お花のいい匂いで僕は起きた。
君が泣いてる。
気づけばすごく寒い。
そう言えば、今日はレストランを予約したんだ。
だから、泣かないで。
取っておきの君に見せたい、届けたいものがあるんだ。
だからこんな雪景色から出ようよ
なんでスコップを持っているの?
なんで僕は雪の中にいるの?
思い出した。僕は君に殺されたんだ。
思い出した。僕は死んだんだ。
放課後君と長く話した。
私は短いと感じた時間も時計を見ればほら。
そろそろ門限の時間だ。
帰らなきゃ。
なのに。
離れたくなかった。
まだ話したい。
留まりたい。
明日にはこの街とお別れする私にはこの時間がとてもいとおしかった。
分かってる。
私がいなくなっても忘れないでくれるって。
連絡を取ってくれることも。
言わなくても分かってる。
私が失いたくないのはこの時間。
君との時間。
雨が降った。
傘は忘れた。
また君に会えるとは思うけれど、
雨と一緒に涙が流れた。
もう、何ヵ月ぶりか
君の後ろ姿を見つけて声を掛ける
だけど君は振り向いてくれなくて
僕は急いで追いかける
慌てて手を伸ばしても
君の温もりは感じなくて
それどころかそのまますり抜ける
あれ?
…思い出した、僕は死んだんだった
人は何かと
愛だの恋だの語るけど
嫌いになったら
死ねだの呪うだの語りだす
あんなに愛してる
貴方の為なら死ねると言ってたはずなのに
ほんの少しまばたきをして、お姉さんは頷いてくれた。
コーヒーを淹れながら瑛瑠の質問に答えてくれた彼女は、名を花というらしい。さらに、瑛瑠の思った通り26歳だった。
「ここは、花さんおひとりでまわしてらっしゃるんですか?」
「えぇ、そうよ。」
どうぞと差し出されたコーヒーは、豆の良い香りがして、思わず顔がほころぶようだった。
花はカウンター越しに、会話を進めてくれる。
「瑛瑠ちゃんは、学校帰りに寄ってくれたのかな。他には、何を聞きたい?」
新たな食器に手を伸ばす彼女は楽しげだ。
「私……花さんを、どこかでお見かけしたことがあるような気がするんです。気のせいでしょうか……。」
花の顔は本気で不思議がっている。それはそうだ。来店して2回目の客に、私のこと知りませんかだなんて。
思って、語尾も小さくなる。
「すみません、変なこと聞きました。」
謝ると、待って,と制された。
「わたしと瑛瑠ちゃんは会ったことはないと思う。でも、わたしの友だちに、瑛瑠ちゃんに似た子がいるわ。」
自分がどうしようもなくみじめに思えた夜。
父が作ったコーヒーミルクが
あったかくて、甘くて。
情けない話だけど、もう一度泣いてしまった。
ねぇどうしたの?何かあったかい?
一人で下を向いて泣いている君
ほら言ってごらん 心がスッキリするよ
一人で毎日心の痛い屋突き刺さった過ごす日々
毎日誰かに言われぱっなしの日々
みんなから言葉の攻撃を浴びせる毎日
辛いことあるばかりの毎日
1人で悩みや辛い事を抱え込んだらダメだぜ
人は必ず支える人がいるんだよ!
君をほっとけない人がいる
人に頼ろうよ 勇気を出して
君なら出来る 絶対 大丈夫だよ
心配なんていらないからね
涙を流すほど人は強くなる
毎日生きて頑張ろうよ
応援する人は必ずいるよ
この星はあまり好きではなかった
昨日も、そして今日もそうだ
空気といい、飯といい、酷いの一言がよく似合う。
錆び付いた家に、軋む道...
まごうことなきいつも通りの日常だ。
違和感があるとすれば、今日は「町」にやたらと人が多い。しかも「町」では見覚えのないやつばかりだし、おまけに聞いたことのない言語で話してるんだから手に負えない...
そんなんだから、今日はいつもより早く職場に着いた。やることはないが、訳のわからないことを聞かれるよりはいい...
定刻、人が来ない。
何故だ。俺の仕事仲間にお人好しが多いとも思わないし、どちらかと言えばはみ出しものだ。よく分からない連中を助けるとも思えないし、何より危険なことはしない。そんな連中が来ない。どころかあのうるさい監督員すらいないのは妙だ...
待つ内に、何かのイメージが頭をよぎった。星と時計のモニュメント、この「町」のものでないのはわかるがなにかわからない。
昼、人は来ない上に腹も減ったから帰ることにした。
「町」は珍しく活気があった。年に一度の皇太子だか王子だかは知らないが、そいつが来るとき以来か
歩いているうちに、言い表せない違和感。「町」が「町」でないかのような感覚。愛着もないような所だが土地勘はある。それなのに違和感が覆い尽くしてきたのだ。
家、やかましく声が聞こえる。
たぶん外だろう。そう思ったときに何かが閃光のように駆け巡った。
そうして取り憑かれたかのように一言呟く
思い出した、僕は死んだんだった
僕はふと目を覚ました。
別に寝すぎたという感覚は無いし、目覚まし時計が鳴ったというわけでもない。
ただ、本当に自然に目が覚めた。
あまりにも自然すぎて、朝が弱い僕は不信感さえ感じてしまった。
スマートフォンのボタンを押すと、まず目に入ってきたのは破顔した彼女。
僕はそれを見た瞬間、布団を投げ捨て、タンスから服を引っ張り出す。ああ、これじゃない。こっちの組み合わせの方が良いだろうか。
やっと着替え、髪をとかして、ご飯も食べずに家を飛び出した。
ご飯なんて食べている場合じゃ無いだろう?
愛用の自転車に飛び乗り、全速力でペダルを踏む。ああ、信号待ちなんてもどかしい。
やっと彼女の家の前に着いたとき、僕は息も切れ切れだった。息を一気に吸おうとしてむせる。
心臓の音が身体中に響き渡っているみたいだ。
呼吸が落ち着いてきた僕は、彼女の家の前に立つ。そうだ、彼女に連絡をしていなかった。仕方ない。今は家の中にいるだろうか。
2階の彼女の部屋を見上げると、電気がついていない。もしかして、今はいないのか。
インターホンを押す。数秒の静寂────
あれ、しっかり押したはずなのに。
今度は力を込めてしっかり押す。
また、インターホンは鳴らない。
インターホンが壊れているのか?
ふと、もう一度彼女の部屋を見上げる。
───思い出した、僕は死んだんだった。
いつもとは違って
昏くて音のない部屋
どこか冷めている部屋
君と別れたのは数時間前のはずで。
そのときから動いていないから
明るいオレンジ色の照明が付いていて
机の上には飲みかけのぶどうジュースと
食べかけの料理があったはずで。
でもそれは全部なくて。
なにもなくて。
突然現れたように手元に現れたスマホの存在に気づいて電源を入れたら
見たこともない日付
見たこともない時間
…思い出した。
僕は死んだんだった。