少女は少し残念そうにした。しかしすぐに頷いて、またね,と言った。少年はちょっとだけ目を丸くし、またねと返した。
パプリ,と後ろから声がかけられる。
「ママ!」
「さっきの子はお友だち?」
少女はにっこりする。
「うん!エルーナっていうんだって!」
母の表情が少し変わった。
「そう……あの子も……」
拝啓、お元気ですか。そちらでの生活はいかがでしょうか。あと何年後かはわかりませんが、必ず、そちらに伺います。俺がここから旅立てば。
君は知っているか
夏の日差しの下で
静かに歩みを止めた
1人の老婆の姿を
君は知っているか
大きく息を吸って
それをはくことも忘れそうな
美しい道端の花を
君は知っているか
君が嘆いた汗の粒は
君が手にする文明が
引き出したことを
君は知っているか
僕は知らない
アイツがあんなになるまで
思い詰めていたなんて
君は知っているか
知らないだろうな
世界なんて
知らないことだらけだ
今ここで決意表明を
願ってもない大チャンスの襲来に
僕の真上の太陽はドキドキしすぎてアツアツだ
麦わら帽子の背中に虫あみ背負って行進を
ぼくに続けと言わんばかりに凛々しく眉を寄せるから、しょうがないなあ先頭は譲ろう
だから今ここで決意表明を
これから始まるワクワクの正体を僕らは追いかけ続けるのだ
かぶと虫のように捕まえたい
すいかのように食べちゃいたい
時には寝過ごしてラジオ体操行けなかったりアイスを落っことしてどろどろにしてしまったりするけれど
今ここで決意表明を!
始まりを告げるのは太陽でも大人のひとでもない
僕らが追いかけるすべてが最高にキラキラなときなのだ
こんなアンケートがあるとする
「自分は嫌いですか」
この問いがあれば、私は必ず〔はい〕を選ぶ
みんなはどう?
「本心で友達と話せますか」
この問いがあれば、私は必ず〔いいえ〕を選ぶ
みんなはどう?
自分の本心を表現できれば
自分を好きになれますか
私はこのアンケートに問いたい
君のお陰で人生が180°変わったよ
へえ じゃあ今は後ろ向きに生きてるんだ
.........。
同年代の子どもと話すのは、ほぼ初めて。まわりに同じくらいの年の子どもはいなかったから。
「あなたのお兄さんも?」
「僕のは姉ちゃんだけど。」
横の扉の前に立つ。そこには、ヴァンパイアの文字が見てとれる。
「あなたは、ヴァンパイアなの?」
緊張してしまって言葉が出ない。
「どうしてここに来たの?」
今度は少年が、目の前の扉を見つめたまま尋ねてきた。透き通った声だった。
「お兄ちゃんに……」
会いに来た,が繋がらなかった。会えないことは知っていたから、途中で言うのを止めてしまったのだ。
「僕も姉ちゃんに会いに来たんだ。」
ここで少女は悟った。あぁ、この子も同じだ,と。この表情は、見たことがある。
窓に映った自分の表情にそっくりだった。
「パプリ、おんなじくらいの子と初めてお話しした。」
少年の方を向くと、彼も同じように少女と向かい合った。
「僕も。……パプリっていうの?」
同意と共に質問も返ってきた。名前のこと。
「うん!パプリエールっていうの。パプリでいいよ、みんなそう呼ぶから。
あなたのお名前は?」
「僕はエルーナ。……そろそろ僕行かなきゃ。」
羽振りよく傷つけるその身体
炙りだしたら
一体どれだけの傷が浮かび上がるのかな
怖いから
あんまり火のそばには寄らないでよ
陽の光も届かない真夏の駐輪場で
僕は君と向かい合えない
僕らは「良い子」じゃない
僕も君もただの偽善者
一人だけ聖人ヅラするなよ
おまえだって 僕の同類
そうだろ
おまえの口は誰かの自尊心を殺せるし
おまえの手は誰かの耳を引きちぎることができる
おまえの目は誰かがうずくまっていても無視できるし
おまえの足は誰かの聖域を土足で踏みにじれる
俺だってそうだよ
毎日誰かを傷つけてないか
怯えてるんだよ
なのにおまえは
自分だけはマザーテレサだとでも思ってるのかよ
鏡を見ろ
恥を知れ
自分だけ逃げるんじゃねえ
僕らは聖人なんかじゃねぇ
仮面の裏でナイフを握って生きてる
それでも
それでも
ナイフを鞘にしまうぐらい
できるだろ
僕らは誰かと笑いあうことだってできる
一緒に写真を撮ることだってできる
一緒に涙を流すことだってできる
傷ついた誰かに手を差し伸べることだって
キスしあうことだって
抱きしめることだって
できるだろうが
だから
だから
てめぇが握ってるそいつを
鞘にしまえ
そしたら
また
一緒に卓球でもしようよ
昨日切りすぎた前髪が辛い
昨日切りすぎた深爪がしみる
黒板に記されてる六波羅探題よりとなりの因数分解
夢から覚めた時にはもう何も残ってない
顔をしかめてくれる人もいない 私にはもう何もない