"問題!「蕣」はなんて読むでしょうか!"
"あさがお!!!"
君は笑って得意げにそう答えた。
"なんだ、知ってたのか〜笑 何で知ってたの?"
"だってあなたみたいだもん"
君は僕の問いにそう答えた。
"どういう意味?"
"ひーみーつっ!笑 でもそのうちきっとわかるよ"
"ほんとかなあ?"
"そのときは答え合わせでもしようよ"
その日の会話が忘れなれなくて、僕はその答えをずっと考え続けた。
"ねえ、あの答えは何?"
"あさがお、君も私も好きな花。あさがお、って「朝顔」とも書くじゃない?それは「私」で「蕣」は「あなた」なの。それが答えだよ。"
君はそう答えた。
ーーー 僕はその答えの意味に合った存在になれてるのかな。
そんなこと言えないな、と思った僕はそれを隠して、あさがおが咲く道を君と一緒に歩いた。
僕が人間である意味
僕は生まれる動物を間違えたのかもしれない
僕は生まれる場所を間違えたのかもしれない
僕は生まれるべきでなかったのかもしれない
もしあのときくっついた精子が
僕でなかったら
怖いよ
あめもようの金曜日、クルマを駆って
ワイパーが往っては戻るのを眺めてる
色々な光が、回転しながら屈折しては
汗ばんだ肌をゆっくりと浸していくよ
「というわけで。これ以上この話については言及しないでくださいね。」
一瞬の隙をつかれて、幕を下ろされた。
サミットが隠したがっていること。隠さなければならないことがあるのだとしたら、それは一大事だろう。
しかし、それと人間送りがどう関わっているのかはまだわからない。詮索しすぎると、本当に首がとびそうである。それが、たとえ王の娘だとしても。
「サミットが関わっているということは漏らしてもいいの?」
探るように、恐る恐る聞く。これでチャールズの首がとんだなんて、人聞きの悪いことは言われたくない。
「だめですよ。」
「……今、私に漏らしたよね?」
「でも、お嬢さまは漏らさないでしょう?」
連帯責任に持ち込まれた。
これでは小賢しいなど可愛いげがある。抜け目なくて狡猾なのだと、瑛瑠は思わずにいられなかった。
君の頭蓋骨を
抱きしめて
君の肋骨に
小鳥を閉じこめて
君の蝶形骨に
口づけをして
何度も何度も何度も
解剖してあげましょう
君だけに
形がなくて
ふわふわしてて
夢の中に、秘めた想い
現実と繋げない
繋げてはいけない
記憶の中だけでふくらむ思い出
なーんて。
半径2mの中にいた君に
手を伸ばす勇気がなかった私に
理由をつけた
あの頃を思い出した
「友達100人できるかな」
まるで目標かのように言われてきたんだ
数さえ多ければ良いのかと
学校なんてクラスメイトなんて
括らなければ大人は把握が出来ないなんて
しんどいね、しんどいね、そんなの、
しんどいね、しんどいね、君もなの?
しんどいね、しんどいね、私もだよ
しんどいね、しんどいね、ああ、尊いね
君は今 どこにいるの?
きっと 雲の向こう 見守ってくれていると信じて
雨が降るたびに思い出す 泣いていたあの日の君
この雨も もしかしたら 君の涙だったりするのかな
君との過去を見つめ返すたび
何度も何度も泣いた
何回も忘れようとした
それでもまだ君の側にいたい
これまでもこれからも愛してる
この世に永遠なんて無い
それでも僕は
いつまでも君といたかったんだ
なのにどうして?
僕の今に目を向けるたび
涙が止まらないんだ
世界が終わる時がきても
変わらずどんな君も愛してる
何があったとしても君だけを
「サミットの存在をちらつかせて質問をかわすなんて、卑怯じゃない?」
「でないと、私の首がとびますからね。物理的に。」
少しとがった声で追及するが、チャールズは慣れたものだ。
「時が来れば言うと申し上げているじゃないですか。」
「本当にそんな時が来るの?」
冷めた目で見ると、
「来ない方が望ましいのですが。」
と、陰を落として言う。それがあまりにも思い詰めているようにも見えて、瑛瑠は次に続く言葉を失った。
瑛瑠の目も真剣になる。
「他の西洋妖怪も こちらに送り込まれていると前に言いましたよね。それには、付き人もついてきています。ですから私だけ、お嬢さまに口を割るわけにはいかないのです。
お嬢さまは先程、何を隠しているのかとお尋ねになりましたね。察しがよくて何よりです、推薦が通ったはずですね。」
推薦とは。
しかし、つけ入る隙もないチャールズの言葉によって霧散した。
「後ろには政府がいます。もっというのならサミット。
賢いお嬢さまなら、これが何を意味するのかわかりますね?」
サミットとは、魔界における各種の王達の集まり。絶対的権力者達。
もちろん、そのうちのひとりには、瑛瑠もといパプリエールの父もいる。
逆らってはいけない。干渉してはいけない。
「黙って従っておけと、そういうことなのね。」
規模の大きさに寒気が走る。