人並みに怖がり
人並みに希望を持ち
人並みより少し多いいやらしさがあって
人並みと思いたい羞恥心もおまけに持っている
こんなしょうもない自分でも
自分だと受け入れて進んでくしかないよな、
彼こそが、少女パプリエールが兄と呼ぶ人物。
「パプリ……!?なぜこんなところに!?
っ……!」
お兄ちゃん、そう呼ばれた彼は、痛みに顔を歪ませた。そして、ただでさえ白いその顔を、パプリエールの横にいる少年エルーナを見て、軽く青くした。
「君はっ……!」
中央では再び大きな音がする。
彼はばっと振り返り、ある女性の名を呼んだ。
「僕の姉ちゃんの名前だ……。」
この爆音の中で、常識的に届くはずのない声は、確かに届いたらしい。彼よりはだいぶ身長の低い、可愛らしい女性。パプリエールより10個ほど年上でありそうだが、女性というよりは少女という方が似合うような彼女は、肩で息をしながら、飛んできた。物理的に飛んできたのだ、黒翼を操って。
「姉ちゃん……。」
彼女は、エルーナと同じ真っ黒な瞳を、これでもかというほど丸くしている。エルーナとは似ても似つかない金の髪は乱れていた。
「なんで……。」
彼女が問いかけるのは白髪の彼。彼は、首を振ることで応える。
「わかりません。とりあえず、ふたりのことを神殿から出してほしい。」
私の隣で哀しげに微笑むキミ。
まるで全て悟ったかのように。
運命を知ってしまったかのように。
キミの隣で泪を流す私。
まるで全て無くしたかのように。
終わりを知ってしまったかのように。
蝉たちが叫ぶ夏の夜。
空に大きく見えた月。
ストレスが溜まってきて、
どうしようもなく哀しくなって、
どこか吐き出せる場所を一生懸命探して、
今日もまた、俺は此処にやってくる。
此処なら、なんか落ち着くから。
此処に居てもいい、って思えるから。
キミの憂鬱も
アイツの哀しみも
あなたの喜びも
あんたの楽しみも
あの人の怒りも
全部、僕を作っている。
どれも
なかったことには
できないよ、
キミの本音を見せてよ、
語らなくていいから。
…なんて
もう少し近づこうと、どちらともなく移動する。ふたりの身長では、見渡せる景色に限りがある。
「今、"しののめ"って言ってたよね。てきの名前かな……。」
少年が呟いた。
少女は少し驚く。
「え、てきなの?」
今度驚くのは少年の番だ。
「だって、しんでんをはかいすることは悪いことだ。わるいことをするのは悪いやつだ。」
しかし、少女にはどうしてもそうは思えなかった。
ひときわ甲高い声がする。聞いたことのないこの響きは、胸が締め付けられるほど悲しく、痛く突き刺さる。
敵という言葉で表すのにはどうしても違和感が生じる。
何か言わないと、そう思って口を開きかけたとき。文字では表しがたい、鈍い大きな音がした。それも、ふたりのすぐそばで。
それは、横の壁に何かが叩きつけられた音だ。
そのままどさっと床に落ちたそれは、
「お兄ちゃん!?」
白髪で碧眼の彼。
だけどこの道に入った早々にあるひとつの誤解を受けた。
追い立てられるように迎えたのは戦いの日々。
寝れない危険な夜。
呪い。
対してこちらの戦う武器は信仰心、
目にはみえないものたちの気配を感じる能力、
声を聞く力。
光の仲間。
絶対に負けない。
川まで行けば、渡し舟の人に変わらない普遍の真理を渡された。
見つめるのは自分の闇だと告げられる。
やっぱりな、いつだってそうなんだ。
真理の道はいつもひとつ。
闇そのものを単に苦しみとしてとらえることが違うなら闇そのものを光に変えてみればいい。
僕は太陽の照らし続ける日に僕を呼んだ。
たくさんの目には見えない仲間たちもやってくる。
心を合わせ、
光の仲間がひとつになる場所で僕らは魔軍と戦う。
僕は見つけた自分の中の闇を振り払いかけられた呪いを解いた。
闇の魔軍たちへの神の愛の風が一陣吹いた。
積んでいる光の量が半端なく違うんだよ。
白い光の道を絶えず上へと行く遠い場所にいた君を見上げる。
追いつきたいけど、追いつけない。
一番近くにあるようで一番遠くにある場所に行くまでどんなカンテラを照らしていこう。
どこにも繋がらない道でカンテラを探す。いくつか見つけた。だけど、どれも火が長く続かなかった。
自分には何もないのか。
そのうち、なにかを託そうと手が伸ばされた。
はじめはその手を掴んだ。
なのになにかが違うという思いが進もうとする心にぶつかって、どうしてもどうしてもいつのまにかその手を離してしまう。
本当は進みたいはずなのに、離してしまう。
僕はその僕じゃないんだ。
見えるはずのない僕が僕に見えるのだとしても、
僕に感じるのだとしても。
君は僕を離れたところで僕を見つめていた。
僕は動けない。
これでいいのか思いがずっと心の奥に居座って動かない。
忘れないで。
あの頃、言われた言葉。
それでも、もう君の手を掴むことができないと
僕には僕の道が別にあるよと一つだけいつも見つける変わりないどこにも繋がらない道を走り、
カンテラを探して歩く。
だけど見つからない。
気づけばまた元のスタート地点に戻っていた。
手を伸ばしていた君はもういない気がした。
何も見えなくなりそうだった。
理想を見上げた。
ずっとかがげていた理想はいつのまにかかすみ始めていた。
理想が消えないようにじっと見つめこれならどうだと描いたのは、魔術の道。
この道を行くんだ。
決意を決めた。
カンテラが現れた。
進む道はこっちだ。僕はその持ち手を持った。
毛嫌いしていたマフラーの音を
あなたのせいで聞きたくなった
どこにいてもわかるように
大きな音で響かせて
今すぐに行くから
そこで待ってて
(君はあの頃の君のままだから今の僕も愛せるよね)
僕はそのことを知っている。
だから時々地上の僕が憎らしくなった時は少しは昔の僕らしくならないかなと少しは思ってしまう。
でも計画してた通りにはいかずに強くなりすぎてしまったあの性格は、前世が呆れるほど弱すぎたためだ。
だから今度は強くと僕が天上界にいるときに決めてそういう風に育つように仕向けた。
地上にいることになってる僕が自分自身で決めたことなんだ。
諸刃の剣のように見えることもあるけど、
ヒーローになれるように、たくさんの人を幸せにできるようにと決めてきたあの強さに僕はかけているつもりだ。
君はそうこうしているうちに、部屋の片付けを終えていた。
(この世で会うはずの約束が果たされることがありますように)
ついさっき僕が語った言葉を気にしてからか、部屋の中央にあるイエスが父と呼んだ神の像の身前で静かに頭をたれる。
どうして会う約束を覚えてないのにそんな言葉が出てくるか僕は不思議だった。
(私も会いたい)
君の思いが届く。
君がかつて聖母マリアに祈っていた背中がだぶって僕は目を閉じた。
僕らは何百年も前のあの朝の続きを今も生きているんだ。
ーーどうか神様。