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変身

目が覚めると自動販売機になっていた。
虫ではなく自動販売機であった。
あ、月が綺麗だな、そう気付くように自分はその現実に気付いた。いやこれは現実なのだろうか。そう考えた自分は正常であろう。
トラックが派手な音を立てて通り過ぎた。舞い上がった埃を避けることが出来ない。あぁ、自分は本当に自動販売機になったのかもしれない、と思った。
清楚系の女性が近付いて来て、自分の臍のやや左上に触れた。不思議とくすぐったくはなかった。がたんと音が足の中で響いた。
女性は屈むと、次にはお茶のペットボトルを手にして立ち上がり、まるで道端の自動販売機でお茶を買っただけのように去った。
否。
本当に自分は自動販売機であることを認めねばならない。なんとも情けない気持ちだ。
目が覚めると虫になっていた少年はその後どうなっていたか。
自動販売機は節電モードである。飲み物を照らす明かりは控えめであった。
これが自分らしい。こんなこともあるらしい。

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回想

「…疲れるなぁもう…何で、放課後使わなきゃいけないの?」

中学に入学したばかりの頃、私には好きな男子がいた。

「まぁ、あの人も来るよね」

部活を早退して自分の教室に帰ると、やはりあの人はいた。

「帰ろっか」

1時間ほどクラス会議をして、ふとあの人は私に向かって言うのだった。

「…うん!」

その日は晴天だった。夕日が沈みかけた空、風の強い帰り道。
私は一言話しかけてみた。

「明日…もさ、頑張らなきゃね」

その言葉をかき消すように、強風が私たちを襲った。

「…あぁ、でも、俺がこんなに重要な役目、していいのかな」

重要な役目を担うあの人は、不安がるのだった。

「…あなたなら、きっとできる。自分を信じて」

私が言えたのはこれだけだった。

初めて2人きりで帰れたのに、その後恋は発展しなかった。

それは、私の宿命だったのかもしれない…

今になって思っても、後悔が襲うだけだから…
忘れてしまおうか、こんな苦い思い出

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七転八倒九躓十起

「追いかけるってのはそう云うことだ」
立たねば、起きねば、走らねば。

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川柳

君の束ねた
黒髪に善く映える
白い其の蝶
生きていますか?

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無題

窓の外にキリンの首があった。
幾ら見上げても頭は見えない。

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無題

クラスの喧騒のなかに静寂をみた。
視線の先には君が寝ていた。

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ユーチューバー

疲れた
毎日毎日工場で肉体労働単純労働
クレーンの免許もフォークリフトの資格も役に立ってない
もう嫌だ
なんか楽してもうかる仕事はないか
ユーチューバーなんてどうだろう
俺はよく声がいいとほめられる
DJなんかやったらどうか
CDプレイヤーさえ持ってない
著作権切れの小説の朗読なんかは
よくあるな
おおそうだ
俺自分で小説書いてんじゃん
しかもちょうどいい長さの
自分の小説朗読すりゃいいじゃん
やった
これで俺も大金持ちだ
もう寝よう

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大切だから。

「大丈夫?」って、声をかけたいけど 
大丈夫じゃない事知ってるから 気安く言えなくて
傍にいたいけど 
君が望んでないと思うと
怖くて ただ見ていることしかできなくて

綺麗な言葉並べても 現実にできなければ
キレイゴトで片づけられてしまうから
叶えるようにって、 
心から願って、
君に伝えてみるよ

届くといいな・・・。

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ひねくれた心

私の心は
ひねくれている
周りの子達を見ていると、
恋ってなんだかわからなくなる
彼氏の話をしているこを見ると
あなたが好きなのは今話してる彼のこと?
それとも恋を語ってる自分?
って聞きたくなる
こんな私の
ひねくれた心
自分でも嫌になる

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beautiful days

星を見る者は     泥の中
弱き者見て笑うは者は 城の中
愚かな者は      空の下  

君は一体どこにいる?

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空仰ぎ。

太陽が
月に
負けたら

夜が来た

太陽が
月に
勝ったら

朝が来た

太陽と
月の
静かな戦い

美しい戦い

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-季節 Ⅴ-

「何かあったんですか?...ここで」
唐突に聞いてみた。
「えっ?!...いや別に....その.......えっと...」
完全に焦っている。絶対何かあったんだ。

フッと、彼が笑った。その顔には、気のせいかもしれないけど''切なさ''があった。

「鋭いね、白帆さん」
苦笑いする桜尾さん。やっぱり、何かあったんだ。
「まだ君のことあまり知らないし、君も僕のことあまり知らないだろう?また、そのうち話すよ」
さりげなく拒絶された。
聞いてはいけないことだったのか。
「わかりました。そうですね」

彼は安心したように笑い、奥へ入っていった。

改めて店内を見渡してみる。
骨董 というよりは 雑貨 という感じのものがたくさん置いてある。

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机の片付けをしていたら……

人の心とはもろいもの。
「心の裏側には
情熱を失ったあとの
傷あとが隠されている」
って書いた紙を見つけた。

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無題

「先輩、魅力ってなんですかね〜」

「そうだなぁ、ほかのやつはどうか知らんけど、
俺にとっての魅力ってのはたぶんお前の全部、
かな。」

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無題

君の微笑みは何時だって
噎せ返る程の偽りに満ちて
だけど そんなこと構いやしなかった
昨日の夜
真っ白いネオンに曝されるまで

昨日の夜
飽きるほど繰り返した待ち合わせの
慣習通り君が遅刻する1時間の間に
僕の目は醒めてしまった

解れた夢の中
最後の角から駆け出す君の荒い呼気
その態とらしさに急に嫌気が差してしまって
発作的に薬指の枷を投げ捨てた

側溝に落ちていったシルバーを
驚いたふりで目で追って
それから たっぷりの間の後
くしゃりと歪んだ君の顔は
息を呑むほど素晴らしかったけれど
やっぱり それは本物には程遠かった

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-季節 Ⅳ-

「いらっしゃい.....あれ?」
入った瞬間店員から声がかかった。
「白帆さんですよね?!」
あれぇ???
この声、この顔...
「桜尾です。朝会った」
やっ...やっぱり...。
何で桜尾さんが??
もしかしてここ....
「ここ、僕の店なんです。開店したのは昨日なんですけど、白帆さんがお客さん第1号です」
「え...本当ですか?」
「はい。この店開くためにこっちに越してきたんです」
店を開くため?こんな人気のない田舎に??
普通、こんなところに店開くだろうか...。
「昔から骨董品が好きでさ、色々買ってたんだ。家にためてたんだけどかなりの量になっちゃって、兄弟が迷惑がってさ。それでどうせ売るなら自分で店開こうかなって」
いきなり馴れ馴れしく喋りかけてきた...。
「あっ、ごめんね。いきなり馴れ馴れしくしちゃって。嫌だよね」
この人、エスパーか?
「いえ、大丈夫です。ところでどうしてこんな田舎にお店を?もっと都会にすればよかったのに」
彼は少し考えこむような顔をした後、
「特に理由はないよ?ただ何となくここが好きだから」
「へぇ。そうなんですか」
「じゃ、ゆっくりしていってね」

''ただ何となくここが好きだから''

そういう彼はどこか遠くを見据えていた。

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勇者

「君は勇者さ。」
神様は言った。
僕は剣の代わりにペンを持って、
問題用紙へ飛び込んでいく。

火を吐く古典に、呪文を唱える化学式。
僕は剣一本で戦う。

すべての問題を解き終えた後
チャイムが鳴った。

僕の机には大量のよだれと真っ白な問題用紙だけが、
置いてあった・・・。

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-季節 Ⅲ-

(つまらない...)
今年、大学に入学した。
高校とは違って好きなことが
好きなように勉強できると思って
楽しみにしていた。
でも...
私には「好きなこと」がなかった。
今まで、ただ何となく
やらなくてはならなかったから
勉強していた。
何となくで今まで過ごしてきた。
それに今更気づいた。

もう何も考えず、とぼとぼと
家路を辿っていた。

あと一つ交差点をまがれば家、というところまできた。
何やらやけに目立つ
一軒家が目に入った。

『骨董屋』

思わず吹き出してしまった。
何の捻りもない、単純な店名だ。

私は引き寄せられるようにその店に入っていった。

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忘れたくない

いつも何故か、私を見てくれない

いつも何故か、私にだけ冷たい

いつも何故か、私に見て見ぬ振りをする

そんな君が、何故か好き
諦めた恋なのに、忘れられない、
忘れたくない

今私がいるこの場所と
今君がいるその場所は
同じ空の下で繋がってるんだよね

そう思ったら、また頑張れる

忘れたくない、一生の片思い

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悪魔のささやき

ふたつの鍵は夜をさいて
そっと開かれた黒い緞帳
くぐもった音を立てるオルゴールは
箱のなかで永遠に踊り続ける

かつては天使だったきみを
舞台へと手招いたのは このぼくだね
きみが正しさを知りつくしているなら
ぼくは嘘の吐き方だけ教えてあげる

滑り落ちた桜色の着物は
後悔のかたちをなして足元に散る
もう二度と咲けやしないのに
どうしてこんなにも美しいんだろう