前からみたら、かわいいあなた
横からみたら、凛々しいあなた
おもては好きよ、うらはどうかな
知りたくも、拒む気持ちもあるから
できれば見せてくれないかな
無垢に無意識に...
やっとわかった
この舞台にはアクトはただ一人
家族も友達も彼氏も先輩も先生も
この舞台には立ちゃしない
この人生という名の舞台には
けっきょくあたしはひとり
ひとりぼっちなんだ
舞台の最初から最後まで
ひとりぼっちで立っているんだ
欠席した日に席替えがあったみたいでわたしは大山椒魚の隣になっていた。窓際の左側の席がわたし、右側が大山椒魚。
大山椒魚は無口だけど頭がよかった。一年生のときから知ってたけど何となくずっとばかだと思っていた。でも違くてテストは全教科百点だった。
終業式の日、思い切って、隣に首を伸ばし、「とーだい、ねらってんの?」ときいてみた。大山椒魚は、わたしをちらっと見てから目をそらし、無言でうなずいた。身体から、透明な液体が出ていた。いい匂いだった。わたしは大山椒魚の背中に手を置いた。ぬるぬるしてるけど嫌じゃなかった。背中をなでた。さらにぬるぬるしてきた。気持ちよかった。
わたしは夢中で身体じゅうをなでまわしていた。いい匂いに包まれて、頭がぼおっとなった。いつの間にか、わたしたち以外誰もいなくなっていた。わたしは大山椒魚の背中に抱きついて顔をうずめた。陽が傾くまで、そうしていた。
色が飛ぶ
記憶が飛んで 消えていく
夏の陽の濃厚な香りが
アスファルトを漂白して漂っていた
じわりと薄く汗は滲んで
強烈なエネルギーを感じて
頭が沸騰しそうになったから
意識を微かに飛ばしつつ
夏鳥のような君を思い出していた
reflect reflect 記憶も何もかも
reflect reflect 白昼夢に襲われる
夏鳥のような君は
季節限定で現れる
名前を失くしたREFLECTORが
君の笑顔すら奪っていった 真夏に
あぁ
眩みそう
真夏に陽光 全反射
fly fly 全てが飛んでいく
誕生日何が欲しい? と聞くと君は微笑んでこう言った。
紫陽花のブローチが欲しいな
だから多分、あれが一緒に祝った最後の誕生日。
君が雨に打たれながら踊りたくなる傘をあげるよ。
どしたの、急に。
カッコいいかなーと思って。
微妙。
えッまじかよ。
雨ってヤじゃない?
じめじめーじめじめー。
なにしてんの。
じめじめの舞。
は。超つまんな。
えぇッそんなぁ〜。
将来は鎌倉に住もうか。
えッ。
ちょっと勝手に止まらないでよ、肩濡れるから。
あ、ごめん。
ん。
何?
手ぇ冷たい。
かしこまりました、お嬢様。
「嘘なわけねーじゃん」
ヴァレットは言い捨てました
「なぁ、お前さ……」言いかけて、一瞬ユーリの視線に正面から対峙すると、瞬きして舌打ちして、馬乗りで掴んでいたユーリの襟から乱暴に手を離して立ち上がりました
足早に去っていくヴァレットの背は、すぐに人混みに紛れて消えていったのでした
その夜のことです
ヴァレットが、そのまま姿を消してしまったと、ユーリは知ることになるのでした
月が、不気味に、不吉に、黒い空に揺らめいていました
まるで、洋館を押し潰そうとしているかのように
全部夢だ。他の誰かの夢を私は生きていると思うことにしよう。ねえ、君はだあれ? 男なの女なの、大人なの子供なの、それとも馬なの、なんでもいいから君の姿を見せて。君の夢の中の女の子に少しだけ酸素を分けてよ。
きみが二度と年をとらないことを
綺麗なことだと思ってしまうぼくは
恋人失格なんだろう
「わたしが幸せなとき、あなたは幸せそうな顔をするね」
「けれどわたしが不幸せなときは、不幸せにならないでね」
「きっとずっと楽しく居てね」
「わたしがいなくなっても笑っていてね」
そんな都合のいい話があるかよ、ってぼくは泣く
控えめに言って天使なその寝顔に
思わず笑いかけながら
あなたは女子高生、学校の水泳大会に向け、市民プールでこっそり練習することにする。あなたはおとなしいが負けず嫌いで、かつ、努力しているのをひとに見られたくないタイプ。
入念に準備運動をし、水に静かに入る。息を整え、背泳ぎを始めようとする。すると、監視員が笛を鳴らす。
「ちょっと君!」
自分のことのようである。あなたは怪訝な表情で監視員を見返す。
「今日は背泳ぎ禁止デー‼︎」
いつものあなたなら、何それ、と思いながらも従うのだが、今朝お母さんとけんかしてむしゃくしゃしていたのと、夏の解放感から、無視して背泳ぎを再開する。ターンしようとしたところで、あなたは何かに引きずり込まれる。
意識が戻り、半身を起こすと、ひんやりとした、岩の上にいる。暗闇に目が慣れると、奥に何かがいるのがわかる。
「おはよう」
「……ここは?」
「わたしの別荘だ」
「あなたは?」
「わたしは大山椒魚だ」
「ここから出たいんですけど」
「無理だ。出口はわたしがふさいでいる」
「出して下さい」
「無理だ」
「どうして?」
「お前は若くて美しく、健康だからだ。手元に置いておきたい」
あなたは立ち上がり、大山椒魚をどかそうと試みるが、びくともしない。
一か月が過ぎた。あなたの命は終わりに近づいている。
「怒っているか?」
大山椒魚がきいた。
「……怒ってなんかいない……。怒りを向けたら……、自分との関係性が強くなり、さらなる怒りにつながる……。あなたとわたしに関係はない」
あなたはこときれる。大山椒魚が、さめざめと泣く。
山道。草いきれ。通勤途中だというのに、好奇心に駆られ、変な路地に入ってしまった。都会だと思っていたが、ちょっと道を外れると、ジャングルのような自然が広がっている。わたしの田舎よりひどい。手入れする地元民もいなければ行政の手も入らない放置された地域。子どものころ読んだ近未来の、SFの世界。
子どものころ俺は、道草したことなどなかった。知らない所、知らないことが怖かったからだ。俺は、成長が遅いのだろう。ばかなのかもしれない。いや、ばかなのだ。
完全に迷ってしまった。つまり完全に遅刻だ。
携帯は、さすがに通じた。遅刻します、と言うつもりが、休みます、と言ってしまう。
引き返さず歩き続ける。道幅が、狭くなった。植生が変化している。川が流れている。裸足になり、川に入る。いい気分だ。川床に横になる。
気がつくと俺は、大山椒魚になっている。だからもう戻らない。
なんとなく窓を開けてみた
湿っぽい空気に夏のにおい
あーまたこの季節がやってきた
プールあがりの君の湿った髪
かおるシャンプーのにおい
あーまたこの季節がやってきた