「あら?」
わたしがそこまで考えた所で、聞き覚えのある声が耳に入った。
思わず顔を上げると、目の前には背の高い髪を複雑に結った少女が目に入った。
「暫くぶりじゃない」
少女はそう言って微笑む。
わたしは急な事にびっくりして、彼女が誰だか分からなくなった。
「え、えーとえーと…稲荷(いなり)さん?」
やっとの事で思い出した名前を口にすると、少女は覚えてくれていたのねと目を細めた。
「何だかあなたが難しい顔をしてたから、つい話しかけちゃった」
稲荷さんはそう言いながらわたしの傍に座る。
「何か考え事?」
稲荷さんがそう聞いてきたので、わたしはまぁ…そうですと答える。
「あらそう」
良かったらわたしが聞くから、話してくれない?と稲荷さんは尋ねる。
「あーでも…」
「良いから話しなさんな」
戸惑うわたしに対して、稲荷さんはにこりと笑いかける。
有無を言わせぬその笑顔に、わたしはこれまでの経緯を話す事にした。
静かに、秋の様相が
地を這って忍び寄る
静かに、君の咳が
上擦って響く夜
心が
音に変わって
知らない記憶の一端を見る
それがどうにもせつないから、
揺れたグラスの水面
目を逸らしてしまった
白驟の夢を見る
晴れとも言いきれない夜空は
隠した名前の答え合わせを
しきりにせがむ
冷たい息に噎せて
諦めて、口を噤んだ
「クリスチャン、クリスチャン!」
「んぇぁ、ねこちゃん!」
クォーツ領の外れにて待ち合わせていたネコメとクリスタルは、定刻1時間前には既にお互いやって来ていた。
「随分早かったじゃないの戦友よォ、そんなにボクと会いたかった?」
「うん」
「ボクもだよォクリスチャン! さ、ボクたちの戦いを始めようか。今日は普段行かないところに行きたいな」
クリスタルを抱き上げ、ネコメはその場でしばらくくるくると回っていた。
「にぇぁー、ねこちゃん。いこー」
「ああそうだね。今日は入り口の反対側、あっちの方を探りに行こうと思うんだ」
「はぁん?」
「あっちの方にねェ、なァーんかワクワクするものが見えてんのヨ」
「にゃぁ……」
「それ、一日は思ったよりも短いんだ、さっさと行こうぜ、相棒!」
ネコメはクリスタルを素早く肩車し、軽い足取りで駆け出した。
・クリスタル
鉱石:水晶 核:後頭部から生えた水晶柱
能力:世界の境界面を認識する
能力の由来:占いに使う水晶玉のイメージから
クォーツ族の末っ子的ポジション。戦闘力は無いが、見ているものが他のメタルヴマ達とは違うようで、戦線にも構わずふらふらと出て来てしまう。一度戦火に巻き込まれ核となる水晶柱を半分ほど砕かれたショックで頭の中もふらふらのふあふあになってしまった。周囲からは戦えないことで時には厄介に思われながらも、比較的平和な時には「クリスちゃん」の愛称で可愛がられてもいる。本編後、何やら進化を遂げたそうな。
・ルチル
鉱石:ルチルクォーツ 核:胸元に埋もれた針水晶球
能力:水晶の針を生成し射出する
能力の由来:和名が『針水晶』なので
クォーツ族の戦士。ローズとは同じ日に生まれた関係で兄弟姉妹のように親しくしている。アメシストとは戦士としての相棒の関係で、共闘時は中後衛として前衛向きのアメシストを支えている。しかし2人ともとても強い上にまともな戦力が少なすぎて人手を無理やり割かなければならないので、共闘することは滅多に無い。あったらそれはクォーツが滅ぶかどうかの瀬戸際である。
特に親しいローズとアメシストに対しては距離感と感情がちょっとアレなところがあり、ついたあだ名が「同期と相棒限定感情激重病めたるヴマちゃん」(シトリン命名)。
・ローズ
鉱石:ローズクォーツ 核:左の鎖骨の辺りに生える3本の短い紅水晶柱
能力:他のメタルヴマを自身の手元に引き寄せたり跳ね退けたりする
能力の由来:ローズクォーツは女神アフロディテの石とされ、恋愛の守護石としても知られている。愛する者同士が引き合うように、恋破れた者同士が自然と距離を取るように、ローズクォーツの能力はメタルヴマ同士の距離を操る。
クォーツ族の医務官。ルチルとは兄弟姉妹のように親しくしている。戦線においては傷ついた仲間を素早く回収し、襲い掛かる敵は撥ね退ける、救護班として活躍することが多い。育ちの悪さが隠しきれていない言葉遣いや行動が見られる。
小仏のトンネルも,八王子も、高井戸も過ぎて地元・新宿の高層ビル群が見えて来たと思ったら,家族でドライブした時に必ず利用した外苑のランプも越えて三宅坂のJCTまで来た。
一度深呼吸をして「いよいよだな…」と呟くと嫁が「どう?私の地元来るの楽しみ?」と訊くので「仕事柄北海道や東北、関東甲信ばかり行ってて九州には一度も行ったことないから楽しみだけど,大好きな東京とお別れするのは寂しいかな」と返すとソウル時代の同僚が「お前の場合はそうだろうな。モデル級の美人が多く参加する合コンに誘ってもお前は断固拒否してたもんな」と言うので嫁が「それって、私がいたから?」と訊くので「当時の俺は独身だったし、プライドが高くて,な?」と答えると今度は助手席にいた同期が「元カノとの失敗や台湾での失恋で心荒んで、『東京の言葉が分からない女とだけは絶対に付き合わない。東京の外の女性,特に西日本の人や見た目だけ綺麗な外国の人と付き合うくらいなら、自ら命を絶ってしまう方が一億倍マジだ』って宣言したお前に気を遣って日本の現場へ出張させる時は必ず東日本に派遣してたのに変わったよなぁ…マレーで彼女できたって連絡受けた時は悪い冗談かと思ったよ」と懐かしさに浸って笑いながら暴露するのでそれに合わせて「まぁ,そんな俺でも嫁の新撰組が好きで新撰組にゆかりのある多摩や東京のこと知ろうとしてくれた所に惚れて,今までの方針忘れるくらいまで首っ丈で結ばれたんだから,嫁が特別なだけだがな」と言って俺も笑うと嫁は「貴方が西日本のこと語ろうとしなかったのって…」と言うので「そう。地元も好きだったけど,それファンとして巨人戦観てて,10年以上日本一はお預けで,大体全部に西日本が関わってるからね」と返すと嫁が何か言う前に同期が「確かに,阪神と3位争いしてた時に打った選手は確か山陰の出身だったし,燕の監督は広島,既に亡くなられたけど楽天の星野監督は確か瀬戸内の出身だったよな」と答えるので頷き,嫁が「結果論やけど,元カレいなかったら野球のこと知らなくて,大好きな貴方を傷付けてしまってたかもね」と冗談めかすので「そうかもな。俺も元カノのこと無かったらオープンチャット使わなかったから,君とは会わなかったかもしれないな」と言って笑い話にしている間に他の定期船の針路の関係で移された港に着いた。
乗船手続きは済んでいるので出航を待つ。