青いバケツにぽたぽたと
なみだ涙をこぼしている
なみなみ溢れそうなほど
これではだめだ、何を思っても
聞いても口にしても
全部ぼやけてふやけてしまう
泣いても息しても
透明だ、なにもかも
蹴っ飛ばしたバケツに
もう一度もう一度
なみだ涙をこぼしている
辟易していたのかもしれない、とか
こんこんと巡る堂々巡りを
愛を愛を飲み込んで
毒だったのかしら
消化不良だ
誰か私を嫌ってほど褒めちぎってくれよ
誰か一人くらい思いっきり甘やかしてくれよ
もう 泣いてしまいそうなんだよ
「 "哀愁" とは塩のようなものだ 」
どこかの小説のページで見た、その台詞が
栞をはさむように、頭から離れなかった。
季節の変わり目
乾燥しはじめた空気
色づいた葉が風に舞う、くもった日
親子と恋組らで賑わう公園に
ひとり、木製の茶色いベンチに腰掛けた
「あたたかくて、しあわせそうだな」
そんなことを思いながら
頬張った、コンビニおむすび。
片手には、あの小説を携えて。
あのページを探しながら、黙々と
おにぎりを頬張って
あの台詞の意味をひたすら考えていた。
たまにはこんな日も悪くない。
現実と幻想。遠い世界にありながら。
脳内で描き上げた世界。
存在こそはしないものの。
とても近く感じたりする。
夏が終わる。
バケツをひっくり返したような雨が
夏日だった街を潤す。
コンビニの窓から眺める無数の粒が
妙に
忘れないで、
って夏が泣いてるようで
もの悲しくかんじる。
読み終えた雑誌を置き
ツナマヨか紅鮭か
いつものように悩んでから
家路を急ぐ。
「瑛瑠さん、仕事残ってるから先行っててくれる?」
望に指定された放課後が来た。瑛瑠が準備を終えて声をかける前に、申し訳なさそうな顔をした望は、振り向きこう言ってきた。
ちなみに、食べ損ねた昼食は、6時限目、7時限目の前の10分休憩で食べ終えていた。
「お仕事、手伝いましょうか?」
瑛瑠の問いかけに、首を振る望。
「すぐ終わるはずだから。大丈夫。」
「わかりました。頑張ってください。待ってますね。」
元々行くつもりはなかったが、都合がいい。こちらでの狐の存在について、少し調べてみよう。
そんなことを片隅に置きながら、教室を出る。
「瑛瑠?」
後ろから聞こえてきた声は英人のもの。
「帰らないのか?まだ本調子じゃないだろ、送ってく。」
瑛瑠は苦笑して応える。
「先客がいるので。」
英人は少し目を見張った。
「歌名か?」
そして申し合わせたかのように出てくる歌名。
「瑛瑠ー!一緒に帰ろ!」
瑛瑠は苦笑いを重ねる。
「ごめんね、これじゃあトリプルブッキングになっちゃうよ。」
英人と歌名は顔を見合わせた。
コンビニおにぎり、詰め込まれた具。
きれいに真ん中に詰まった
量産型サケフレークおにぎり
「おばあちゃんが握ったような
優しさに包まれたおにぎり」
あまりにも無理やりすぎるよね、
そのキャッチフレーズ…
哀愁漂うあの姿
乾燥したその手には
少しの塩水と
忘れてはいけないのは
それ、をつくっているあなたの表情
そして、有限性。
あなたにしかできない、唯一無二の味。
風が秋の色に染まり始めたら
君は淋しそうに笑うんだ
横顔に哀愁を含んで
リップクリームを塗り直す唇に
乾燥の二文字はこれっぽっちもなくて
そっと触れたくなるから目を逸らした
ツナマヨネーズが好きな筈なのに
今日は焼きおにぎりなんて
コンビニおむすびで浮気なんかしないでよ
日が早く落ちる帰り道で
夕日に滲む君の後ろ姿を
瞬きでくり抜いて
思い出という型にはめる
カサッと音がして振り向くと
君も振り向いた
とっても乾燥した海苔の巻いてあるおむすびを
持って哀愁を含んだ目で微笑んでいた
「これ、美味しいんだよ?」
何で君はそんな顔したんだろう??
その意味なんて僕に解るはずなかった