「別に道に迷ってるワケではないもんなぁ」
「おっかしーなー、何で何度も同じ場所通ってんだ~?」
彼らがその理由を話し合っていると、急にネロがもしかして、と呟いた。
「もしかして?」
わたしはつい聞き返す。
「いやもしかしたらなんだけど…」
ネロが話を続けようとした時、不意にフハハハハハ!と高笑いが聞こえてきた。
誰かと思って声がする方を見ると、小学校中学年から高学年位の少年が路地の真ん中に立っていた。
「そう、そうだとも!」
全てはぼ…と言いかけた所で、ネロがこう遮った。
「まだ何も言ってないけど」
「うっ」
少年はちょっとうろたえたが、気を取り直して話を続けた。
「まぁ良い、全てはぼくの手の上だからな…」
少年はカッと目を見開いた。
「そう! 全てはぼくのせいなのさ!!」
フハハハハハ! どうだー!と大げさに笑う少年に対し、わたし達はぽかんとしていた。
共 奈利子(トモ・ナリコ)は今日も人の話を聞いていく。
彼女は人の感情に深く共鳴する。
幸せな話、楽しい話を聞くときは良い。
明るい気持ちになれるから。
辛い話、悲しい話を聞くときは涙が止まらなくなる。暗い気持ちを数日引きずることもある。
それでも、彼女は幸せな話も辛い話も分け隔てなく聞く。
それが、ワタシにできる唯一のことだからね。
本命と目が合う
これは知人とは値しない
また 友人とも値しない
そして 親友とも値しない
これは本命と気持ちが通じ合う瞬間
本命と通じ合った瞬間、
思ったより気分が上がる
今日も感じた絶望感 虚無感は
僕を少し大人にしてくれるのだろうか
お互いつまらなくなったね
新茶がおいしいとか言ってる
気怠げな仕草はもう似合わない
瞳も指輪もくすんでくけど
同じツボで笑ってたい
やがてそれも風化してくのなら
同じつぼで眠ってたい
無駄なものが削げ落ちて
見えてきたホントのカタチ
歪な湯呑みに浮かんでる
たったそれだけを報告してたい
友達といる私。先生と話す私。家族と接する私。一人の時の私。好きな人といるときの私。嫌いな人といるときの私。
全部が『私』。全部が本物。全て本当の作り物。
どの『私』も本心で、どの『私』も演じたキャラクター。
どの『私』も『本当の私』なんだから、他の誰にも「本当の私じゃない」だなんて否定させないし、「この『私』が本当の私」だなんて限定もさせない。
『時と相手に応じて演じるべき役を演じる』。それこそが私の本性。本当の私だ。
学校からの帰り、道端に道化師が立っていた。正確には、道化師の格好をした大道芸人、だろうか。
4つか5つのボールでジャグリングをしているが、道行く人は誰一人として興味を持っていない。
ジャグリングを止めた大道芸人だったが、一瞬私と目が合った。大道芸人は目の前の地面に置いていた帽子にボールを仕舞い、代わりに風船と空気入れを取り出した。風船を素早く膨らませ、犬のバルーンアートをあっという間に完成させてしまう。彼が放り投げた風船の犬は、ふわふわと風に乗って私の手元に飛んできた。
風船の犬から大道芸人に目を離すと、大道芸人は帽子の中を探っていた。次は何が飛び出すのだろう。そう思っていると、今度は白い鳩が飛び出した。彼はその鳩を腕に留まらせ、軽く撫でてから空に放ってしまった。
鳩を跳ね上げるように振り上げた腕を下ろすと、その手の中には、いつの間にか一輪のバラが。数度揺らすと、バラの花はさまざまな種類の花を寄せ集めた、少し不格好な花束に変わってしまった。
それからも彼は、数多の手品や芸を披露し続けた。たった一人、私という観客のためだけに。もうすぐ日も沈もうかという頃、彼は全ての手札を見せ切ったらしく、演技臭い深々とした礼を私に向けてくれた。
私は拍手も歓声もあげられなかったけど、それでも何かを返したくて、ポケットに入っていた百円玉を、指で弾いて帽子の中に放り込んだ。
チャリン、と舗装された地面に小銭のぶつかる音。彼は満足したのだろう。
百円玉を拾い直し、またポケットに突っ込んだ。
(おひねりくらい、素直に受け取ってくれても良かったのに)
私のためだけの風船の犬。素敵な記念品を貰ってしまった。さあ、もう遅いことだし、早く帰ろう。夜は『彼ら』の時間なんだから。
そう歩いていると、不意にネロが足を止めた。
「…どうしたネロ?」
耀平は思わずネロに聞く。
「…いや、ここさっき通ったような気がして」
ネロは辺りを見回しながら答えた。
「えーそんなバカな…」
そう言いながら耀平は両の目を光らせる。
「あれ、異能力…」
わたしがそう言いかけると、師郎があぁと説明を始めた。
「あれはな、コマイヌの異能力で自分達の行動の”軌跡”を見る事で、さっきここを通ったか確かめてるんだよ」
…おいコマイヌ、どうだったか?と師郎は耀平に尋ねた。
耀平、もといコマイヌはこちらを振り向く。
「…確かに、ここはさっきおれ達が通った」
でも何で…とコマイヌは首を傾げる。