ガチャッ。
「ただいまー」
「ああ、お帰り」
ケンジは野菜炒めを作る手を止めずに、玄関に向かって返事をした。ジュージューと油の音がキッチンに響く。
「んー、今日は何?...あ、野菜炒めだー」
「そ。もうすぐできるから用意しといて」
「オッケー」
ナナミとは同棲をはじめてちょうど一ヵ月だ。深夜の工事現場で働くケンジと、スーパーでバイトするナナミ。夕飯を作る役は、自然とケンジになっていた。
「ご飯炊けたよー」
「ん、よそっといて」
「はーい}
しかし最近レパートリーが一辺倒になってきている気がする。ずっと同じ料理のローテーションだとさすがに飽きてくるものだ。そろそろ何か変化をつけねば...。
「あ、そうだ、今日はスーパーでお惣菜もらってきたの」
「おっ、いいね、何貰ったの?」
「今日はね、えーと、唐揚げ!」
「おお。んじゃ、それも出しといて」
「はーい」
出来上がった野菜炒めを大皿によそう。テーブルに置いてからペッパーミルをまわす。
食べ慣れたものではあるが、我ながらいつもより上出来だ。口のなかに唾が溢れる。
「ケンくん?」
こんばんは。メメントです。しばらくぶりです。この間うちの高校の文芸部の部誌(俺は文芸部ではないのだが)に書いた短編をあげようと思います。宣言もしちゃったことですしね。では、
メメント劇場、開幕です。
「今日は、長谷川さんとの約束があるんです。ごめんね、ふたりとも。」
英人は妙に納得した様子で、そうか,と一言。
「もう大丈夫だろう。指輪もあるしな。」
微笑んで送り出す英人。一方の歌名といえば、不満そうに口を尖らせている。
「そんな。やっと瑛瑠と仲良くなったっていうのにー。」
そんなことを言いながらも、最後にはにっこり笑って、
「また体調崩したら承知しないからね。」
ぽんと肩を叩いて、じゃねと手を振る。
「じゃあ、フラれた者同士仲良く帰ろうか英人くん。」
「そうだな。また明日、瑛瑠。気をつけて。」
二人に手を振り、瑛瑠は図書室へと歩を進める。
後ろでは歌名が賑やかだ。
「ねえ英人くん、また明日ってどういうこと!?休みだよね!あと、さっきスルーしたけど指輪って!?ねえ!」
明日のことを歌名は知らない。しかし、共有者として、友だちとして、歌名と知り合ってしまった。夢に歌名は見つけられなかったけれど、繋がっているのだろうと、何ともなしに思う瑛瑠。
混乱を回避して少しずつ紐解いていくためにも、明日は英人と答え合わせをしたい。きっと聞いたところで、案外聡い歌名のことだ。深入りはしてこないだろうと思うも、上手く返してほしいと瑛瑠は願う。同じ魔力持ちとして、それ以前に友だちとして、歌名を傷付けたくないと思ってしまった。存外、英人にかなり信頼を置いていることを自覚し、微かに笑う。これから会う望とも、そんな関係が築けていけたら、そんなことを考えながら、扉に手をかけた。
君と歩いたこの坂道。
しょっぱいと文句を言い合っていた学堂のご飯。
進学して、帰り道も別れて、
部活も、クラスまで別れて
もう、前みたいな仲良し3人組はいない
前みたいに遊ぶことも無くなってしまった。
あぁ、戻りたいな
あの頃みたいにもっとふざけ合いたい
堅苦しい制服なんか脱ぎ捨てて、
好きな格好して、
草原に寝転びたい。
あの頃に、、、
誰かを恨み羨んで、妬み嫉んで荒みました。
壊して直して繰り返して、最初とだいぶ変わりました。
取り外せない魂を心の底から恨みました。
取り敢えずの繰り返しで15年生きてきましたが、辞めたくなってきたんです。
でも取り敢えず、明日も同じように生きようって思ってしまったのは
君に彼氏がいたからでも、ジャンケンで勝ったからでも、新譜が発売されるからでも、
ないような ないような気がするんです。
夜に寄る辺はないし、はべる隙間もございません。
茹だる・アンダー・ザ・夜空
向こうには何も見えてません。
取り敢えずを繰り返してちいさくなってきましたが、辞めたくなってきたんです。
でも取り敢えず、明日も同じように死ねないって思ってしまったのは
君と目が合ったからでも、抉った傷が痛むからでも、手に触れたからでも
ないような ないような気がするんです。
取り敢えず「おやすみ」と、口では言ったけど
心の中では
「好きです。さようなら。」
って、言おうとしてたんです。
その手に触れた感触を忘れられたなら僕はもう
辛くなんてないだろうけど、こびりついた記憶が邪魔をする。
きっと見つめたその瞳に
真実を見いだせたなら僕は
君と出会わなければ僕は
あの日泣かなければ僕は
今ここに立ってないのだろう。
雨に濡れぼそって
濃く立ち上る香りを嫌った幼い時の記憶を、
落ち葉を運ぶ緩やかな秋風とともに
後ろから走り去った爽やかに甘い香りで、
思い出させてくれ。金木犀。
今日も、帰っても親がいない。 そんなことに、慣れてしまった9月のある夕方。