ぱしゅ。としゅ。とすん。
ここでは、さまざまな音が飛び交う。
小さな店に、そう多くはない人々。
そのなかでも、今私の隣にいるこの女性は一際恰好いいと思う。特別容姿がいいわけではないし、年齢はうちの母親と同じくらいだろう。まぁ言ってしまえば普通のおばさんだ。
「飛鳥ちゃーん? どうしたの、ぼーっとしちゃって」
私の隣にいる女性、京本さんが声を掛けてきた。
「あっ、すみません。ちょっと考え事してました。京本さんのこと、考えてたんです」
「あたしのことを? 飛鳥ちゃん、やっぱりちょっと変わってるよね」
京本さんは周りも気にせずケラケラと笑う。こういう良い意味でフランクなところが好きなのかもしれない。
「いやぁ、私たちってどうやってこういう関係になったんだろう、ってつくづく思うんです。親子くらい歳が離れてるのにこうも気が合うもんなんですね」
「ふむふむ、なるほどねぇ。確かにそれは言えてるね。あたしも何でかわかんないもん」
ですよねぇ、とフンフン頷くと、京本さんはまたケラケラ笑った。
泉のほとり
震えている人魚をみた
目があって
長い髪を翻えすと
涼しい顔で水中へと帰っていった
イメージを守るのも大変だ
恐竜くんには眠れない夜に会える。まぶたの裏に現れるものだから、一応目は瞑ってないといけない。いつかの眠れない夜、ずいぶん打ち解けた恐竜くんがカラカラと言ってきた。
「ぼくの父さんに会わせてあげる」
のそのそと歩む恐竜くんに合わせてゆっくり歩く。私はこの速度で歳を重ねていくのだなあ。着いたよ、と丘の上、広がるのは海。
海…が父さん?
「は、はじめまして!
恐竜くんにはいつもお世話になってます」
カラカラと笑う恐竜くんに見守られながら、何かを思い出せそうな気がした。大事だったこと。
「きみも父さんって呼んでいいよ」
「ほ、ほんと。ありがとう」
帰り始める恐竜くんに慌ててあとを追う。恐竜くんは大きなカラダをしているけれど、だんだんわかってきた。優しいこと。こわがりなこと。
背後には海。父さん、私たちの。
『君の手にあるその双眼鏡。なかなかゴツくて倍率も高そうじゃないか。たぶん、真夜中くらいかな。君は部屋の窓かどこかから、その双眼鏡で街を見ていた。合ってる?』
その通りだ。そして……。
「そして、遠くを見ると、何か虫のようなものが見えた。何かと思ってよく見ると、明らかに人じゃない男の子が手を振りながらすごいスピードで走ってきてた。合ってる?」
「うわ、喋った」
「うん、面倒になってきてね」
「さいですか……。まあ、当たってます」
「やった。で、こっちに来てる。目もバッチリ合っちゃってる。奴の狙いは明らかに自分。それで家を飛び出して逃げてきたってわけか」
「……はい。なんで分かるんですか?」
「なに、ネットに似たホラーの小話があった、ただそれだけさ。まあ、あれを読んだことのある僕からすれば、夜中に双眼鏡で外を覗くなんて、絶対やりたくないけどね」
「………夜景を見ていた。ただそれだけだったんです」
「ふーん。やっぱりソレ使うと違うんだ。まあ問題はそこじゃない。『あれ』をどうやってやり過ごすかだ」
それを聞きたかった。思わず前のめりになって訊く。声はどうにか小さくできた。
「ど、どうすれば良いんですか?」
男は腕を組み目を瞑り、カッ、と目を開いて言った。
「まったく分からん」
今年もまたこの日がやってきて
きみは“おとな”になった
きみは、おとななんかじゃない
って言うかな
でも私、おとなになったきみに会うのが楽しみで
次はどこに行こうかと考えたりして笑っている
きみは本当に素敵な人
美味しいお菓子を作れるし
笑顔で私を癒すことができるし
はしゃぐ私を見ていてくれるし
きみに出会えて一緒にいる時間が
何よりも嬉しくて
きみがくれる幸せの後味が
甘く甘く残っているから
きみにも幸せになってもらいたいんだ
夕焼け雲
まぶしいほどにひかる光
夕焼け雲
私の心をスッキリさせる
夕焼け雲
明日の幸せいのってる
これが僕が3年程前に市内の企画に投稿し、採用されたものです。カッコ悪いな笑
「貴方は…俺ですか」
「はぁ…?覚めたばかりで混乱しているのでしょうか。ゆっくりお休みください」
駄目だ。
でも、確信はある。
こいつは、絶対に俺の身体をのっとっていた。
ただ解らないことがひとつある。
怪我していた時はあいつの身体だったのに、目覚めた時は俺の身体。
夢だとは到底思えないが、色々と証明がつけられなかった。
次にあいつ…真月が来たのは、3時間後。
「体調は如何ですか」
向こうの質問など無視して攻め寄る。
「嘘を吐くな。お前は俺の中に入り込んで怪我をしたのち、俺から出て来て今ここに居る。
そうだろう?」
「…お身体の調子を伺いたいのですが」
向こうの口角が若干下がり、確信する。
アレは夢ではない。
「身体は大丈夫だ。
正直に言え。どうやって入り込んだ。何の為に」
彼から表情が抜け出る。
やっと真実を語り出す様だ。
「懐葵のこと、覚えてないんだ、…へえ?
まぁ今は僕の彼女だし、関係ないけどね?
あぁ……そっかぁ。
そうだもんね
お前…懐葵のこと忘れさせられちゃったもんね…」
そう言うと彼は
意味深な余韻を残して
そそくさと去っていった。
ねぇ。私があなたに沢山アピールしたんだよ?
あなたがいるから私頑張れるんだよ?
なのに、なんであの子と楽しそうに話すの?
私とも話してよ。落ち込むな。
でも、見れるだけでドキドキするんだ。
話しかけられたらもっとドキドキするんだ。
みんなによく言われるの。喜怒哀楽だねって。情緒不安定だけど大丈夫?って。
喜怒哀楽なのも情緒不安定なのも全てあなたのせい。
あなたの笑顔で笑って、あなたの辛い顔で悲しくなって、あなたの他の子に見える笑顔に涙が出てきて。私、あなたに振り回されてるね。振り回されて疲れるのに大変なのにあなたが好きなの。
気づいて?