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厄祓い荒正し ep.1:でぃすがいず  その③

神様と並んで、すっかり廃村といった様子の集落跡地を駆け抜ける。
もう誰もいない個人商店の前を通り過ぎようとしたとき、その建物が弾けるように吹き飛んだ。咄嗟に半壊した民家の陰に飛び込んだけど、そこも爆散する。
「オォイオイ狙われてンぜェ? きっとさっき撃ってきたヤツだなァ」
神様は楽しそうに言いながらうごうごしている。こんな調子だけど私を庇うように立っているのには、まあ感謝の気持ちが無いわけでは無い。
「今の2発、位置を変えて撃ってきましたよね」
「だなァ。なかなか足が早いぜ。オマケにあの貫通力だ。…………ナァ我が神僕よ、ちょっとカッコイイやつ思い付いたンだけどよォ……やってみネ?」
「……何です?」
また近くの民家が弾け飛ぶ。あまり考えている余裕は無さそうだ。
「やりましょう」
「ヨシ来た」
神様が口と思われる顔の裂け目をニタリと歪め、一瞬全身を震わせてから液状化して地面に広がった。
「っ⁉ 神様⁉」
泥状の神様がうねうねと蠢く。どうやら生きてはいるらしい。そして神様の泥が、私の脚を伝って全身を包み込んだ。
(どォーおよコレェ? 神様の鎧だゼェ)
頭を包む泥の中で、神様の声が反響する。
「どろどろしてちょっと気持ち悪いです」
(フム……ソコはまあ、順番に改善していこーヤ)
泥の鎧が硬質化して、どろどろした不快感は無くなった。
(……しッかし我が神僕よ、オメー本ッ当に小柄だよなァ。身体が結構残った。マア、有効活用しようや)
「はい?」
足下にまだ残っていた泥溜まりが高速で伸び上がり、空中で何かを掴んだ。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 19.チョウフウ ⑩

わたし達が立っている場所のすぐ側の建物の屋上から、誰かがこちらを見ている。
その姿はお昼頃に出会ったあの穂積のようにも見えた。
「…どうしたんだ?」
わたしが上を見上げている事に気付いた師郎がそう尋ねる。
わたしはえっ、と驚いて彼の方を見る。
「あ、ちょっと見覚えのある人が近くの建物の上に…」
わたしがそう言いながらさっき見ていた場所へ目を戻したが、そこにはもう誰もいなかった。
「あれ?」
さっきまでいたのに…とわたしは呟く。
「誰もいなくね?」
「見間違いじゃねーの?」
師郎と耀平も上を見ながらそうこぼす。
「でも確かにいたんだよ」
お昼頃に出会ったあの子が…とわたしは言いかけたが、途中でうふふふふふという高笑いにかき消された。
「ようやく見つけたわ」
声がする方を見ると、ヴァンピレスが白い鞭を持って道の真ん中に立っている。
「さぁ、わらわの餌食になりなさい…!」
彼女がそう言った時、ンな事させるか‼とわたし達の後ろから聞きなじみのある声が聞こえた。
「ネクロ‼」
黒い鎌を持って肩で息をしているネクロマンサーに対し、耀平は声を上げる。
「早く逃げろ皆‼」
ここはボクが足止めする!とネクロマンサーはわたし達の前に躍り出た。
耀平は分かったとうなずくと、行くぞとわたし達に行って走り出した。

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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その③

種枚・鎌鼬の二人は、この後も夜の町を高速で駆け抜けながら、目についた怪異たちを片端から狩り倒して回っていた。
種枚の駆ける速度は、人間はおろかあらゆる生物が発揮し得る移動速度を凌駕するほどのものであり、尚も加速を続ける彼女に、鎌鼬は異能を発動し続けてようやく食らいついているという有様だった。
「ちょ、ちょっと! マジで待ってください!」
道端に立っていた不気味な女の幽霊を真っ二つにした種枚に、鎌鼬はようやく声をかけた。
「ァン? どうした息子よ、もうバテたのかイ?」
「いや、当然でしょ……! 俺、〈鎌鼬第一陣〉発動中は全力疾走してるようなものなんスよ? むしろよく30分も保ってますよ……!」
〈鎌鼬第一陣〉とは、鎌鼬少年が種枚の手によって間接的に怪異を摂取したことで得た人外の異能である。
そもそも「鎌鼬」とは本来、3体1組で行動する怪異存在である。風のように駆ける3体の妖獣の第1体が対象を突き飛ばし、第2体が対象を切り裂き、第3体が薬を塗って止血することで、出血を伴わない切り傷を与えるというものなのだ。
鎌鼬の異能はこの第1体の力に由来し、風と化して空間内を自由に、高速で移動し、また接触した人間や動物、怪異などに接触を感じさせること無く転倒させるというものである。
この異能は体力を発動の代償としており、その消耗速度は、同じ距離を全力疾走しているのに等しい。
時おり立ち止まりながらとはいえ、異能の連続使用により、かなりの勢いで体力を消耗し続けていた鎌鼬が音を上げるのは、致し方ないことと言えた。