「でもあの子、ボクを見た時にボクと初対面みたいな顔してた」
ネロの言葉に耀平は首を傾げる。
「え、じゃあ”あの子”はネロの事覚えてないって事?」
同じ異能力者だよな…?と耀平は呟く。
「多分、”あの子”の異能力はまだ完全に発現し切ってないんだと思う」
まだあれ位の年齢なら発現し切ってなくてもおかしくないし、とネロは続ける。
「発現し切ってないって事は、記憶も完全に引き継がれてないからボクに気付かないんだと思う」
ネロはそう言った。
「…ネロは、ソイツと仲良くしたいのか?」
「へ?」
ふと師郎が尋ねて、ネロはポカンとする。
「いやだって、人間としては見ず知らずの相手だけど異能力者としては大昔の知り合い、なんだろ?」
そんな奴に自分から話しかけに行ったって事は、仲良くなりたいとしか思え…と言った所で、ネロはそ、そんなワケないやい!とイスから立ち上がる。
「べ、別に、たまたま知っている匂いがしただけで」
仲良くなりたいだなんて思ってないもん…とネロは顔を赤らめながら言う。
ヴィオラは、足を組み座る彼…或いは彼女の目の前にわざとらしく跪いてみせた。
「なんだい?」
鈴の鳴るような声と共に、純白の髪と深紅の瞳、雫型のピアスが揺れる。
「んーん、今日から正式雇用みたいなものでしょう?ご挨拶をと思って」
ねぇ?ニト様。そう言うと、ニトはため息をついて肩を竦めた。ニトは人ではなく…生物であるかどうかすら怪しい、人形のような見た目の"存在"である。性別などなく、年齢も、本名すら不明(あだ名や二つ名は多くある)、現在の職は魔術師だ。ヴィオラは、今日からニトのもとで"お手伝い"をすることになったのである。
「…それじゃあよろしくね、ヴィオラ」
魔術師はくすりと微笑んだ。
空の色が、淡く、薄く、引き伸ばされていく。
夏は、濃く、密度が高かった空が。
湖に薄氷が張る様に、色が淡く、密度も低くなる。
そしてある日、薄氷のカケラが落ちてくる。
薄氷の空から、冬を携えて。
・日和
異能:無生物の支配者
今回は裏で頑張ってました。描写が無かっただけです。2人ほど礼儀知らずをボコボコにしてたのです。手下(※みっちゃん)を(文字通り殺しても死なないので)平気で死地に向かわせる(敵に対しては間違いなく)冷血無慈悲の愚(※諸説あり)王。
・湊音
異能:時間の干渉者
今回は主人公。日和が後見している数々の異能者の中で、唯一彼女が積極的に絡みたがる異能者であり、また唯一日和を『女王』として持ち上げている。
干渉者級という弱い能力であるにもかかわらず、一瞬で意識を刈り取るか意識が無い時に即死させるかでもしない限りほぼ不死身というすごくすごい能力なので、ひぃちゃんでもうっかり死にかねない危険な現場には彼が出向きます。
最近はひぃちゃんに倣って上位存在しぐさも様になってきた。
・刃の青年
異能:刃の指揮者
問題児その1。異能は手足の振りが斬撃に変わるというもの。指揮者級であることで、その射程は数mほどにまで伸びている。多分数人やってる。
・イグアナの子
異能:イグアナの干渉者
問題児その4。異能はイグアナを周囲に勝手に寄ってくるというもの。彼女に触れたイグアナは彼女を守ろうとする。ちなみに繁殖スピードが数倍になる。覚悟の足りない飼育者が逃がしたイグアナがこの子の異能によって加速度的に増えていてちょっと大変なことになってます。
・落ちてきたイグアナ
イグアナの子の異能によって呼び寄せられ、ドームの一部になっていたイグアナのうちの1匹。うっかり落ちてきてみっちゃんを気絶させかけた。
今回一番湊音を追い詰めた存在。
“...!”
クリアウルフの顔から一切の表情が消えた。
“待
「じゃあね。」
彼女が杖を振る。
次の瞬間、クリアウルフの体を青い炎が包んだ。
「やれやれ、呆気なかったね。」
残念そうに呟く彼女。
不死鳥によって、外傷無く焼き殺されたクリアウルフを見ると。
「な...ッ⁈」
「やっぱり、か。外れて欲しかったんだけどね...。」
クリアウルフの死体。
その額には黒々と逆五芒星が刻まれていた。
「これは、使用禁止の魔術のはず...!どうして...!」
彼女はワイヤーを拾い上げ。
傍らの木に向かって投げつけた。
「マスター⁈何を...!」
「出てくれば善いのに。ねぇアリス?」
返事は無く、ワイヤーが切り落とされた。
「冬はいちばん星が綺麗に見えるんだよ」
夕方の雰囲気をまとった紺色の空に
少しずつ星がこぼれ落ちていく。
「え、種枚さん……?」
「いやァっははははは! ごめんね、君があんまり無知なものだから!」
種枚さんはなかなか歯に衣着せぬ言い方をしてくる。
「良いかい、君? 『霊感』とは、文字通り五感で霊体に干渉する能力だ」
こちらの胸の辺りを、やけに長く尖った爪の生えた指でつつきながら、種枚さんは言葉を続ける。
「霊体を感知する。それだけならそれは霊感でも何でもない。奴らの存在を知っているなら、誰にでもそのくらいできるものさ」
言いながら、種枚さんは親指で彼女の後方を指差した。
そちらに目をやると、さっき遭遇したあの巨大な人影が、物凄い勢いでこちらに突進を仕掛けてきているのが見えた。
「いやァ、思ったより早かったね。腕を1本奪ったのに……良いかい君」
自分を庇うように、種枚さんはあの人影に向けて一歩踏み出した。そういえばよく見ると、ハーフパンツから伸びた彼女の足は、何も履いていない素足のままである。
「霊感ってのは『こういうの』のことを言うんだ。覚えておきな」
彼女が僅かに重心を前に傾ける。瞬間、その姿が『消えた』。
人影は勢いそのままにこちらに突進してくる。種枚さんはどこに消えたのか。目だけを動かし探していると、すぐに彼女は見つかった。