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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ⑩

「まぁ、そうね…確かにどこのどいつか気になるし」
鷲尾さんはちょっと亜理那に押され気味に答える。
「ほらサヤカ! ハルカも気になるって言ってるよ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ…」
確かに鷲尾さんもそう言ってるけれど、本気じゃなさそうだし、わたし的には…
「…無理?」
亜理那はわたしの目を覗き込みながら首を傾げた。
「ぅ~っ」
この調子じゃどう考えてもラチが明かないような気がして、わたしはため息をついた。
そして、この状況をどうにかするためにも、思い切って口を開いた。
「…しょうがない。紹介するよ」
「やったぁ! ありがとう!」
わたしが紹介するよ、と完全に言い終わる前に、亜理那はわたしの手を取った。
「じゃいつにする? やっぱ割とみんな暇な日曜日? ていうかどこにしようか…」
彼女らしいやや大げさ気味な反応にビックリしているわたしを気にせず、亜理那は1人話を進めていく。

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ばか

考え無し のうみそなし?
脊髄反射の生返事
だって、初めて会った君から
目を離せなくなったんだ

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宿題

人間はなぜ二本脚で歩き出したのか

『手をつなぎたかったから』と答えた子どもは

「そもそもなぜとかじゃなくてたまたま立ってみたら都合が良かっただけ、進化論的には。」

と答えるひねくれた人間になりました

「手だって繋げるしね」

いや、根っこは変わってなかったみたいだ

歩こうぜ
手をつないで

進化論のその先を目指して
怖くても二人で

根拠はないけど僕らなら行けるって
0点だって構わないくらいの答まで 行こうぜ

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豪雨の魚

楽しかったはずなのに
嬉しかったはずなのに
何故だか心が泣いている
あなたと過ごした時間はどこか
ドーナツみたいな穴がある
二人きりではなかったの
あなたの心に私はいない
私の心は此処にはもうない
「今だけは…」
一人漕ぎ出す雨の中
私はずぶ濡れ
豪雨の魚

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夏の一刹那

ラムネ瓶のビー玉が落ちるまで、一刹那の夏
僕がまばたきをひとつする間
君はそこに存在していたのだろうか
ほんのまばたきの間に
君は脆く崩れ落ちてしまうのではないだろうか


何も離したくない、夏。

この幻はどんなに強く抱きしめていても
僕の手をすり抜けて飛んでいってしまった。
君の破片は軽やかに、こんなにも美しく
粉々に飛び散ってしまった。


僕は夏のたったひとつの残骸を、
碧い海に投げた。

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桜木ノア #10 9月某日

桜木ノアを怒らせてしまった夏休みが明け、平然と学校が再開した。
夏休みの思い出を話す生徒や、宿題が終わっていないと半笑いで嘆く生徒たち。

その中に、桜木ノアの姿はなかった。

連絡は事前にもらっていた。部活のグループラインで『ごめん。体調崩しちゃって、しばらく休むかも』と言われていたのだ。
朝香と平田のいないこのクラスの中で、桜木が休みだと知っているのは俺だけだったのだが、しかし、クラスメイトたちは桜木の姿がないことなど気にも留めていなかった。そのことに不快感がなかったと言えば嘘になるのだが、俺は俺で普段関わりのない相手が休んだところで大して心配はしないため、人のことは言えない。
まぁ、実際のところ桜木はそれほど休んでいたわけでもないし、学校に来たときにはとっくに元気になっていたようなので、俺は安心した。
安心していた。
安心してしまった。
桜木らしくもなく成績を落としていたにも関わらず。
文化祭一週間前の部活の日、俺は桜木のことなんて何も分かっていなかったのだと知ることになる。

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世にも不思議な人々をリストアップ6

此花陽太郎(ヨースケ)
中学校の頃のあだ名がヨースケだった。他に陽の字がつく奴はいなかったらしい。陽介には面白いのでヨースケと呼ばせている。周りからは感情を素直に表す明るい奴だと思われているが、その実その心の中は中々のカオスであり、心中を読むのは難しい。
能力
認識した足場には、それがどんなものであろうと乗ることができる。空中の砂粒にも、尖った針の先にも、飛んでいる羽虫の背にも、風に揺れる笹の葉先にも、本当に何にでも乗れる。もちろん足場に固体の要素は不可欠。ゲルとかダイラタンシー現象はセーフ。恐ろしいのは、ただバランスがどうのという話ではなく、ただ『その足場に乗れた』という結果だけを定着させる能力であるという点である。
作者のコメント
読みは「このはな ようたろう」。バランス感覚が良かったんだと思う。童謡を考えなくて良いのすっごい楽です。

岸和田陽介(ヨータロー)
中学校の頃のあだ名がヨータローだった。他に陽の字がつく奴はいなかったらしい。陽太郎には面白いのでヨータローと呼ばせている。周りからは感情を表に出さないクールな奴と思われているが実際は感情的で表情もコロコロ変わる。ただその変化が小さいのである。
能力
『何か』を召喚する。『何か』は対象の視界の端ギリギリに出現し、視界の隅をキープするように歩き、歩行速度より早くそちらを向かれた場合は瞬間移動する。この『何か』には対象の注意を引き寄せる性質がある。ちなみに『何か』の正体は長さ60cm程度の竹ひごのような存在である。
作者のコメント
目立つのが嫌いだった結果、こうなりました。読みは「きしわだ ようすけ」。もし僕にスタンドが発現してもこんなのだな、みたいな能力。

仕出原 栄人(神か少年)
「お前神かよ」が口癖。
能力 とおりゃんせ
神だと思った人間を神格化する。たとえ冗談でも僅かにでもそう思ったのならばその人間は神になる。
・神格化された人間は長寿になる。(150歳くらい)
・神格化された人間は生命力が向上し、多少の怪我はすぐ治る上、病気にも強くなる。
・神格化された人間は、そのジャンルに由来した能力を手に入れる。
まさに現人神量産の能力。
作者のコメント
読みは「しではら はるひと」。彼の存在はこの作品の能力の可能性を広げてくれた。

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世にも不思議な人々をリストアップ5

トカゲ氏
トカゲだった男。
能力 黄金虫
他者に暗示をかけられることによって別の生き物になる。人間以外のあらゆる生き物が変化の対象となり、植物や菌類にもなり得る。ウイルスは無理。
作者のコメント
彼の友人はこの後無事ボコボコにされました。彼については名前は考えてないです。

住之江 俊介(大男)
身長七尺に届くほど長身の初の同級生。先天性の能力者。
能力 パフ
あらゆる事象が彼にとって害にならない。その影響で危機から人間を守るためにある反射の仕組みや痛覚が無い。だから辛いのも平気。更に出力を制御するための身体のブレーキが無いため、通常ならあり得ないパワーが出せる。身体はボロボロになる。なお、彼の能力は不死とも言えるが、治癒はしない。メラニンや白血球はなぜかある。
毒や病は効かないが、所詮はタンパク質の塊なので強酸かければ爛れるし、燃やせば炭化するし、首を切り落とせば首から下は神経が切れるので動かなくなる。しかし細切れになろうと蒸発しようと食われて消化されようとそれらは彼の害になり得ないので、治せれば元に戻る。
作者のコメント
読み方は「すみのえ しゅんすけ」。中学校時代の友人との『何も害にならない能力があったら毒とか病気とかアレルギーとか平気になるんじゃね?』『それ、失血とかそういうのも平気にならない?』『実質不死身だ!やべえなww』みたいな会話から誕生した能力です。

少女
住之江と仲の良い少女。計算すると背丈は140無いことになる。不登校。過去に何があったかは不明。最近住之江の小指の先の部分を切り落として治療用に引き取ったそうな。何それ怖い。
能力 蛍の光
何かで突き刺すことによってその人間の外傷を全て完全に治す。刺すときは普通に痛いので、それこそ痛覚の無い住之江ぐらいしか使える相手がいない。
作者のコメント
上の能力者だけを治すための能力です。

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省略・歪曲・早まった一般化

「恋愛は相性の問題だ。勝者はいない」
「金持ちについて行く女は?」
「金になびく女は金が好きな男と相性がいいだけだ。女はみんなこんなものなんて早まった一般化ですますのはもったいない多様性に富んだ世のなかだ。やさぐれちゃいけない」
「あんたはネガティブなことしか言わないと思ってたよ」
「現実に目を向けてないからポジティブなことが言える。希望的観測で未来をひらくことはできない。ネガティブなことを言うのは未来をポジティブにしたいからさ」

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カラオク

「皆さんのおかげなんて言葉は誰からも文句を言われない立場になってから出てくるものだ。ひとの気持ちを想像できる奴はひとをコントロールしようとしたりしない」
「偏食は食に執着しないぶんそのほかの欲求、とくに物欲が強い。罪のない動物を殺すより、自分に歯向かってくる人間を殺すほうが簡単なのだ」
「世のなかのルールを学び始めた子どもほどルールを守る。ルールに忠実なあなたは要するに子どもなのだ」
「悪口ばっかりね」
「悪口じゃない。誹謗中傷だ」
「カラオク行こうぜベイビー」
「カラオクは嫌い」

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ほら

れもんの皮のところに
ちいさなちいさな雪の結晶

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銀河鉄道の深夜

私の命に
りんごくらいの価値があれば
それを
ジョバンニかカンパネルラに
食べてもらって
消えて
白鳥の駅で一眠り
しようかなって考えてたら
コンビニの自動ドアに
挟まれそうになったので
今から銀河ステーション行って
住民票もらってきます。
ばいばーい。

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秋に近づいた空に
なんだか訳もなく涙を流した
なんて
訳はちゃんとあったんだけれど
ただ寂しかったんだ
このまま泣くだけで終わるのはだめだって
そう決意した涙なんだ
こんな距離いらないから
どうか近くにいてほしい

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ちょっと違う日常

夏休みが終わった
いつもと変わらない学校
友達もクラスメイトも変わってない

先生の話を聞きながら、窓の外を眺める
ふとあの日のことを思い出す
あの日見た景色
あの日聴いた音楽
あの日会った人たち
言葉にできない感情が湧き上がる

そして何事もなかったかのように
また先生の話を聞く

いつもと変わらない学校
友達もクラスメイトも変わってない
でもちょっとだけ「何か」が変わった気がする

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コードロック

煩い煩い ロックンロールを
金に変えたら 静かになった
そんな気がして 誰かが叫ぶ
こんなのロックじゃねぇ!って

静かな静かな 革命が
起こったなんて 知らなくて
変なやつだと 誰かが笑う
その薄っぺらな光の中で

愛してるって言ってくれ
でも嘘つきは嫌なんだ。
愛してるんだ それでも
この世界が 終わっても


煩い煩い ロックンロールが
少しの間 止んだ時
寂しくなって 誰かが叫ぶ
いいからギターを鳴らせ!

それでもカエルがそこにいて
かわいい声で鳴いてたら
ロックバンドは立ち止まり
アンプをどかしてくれるのさ

愛してるぜ 君たちを
俺、嘘つきが嫌いでね。
愛してるんだ 君たちを
この世界が終わっても

愛してるぜ 君たちを
ロックンロールは本物さ
愛してるんだ 君たちを
この世界が 笑ってら

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易しい人

どっちの味方とかよくわからないし
どっちかに付かなきゃ怒るのもやめて

私の言うこと100個聞いたら帰らせてあげる
っていうのも散々疲れたよ

優しい人ってよく言われるけど
きっとそれは違う
相手の言い分 全部聞いてあげる
ただの易しい人さ

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ⑨

紹介することはできるけど、やっぱり面倒事が自分の身に起きそうな気がした。
うっかりしたら、”彼ら”がわたしから離れて行ってしまうかもしれないし…
でも、頭を下げてまでお願いされてるってなると、断るのもちょっとなぁ…
そう悶々と考えてるわたしの前にいる亜理那は、ふと思い出したように鷲尾さんの方を向いた。
「あ、そうだ、ハルカも加勢してよ。そのために呼んだんだし」
「嫌よ」
「え~何でぇ~?」
亜理那の誘いをすぐに拒否した鷲尾さんに対して、亜理那はさらに言う。
「ハルカは”異能力”の事を常人にバラシてしまった”異能力者”がどこの誰なのか気にならないの~? わたしはこの通りめちゃくちゃ気になってるんだけどさ」
その言葉を聞いて、不意に鷲尾さんは身じろぎした。
「…確かに、それがどこの誰かは気になるけど…」
「でしょでしょ~? それで、目の前にはその直結の知り合い! 誰か聞きだすチャンスだよ!」
ほんのちょっとだけ興味を持った鷲尾さんに、亜理那は番宣のごとく彼女に加勢するよう促す。