうよ」と返すと彼女も頷いてくれた
兄貴は「幼き日の君を泣かせた、あの東北楽天の名投手みたいになるのか…カッコいいぞ。本当はあのショッキングな試合を見た後の君が元気を取り戻すキッカケになった、あの少年野球の試合みたいに俺が先発で君に女房役組んで貰いたかったけど、君にはいい女房役がいるからなぁ…」と少し寂しそうだ
「兄さん、この娘は女房『役』じゃないんだ。この世に1人しかいない俺の大切な女房なんだよ」
そう返すと、彼女は「お願いしやすよ、旦那…私が籍入れる相手はアンタしかいやしないんで」とイントネーションに訛りを残しながらも東京訛りを意識して言ってくれた
一方、元カノは松山の副長と台湾華語で話している
兄貴が「『元カレに一矢報いてやれよ。そして、より戻したいなら戻せばいい』と言ってるぞ」と通訳してくれた
「言ってくれんじゃねえか。絶対負けらんねえな」そう言うと、彼女も「負けとうないわ。絶対勝つで!」と言って燃えている
マウンドの準備が整った
さあ、プレイボール!

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ユーラシア大陸縦横断旅60

地下鉄で40分、思い出の駅に着いた
「「この駅舎、この改札口、懐かしいなぁ…俺(僕)たち、ここで東北の震災の影響で延びた卒園式以来5年ぶりの再会を果たしたんだ(よ)」」「君は震災の後、すぐ向こうの国に逃げ込んだんだよね?」「そうなんだよ。向こうではそもそも地震がないから親戚が不安になってしまうし、放射線の問題が云々で大人の話に振り回されて大変だったよ。父方の親戚がいる名古屋に行って安否確認を取り、その翌日にセントレアから飛び立ったんだ。安全が確認されて羽田空港に降り立った後、モノレールから東京タワーの先が斜めになったのを見て泣いたのは覚えてる。当時は幼稚園出たばかりの子供で俺達は何もできなかったけど、大人達が日本全体で頑張ってくれたから新幹線はやぶさも、スカイツリーもできたんだ。」「そうだね。僕はスカイツリーが完成する直前にイギリスに引っ越したから完成形は帰国してから見たんだ」同じ幼稚園で親友となり、震災と親の仕事で引き割かれたものの英国で再会し、友情を取り戻した男2人でしみじみとしていると「私って場違いみたいだね」と彼女が泣きそうになる
即座にそれを否定し、「そんなことないさ!ここは俺とコイツにとって、いや俺やコイツの家族にとっても大切な思い出の場所なんだ。だから、これから俺の家族になる君にも見ておいて貰いたかったんだ。」と俺が言うと、彼も一緒になって続きを言う「「ここで一緒になった後、また離れ離れになっても再会した時は今まで以上に仲良くなれる。ここはそんな場所なんだ。」」彼女が俺に抱き付き、「2人ともいつも通りだね」と幼馴染が呆れたように言うと「俺たちの幼少期と変わらんよ。友愛の精神で男同士仲良いか好きな異性と結ばれたのかの違いだけさ」と高らかに笑い返し、そのまま駅のコインロッカーから荷物を取り出し、ヒースローエクスプレスで空港に向かう
「君は3ター、彼女さんは僕と同じ2ターだね。今度は同窓会で会おうか」「そうだな。体には気をつけろよ。俺達兄弟の思い出が詰まった街は美しいから堪能して来い!チャリ専用の道に落ちるなよ」と言うと「チャリ専用の道?まさかあんな所に落っこったことあんの?酔っ払ってたの?」と笑われた
「そこかよ!次会う時もまた笑顔で、な」と言って握手し、「今度はオレンジ門で会おう」「そうしようか」と言ってお互いの道を進む