「ッ!? 何だ!?」
鍵を拾った瞬間、足元から聞こえた声。咄嗟に飛びのく。
「……良い反射神経だ。わざわざ『それ』を取るだけのことはある」
さっきのと同じ声が、今度は背後から聞こえてくる。
「!?」
振り向く前に、何者かに目と口を手で塞がれる。
「んがっ!」
藻掻こうとしたけれど、直後に手が離れ、さっきまでいた場所とは全く違う空間にいた。
「ここは……?」
「ようこそ、もう何人目かのお人。これであなたも、晴れて我々の仲間入りというわけです。先程の非礼については、勘弁してくださいな」
さっきから聞こえてくる声が答えた。声のする方を見てみると、背の高い、足が一本しか無い男が立っていた。
「なっ、何者!?」
「そんなことはどうでも良いわけで。我々にとって名前にそう価値はありませんで。そういうわけで名乗りは結構」
「……じゃあ、何になら価値があるんです? 相手を呼ぶ時はどうすれば?」
「適当にしてくれれば。大抵の場合、私は『片脚の』だとか『しめじ野郎』だとか呼ばれておりますよ」
何故しめじ。
「何に価値が、という話ですが……」
片脚の男は、腕組みをしてしばらく考え込んでから答えた。
「我々の為した事に、でしょうかねぇ……」
「為した事?」
男は懐から一冊の手帳を取り出しながら続けた。
「ええ。あなたも聞いたでしょう? 『ミラークロニクル』。その編纂ですよ」
水溜り弾くスタンスミス
五時の音楽がホラーに鳴って
文庫本の群れが山へと帰る
腕まくりで浮いた血管を
意味もなく褒める
そう言えば って照れ隠して
顔を上げれば別れ道
姦しい胸中を悟ってよ
押して自転車 引いて後ろ髪
雨 月 風 好き 太陽 あんまり好きじゃない 明るすぎて 眩すぎて 自分には不釣り合いだ 朝よりも 夜が好き
何でもない日常だった
今日もそのはずだった
果たしてこいつはなんなのか、てか「ここ」はどこなのか
これがわからない
伊織タケルはいつものように公園に寄ってのおやつタイムだった
いつもは誰かと一緒だが今日はみんな都合が合わないと来た...まぁ受験生だし仕方ないが
しかし、最近のコンビニというのはすごい、何でもそうだがとにかくうまいのだ
次の菓子を食べようと袋を漁ると、なんだか買ったものたちとは明らかに不釣り合いな固い感触があった
取り出してみたがこれはどう見ても...
「なんだこれ...鍵...?」
疑問に思いながら眺めてると「それ」は突然高らかにこう宣言した。
『ミラークロニクル!』
その声と共にタケルは光に包まれた
空っぽだと発覚した途端、ピーコートの全てのポケットが とある予感で満ち満ちる。
そしてその予感は、店員が運んできたマグカップの中に"探していたもの"ではない"見覚えのある鍵"を発見してから、ゆっくりとまぶしい確信に変わっていく。
やっとだ。
君を、迎えに行ける。
僕はたったいま目の前に届いたアイスティーに手をのばし、冷たさをひたひた、水面を越えて''見覚えのある鍵''をつかむ。
--- ミラークロニクル
どうか君も、僕に向かって泳いでいますように。
いつも思うんだ
なんで私を選んだの?
私で良かったの?
他に私より良い人居たんじゃないの?
その人を選んでいればもっと幸せだったんじゃないの?
私にも居たのかもしれない
でもあなたしか居なかったんだ
あなたで良かった
選んでくれてありがとう
でも、これがもし全て決まってたのなら私でごめんなさい
そんな気持ちを抱える私のそばであなたは同じ顔で微笑んでるんだ
「もうそろそろ帰ろうか、夕飯は何が良い?」
そんな日々が愛おしいんだ
どうかそんな日々が
走っても逃げられないよ、時間
飛んでも出られないよ、世界
嫌でも迎えに来るよ、死
生きてる暇も無ければ、死んでる暇も無い
神から命を押し付けられ、今日もただ、はみ出た命が眼から駄々もれ
布団に潜って溺れるだけの毎日
何処へ向かうのですか?
何処へ向かえば良いのですか?
誰かに会いたいです
運命の人
私を愛してくれる人は何処ですか?
その人とはぐれました